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  構築法、くずれ落ちる

 23年度税制改正のうち、「整備法」としてごく一部を抜き出した法律が成立したが、国税通則法の大改正など歴史的な意味を持つ部分が「構築法」として継続審議となっていた。
 ところがこの「構築法」を修正する方針が打ち出された。
 「構築法」には納税者権利憲章の制定が入っていたのだが、政府は復興財源確保のため、妥協材料として国税通則法の大改正を見送るというわけだ。
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 どんな中身かを具体的に見る前に、キャッチフレーズをいうなら、「なんじゃこれ、とんでもないツマミ食い修正」というところだろうか。
 税務調査における納税者の権利関係にしぼって修正内容を紹介すると………
 肝心要の納税者権利憲章制定を見送る一方、次の点を盛り込んでいる。
1 調査における帳簿(写しを含む)の提出義務と留置を法律化する。
 * これは今まで条文がなかったので、帳簿やコピーの提出は拒否できた。また、留置規定もなく、帳簿等を調査官が署に持ち帰るには、本人同意の上でしかなし得なかった。仮に帳簿を調査官が借用していっても、納税者の要求ですぐに返還を求めることができた。
 法律化されると、調査官の求めに応じて帳簿書類を提出せざるを得なくなるとともに、返してほしいといっても、調査官は返さないこと(=留置)ができることになる。これは調査権力行使側に極端に有利な規定となる。
2 調査の事前通知と終了通知を法律で規定する。
 * 税務職員が質問検査権を行使する場合、あらかじめ日時等を事前に通知する。ただし支障ある場合には通知を要しないこととする。
 調査終了に関しては、是認なら書面による通知、更正事項がある場合には調査結果を説明し、修正申告書提出を勧奨することができる。これらを法律に明記するという。
 書面による通知は是認だけしか書き込まれていないので、実態としてはこれまでと何ら変わりがない。
3 すべての処分に理由を付記する。
 * これは当たり前のことである。行政処分には必ず理由がある。ところが、「記帳及び帳簿等保存義務がない者」への処分については適用しない、としている。
 当初、白色申告者に対して記帳義務を課す一方で処分には理由を付記するとしていたが、それが消えてしまった。
 となると、調査に関する理由付記は従前となんら変わらないことになる。調査で是正事項がでた場合、大半が調査官の修正慫慂によって修正申告書を出すため、更正決定と理由付記は事実上形骸化している。
 今回、「修正勧奨」も条文で明記され、調査側に法的お墨付きが与えられることになる。そうすると、修正慫慂という現状の行政手法がさらに強まる。このツマミ食い修正が成立することになれば、課税庁にとっては嬉しい限りだろう。納税者側は、すべて更正してくださいという方針に転換する必要がありそうだ。
 なお、個人の白色申告者に記帳を義務付けることは修正要綱に見当たらない。
4 更正の請求を5年間とするとともに、遡及も5年間とする。
 * 多く収めすぎた税金の還付を求めることができた期間は、これまで1年間であったが、これを5年に延ばす。これは納税者にとって前進である。
 ところが、調査による遡及期間も5年に延ばす。法人税はすでに5年遡及になっているが、個人事業者の申告所得税の更正期間はいま3年である。個人事業者にとって、5年間遡及は大変厳しい結果になると思う。
 収めすぎ税金の還付を求める請求権と、調査の遡及期間は何の連動性もない。調査の遡及期間は3年間でよいと思う。

  喜んでいる人は誰か

 修正はこのような内容になる。民主党は納税者の権利擁護をマニュフェストで打ち出し、政権交代に結びつけた。ならば納税者権利憲章の制定を見送り、調査権を強化する今回の「なんじゃこれ、とんでもないツマミ食い修正」はマニュフェスト違反である。
 財務官僚、課税庁側はしてやったりとほくそ笑んでいることだろう。