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  調査に拘る国税庁

コロナの影響で国税の調査が差し控えられていたが、10月上旬から再開している。
税務調査が主要な業務である税務行政にしてみれば、もう待てないというところか。
なぜ、かくも調査に拘るのであろうか。
それは、戦後の税制と税務行政を体系づけたシャウプ勧告がそのような方向付けを行い、それが延々と引き継がれているからに他ならない。
かいつまんで解説しよう。

  シャウプ勧告と税務調査

日本は敗戦で経済基盤がガタガタとなった。アメリカは占領下の日本を反共の砦に位置付けるが、資本主義経済体制が日本に定着し経済的基盤が安定しなければそれはかなわない。そのために経済と財政の立て直しが不可欠となる。
この二正面を税制・税務行政から政策化したのがシャウプ勧告である。
なにしろ敗戦直後で経済立て直しに必要な民間資金も公的資金も枯渇している。どうしても外資の導入に頼らざるを得ない。
外資が日本に金をつぎ込む理由は言わずもがなだが、投資によって儲かりお金が獲得できるからだ。なお、外資の投資先は大企業に限られる。
しかし、儲かっても課税されて多額の税金を納めるのであれば、外資にとって金をつぎ込む魅力はない。それでは反共の砦日本の復興と属国化はかなわないので、外資の儲けには税金を軽課するかかけない様にして、外資を呼び込む必要がある。
このアメリカの日本占領政策をしっかり理解しない限り、いま現在の税制・税務行政を正しく捉えることはできない。
シャウプはこの占領政策に沿う形で勧告を行った。
その肝は「法人擬制説」の採用である。それまでの日本は「法人実在説」により法人税を課していた。
シャウプ「法人擬制説」のキーポイントは、法人は株主の手段にすぎず、法人の所得は株主の所得であるという決めつけを行うことにある。
したがって、法人税は株主に課せられる個人所得税の前取り、ないし源泉課税とみなせるから、その帰結として大雑把な低率の定率課税でよいとする。
実在説なら大企業の儲けに応じた税率で課税することになるが、擬制説なら大企業の法人税率も低く抑えることができる。また、外国人株主の個人段階での課税はできないから、日本が課税されるべき所得は日本政府の課税外に逃れることになる。
このように、擬制説による法人税低率定率課税は、外資の呼び込みにも、大企業の復興にも資することになる。
しかし、もう一つの要請である財政の確保には結びつかない。
そこでシャウプは大衆的所得税制の再編成を行う。「全国民が支払う税」としての所得税の基盤を固めたのがシャウプである。
低い基礎控除の下で、国民の勤労所得に幅広く課税する所得税を財政の基幹税制とした。この税制は国民の協力なくしては成り立たないが、シャウプは国民が自ら進んでこの所得税を正しく納めるとは考えもしない。
そこで、人的控除の引き上げや税率の引き下げを通じて国民の協力を求めながら、他方で青色申告の特典による記帳の奨励や税務調査の充実により課税の合理化、所得把握の徹底を推し進め、それにより所得税の基盤を固めることとした。
シャウプが行ったこの手法は、戦後から今日に至るまで、延々と引き継がれている手法である。
今年も年末調整事務が始まろうとしているが、基礎控除や人的控除の改正に気を付けなければならない。それもシャウプの手法が引き継がれていることを物語っている。
こうして日本国民は、目先の改正に惑わされて、大企業の軽課、富裕層や外国投資家優遇の税制が温存されていることに関心が向かないようにされている。
税務調査も、大衆的課税の基盤とされているがゆえに、課税当局は何があっても推し進めようとする。
これは戦後一貫して変わるところがないことを知ってほしい。

  税制と税務行政の抜本的見直しを

いまの税制・税務行政が、戦後直後のそれをそのまま引きずっていることを改めて認識し、規模の小さな法人や個人事業主を悉皆的に調査しなければという税務行政が妥当なのか、そろそろ抜本的に見直す気構えを国民が示さなくてはならない時期に来ているのではないだろうか。