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   菅さんの独自理念ではない

 菅さんが総理大臣に就任するにあたり述べた理念は、「自助・共助・公助、そして絆」である。さらに、「消費税増税」を口にした。増税は将来の話だとトーンダウンしたが。
 この表明は、何のことはない。すでに法律に明記されていることを述べたに過ぎない。
 菅さんが、日本の国をこうしたいと独自に打ち出したものでも何でもない。
 この言葉を巡って、賛否の評論や見解が次々と表明されているが、すでに法律事項になっていることを指摘するものが殆どなく、ズレている感じがしてならない。

 各種世論調査で政治に何を望むかについて尋ねると、ほぼトップは「社会保障の充実」である。国民が切に望む政治的要求は社会保障の充実だということだ。
 したがって、政治家としても社会保障をどうするのかをいわないと、国民にそっぽを向かれることを知っている。
 菅さんが日本の政治のトップを担うにあたり、社会保障を真正面に取り上げるのはいわば必然のことである。

   法律が明記していること

 そこで言ったことがすでに法律に明記されている自助・共助・公助の既定路線である。
 国民の皆さんは、この菅さんの表明が何を意味するのか正確に知る必要がある。
 結論を端的にいおう。これから見てもらう法律は、次のようになっている。

① 「公助を充実するのは、消費税増税とのバーターだ」ということ。
② 「国が担う社会保障を充実してほしいのなら、消費税増税を呑め」、「消費税増税が嫌なら、社会保障の充実はないどころか、財源がないから社会保障の切り下げになるぞ」ということ。
③ 社会保障は所得税による所得再分配の考えを排除し、制度としてもそのような方法は一切取らず、社会保障を受けざるを得ない階層を含めた全国民が所得の多寡に関係なく等しく負担する消費税でまかなうことにしたから、つまるところはすべて自助になるということ。

 ついでだが、この「自助・共助・公助」は言葉として法律に書き込まれているが、定義は記載されていない。
 そこで各言葉の定義・意味を解説しよう。
 自助=自分や世帯の稼ぎで老親から子供まで親族全部の面倒をみなさいということ。
 共助=民間の各種保険(生命・医療・損害など)に入り、何かあったらその保険金で親族全部が困らないようにしなさいということ。
 公助=国や自治体は、自助・共助が出来なくて落ちこぼれたものに対して、消費税による財源の範囲で最低線ギリギリの助けを出すということ。ただし、大企業には世界で一番稼げるように税金を負けてやる公助は手厚く行うこと。

   法律を確認しよう

 これらの基礎知識の上で、法律を確認してみよう。
 その法律は「社会保障制度改革推進法」という。
 法律は次のように規定している。

(目的)
第一条 この法律は、近年の急速な少子高齢化の進展等による社会保障給付に要する費用の増大及び生産年齢人口の減少に伴い、社会保険料に係る国民の負担が増大するとともに、国及び地方公共団体の財政状況が社会保障制度に係る負担の増大により悪化していること等に鑑み、所得税法等の一部を改正する法律(平成二十一年法律第十三号)附則第百四条の規定の趣旨を踏まえて安定した財源を確保しつつ受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図るため、社会保障制度改革について、その基本的な考え方その他の基本となる事項を定めるとともに、社会保障制度改革国民会議を設置すること等により、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。

(基本的な考え方)
第二条 社会保障制度改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
一 自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと。
二 社会保障の機能の充実と給付の重点化及び制度の運営の効率化とを同時に行い、税金や社会保険料を納付する者の立場に立って、負担の増大を抑制しつつ、持続可能な制度を実現すること。
三 年金、医療及び介護においては、社会保険制度を基本とし、国及び地方公共団体の負担は、社会保険料に係る国民の負担の適正化に充てることを基本とすること。
四 国民が広く受益する社会保障に係る費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点等から、社会保障給付に要する費用に係る国及び地方公共団体の負担の主要な財源には、消費税及び地方消費税の収入を充てるものとすること。

(国の責務)
第三条 国は、前条の基本的な考え方にのっとり、社会保障制度改革に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

 もうお分かりだと思うが、この法律を廃止するか改正しない限り、社会保障は消費税の税収と一体であり、消費税を抜きにして社会保障は語れないということである。
 消費税を5%から8%、10%と二段階で倍に引き上げたのは、税と社会保障の一体改革で成立したこの法律のもとにおいてである。

   法律制定の経過とその後

 さて、この法律だが、この法律は、安部さんが口を極めてくさす「悪夢のような民主党政権」のもとで作られた。しかし、民主党一党で成立させたものではない。
 平成24年6月15日、「社会保障・税一体改革に関する確認書」なる三党合意文書が取り交わされた。
 この三党合意の下で、消費税増税と社会保障制度改革推進法が成立したのである。

   安部の巧言と社会保障

 安部さんの政治手腕はレトリックにあり、様々な巧言が使われているが、どうも国民はまともに受け取るらしく、民主党政権より安倍政権のほうが「まし」と考えている国民が多いようだ。国民は安倍政権に高い支持を表してきたし、また、菅政権発足にあたっても高い支持を示しているからだ。
 だが、社会保障に関しては、消費税が増税され財源が膨らんだから、法律どおりなら確実に充実されるはずが、安部政権においてすさまじい切り下げが行われてきた。
 年金切り下げ訴訟、生活保護費切り下げ訴訟が起きるほどである。

 そもそも、安部さんが言うように「悪夢のような民主党政権」のもとで作られたのであれば、三党合意があったとしても安倍さん得意の「そんなものはなかった」ことにして、民主党政権下の法律はすべて廃止するか改正してしかるべきであろう。
 それをせず、社会保障の切り下げにいそしんできたところがいかにも安倍政権である。

   インボイス移行で増収するが…
     消費税の増税不可避

 税・社会保障一体改革で成立した消費税のインボイス化は、免税事業者が課税事業者を選択せざるを得ないことから、財務省は毎年約2,600億円の増収になるとはじいている。
しかし、少子高齢化でこの程度の増収では年金財源や高齢者の医療費負担の増加、子育て支援を賄うことはできない。
 所得税や法人税など、他の税目による増収を据え置くなら、消費税増税は数年後には不可避となる。国債の発行で先送りする選択もあるが、それは時間を食いつぶしているに過ぎない。
 すべてを消費税に頼る政策の方向性が、日本経済を衰退させる大きな原因になっているのに、この方向を転換しようという政権党の動きがないところに日本の悲劇がある。

 菅さんは政権運営の理念を「自助・共助・公助」とし、民主党政権以降のかつ安部政治を引き継ぐと宣言した。これは袋小路にはまっている日本を脱却させることにはならない。もし、消費税引き上げに行くとすれば、日本を沈没させかねない。

 日本国民なら誰であっても安心できる社会保障制度と、誰もが無償で高度な教育を受けられる教育制度をつくり、その財源に世界一稼げる支援を受けてきた大企業に応分の負担をしてもらうことこそ、袋小路から脱却する道である。
 これはアベノミクスとはまったく違う経済政策でもあり、何の成果もなさなかった経済基盤を作ることになる。
 菅さん、引き継ぐだけが能ではないよ。