ze134.jpg

 東京税財政研究センターは、毎年度の方針が示される夏開催の統括官等の会議資料を開示請求したところ、11月上旬に開示された。
 その資料から、東京国税局の税務調査方針のポイントを確認しよう。資料の文面をそのまま選りすぐって簡潔にお伝えしたい。
 不開示のところがあって、税務調査の当局方針をすべて汲み取ることはできないが、おおよその傾向は読み取れると思う。
 *マークの青字の文書は筆者のコメントである。

<調査事務運営の課税部重点課題>
① 消費税の適正課税の確保への取り組み
 不正還付、固有の非違を念頭に置いた消費税調査に重点的に取り組む
② 国際化への対応
 CRSも活用して確実に調査を実施
   *CRSとは、OECDが策定した国際基準で、海外金融機関を利用した脱税を防ぐための「共通報告基準」のこと。各国が口座情報を電子データで自動的に交換し合う仕組み
③ 富裕層への取り組み
 富裕層を将来にわたる時間軸で捉えるとともに、関係個人・法人を一体的に捉えて適正課税を確保する
④ 無申告事案への取り組み
 組織的対応を図り効果的・効率的に取り組むが、選定にあたっては消費税、源泉所得税、贈与税の観点からも調査対象に選定する

<課税部門におけるデータを活用した調査選定の試行>
 選定の効率化及び選定精度の向上を図ることを目的
〇個人課税部門
 ・「Tableau」を用いての分析、可視化
   *タブローというソフト。民間が開発したソフトでデータの探索と管理を簡単に行える
 ・新たな視点で「真に調査すべき者」を浮かび上がらせる
〇資産課税部門
 ・すべて不開示
〇法人課税部門
 ・データに基づく管内の■■■■の傾向分析を踏まえた粗選定
 ・粗選定から調査対象法人を絞り込む際に有用と思われるデータの把握

<「税務行政の将来像」に向けた取り組み>
〇内部事務センター化に向けたロードマップ
 ・令和2年度~札幌局、関信局、東京局で試行
 ・令和3年度以降~センターの設置、センターへの統合、順次拡大
 ・令和8年度~全税務署を対象とした「内部事務のセンター化」の実施
   *これにより調査職員と調査事務量を確保。令和8年度はKSKシステムも全面改装するとしている。それに合わせて、中小法人の電子申告義務化など、データ・デジタル化がすすめられるとみてよい

<東京局法人課税の重点課題>
 上記課税部の重点課題に加えての課題
⑤ 人材育成……調査パフォーマンスの向上策
 新規施策
 ・SPSSの統計分析手法を用いたデータ活用を通じて、各種選定リストを還元
   *SPSSはIBMが開発した統計解析ソフト
 ・データを活用した調査選定の試行を実施
 継続施策
 ・調査事務の概要や調査事務の基本動作等について局署SAによる個別指導を実施
   *「基本動作」とは、①概況聴取調査、②現物確認調査、③金融機関調査のこと。調査未経験者はこれができていないから、不正を見つけられず、増差所得も上がらないと総括し、このテコ入れで調査能力を高めようとしている

<適正な課税処理>
① 重加算税の賦課にあたっては、仮装・隠蔽の事実内容の確認及び証拠書類の収集を確実に行うとともに、納税者に対して重加算税の賦課理由を十分説明する
② 大口・悪質な不正計算を行っている法人を把握した場合は、過去からの不正計算の状況、規模、除外資金の使途等の実態を十分解明するとともに、6・7年目に遡及すべき事案については、確実に是正する
③ 同族会社特有の恣意的な経理によって、不当に税負担の軽減等を図っていると認められる場合は、的確に是正する

<争訟見込み事案等の適切な処理>
 次のような事案は、速やかに争点整理表を作成し、課税要件等を整理する。
 なお、修正申告が見込まれる場合であっても、重加算税の賦課要件である仮装・隠蔽で争いがある事案については確実に上申する。
 ・調査着手後6か月以上の長期仕掛事案
 ・処分等の適法性の立証や判断が困難であるが、課税の均衡上、課税処分すべきと認められる調査又は課税困難事案

 *以上、ポイントを当局文書から拾い出したが、東京国税局における特に法人に対する調査方針を読み取っていただけたと思う。
 データの収集と活用を最新のデジタル処理を活用して調査に活用していくという流れがわかる。
 それにしても、争訟見込み事案の処理で「処分等の適法性の立証や判断が困難であるが、課税の均衡上、課税処分すべきと認められる調査又は課税困難事案」と臆面もなく記述しているが、この記述を素直に読めば、違法な課税処分もやれと指示していることになる。これは国会で取り上げ、是正させなければならないだろう。