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   法律は生きている

 消費税を5%から8%、10%へと二段階で引き上げるための法律が平成24年度税制改正で制定され、それに基づいて消費税率は引き上げられてきた。
 8%へはすんなりと、10%へは安部さんが2度にわたり引き上げ時期を引き延ばしたが、根拠となるのは次の法律である。
 なお、この法律は「悪夢のような」民主党政権下、自公も賛成して成立し、現安倍政権もこの法律の下にある。

「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」 (平成24年8月22日/法律第68号)

 長たらしい名前の法律だが、コロナ禍のいま、この法律に立ち返って税制の在り方を検討する必要があるのではないだろうか。
 というのも、この法律は消費税率の引き上げがもたらす弊害があることを前提に、諸施策を検討すべきとして法律に検討課題を書き込んでいるからだ。
 そこで、改めてその部分が書き込まれた第7条を確認してみよう。
 少し量は多いが、法律(抄)を実際に読んで確認していただければ、安倍政権のサボりと無策ぶりがよく理解されるのではないだろうか。
 法律で決めていることを確認することで、政策として何をすべきか、なぜすでに検討課題に挙がっていることがまったく政策論議にも挙がっていないのかがつかめると思う。
 安倍政権が低所得者に目を向けず、経済権力の主体になっている大企業と富裕層に都合の良いつまみ食い的政策を行っていることもよくわかるはずだ。

 第7条 税制に関する抜本的な改革及び関連する諸施策に関する措置
  ・第7条の規定は平成24年8月22日施行(その後の修正を受け、一、ロが追加された)

    *は、筆者のコメントである。

 政府は、社会保障・税一体改革大綱に記載された消費課税、個人所得課税、法人課税、資産課税その他の国と地方を通じた税制に関する抜本的な改革及び関連する諸施策について、次に定める基本的方向性によりそれらの具体化に向けてそれぞれ検討し、それぞれの結果に基づき速やかに必要な措置を講じなければならない。
一 消費課税については、消費税率の引上げを踏まえて、次に定めるとおり検討すること。
イ 低所得者に配慮する観点から、「番号制度」の本格的な稼動及び定着を前提に、関連する社会保障制度の見直し及び所得控除の抜本的な整理と併せて、総合合算制度(医療、介護、保育等に関する自己負担の合計額に一定の上限を設ける仕組みその他これに準ずるものをいう。)、給付付き税額控除(給付と税額控除を適切に組み合わせて行う仕組みその他これに準ずるものをいう。)等の施策の導入について、所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する

 * 検討課題のトップに挙げられているが、総合合算制度も給付付き税額控除もまったく具体化されていない。安倍政権は低所得者への配慮は政策として全く検討もしておらず、無策といってよい。無策というより、やるつもりがない。これは法律に違反していることだ。

ロ 低所得者に配慮する観点から、複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する。

 *軽減税率は導入されたが8%に据え置かれただけで、、諸外国が食料品0%としていることなど比して、生活必需品の税率は高く低所得者対策になっていない。
 以上ふたつの検討課題は、消費税率の引き上げに対処するものだということは、消費税を引き下げれば基本的に問題解消になるということでもある。

ハ 暫定的及び臨時的な措置として、社会保障の機能強化との関係も踏まえつつ、対象範囲、基準となる所得の考え方、財源の問題、執行面での対応の可能性等について検討を行い、簡素な給付措置を実施する。

 * 安倍政権は社会保障の切り下げしか政策化していない。そこに起きたコロナ禍で、バタバタと一律10万円の定額給付を実施したが、継続的な社会保障政策とは別次元のもの。各国はベーシックインカムが検討課題に挙がっている。暫定的・臨時的な措置ではなく、給付付き税額控除かベーシックインカムか、まさに税と社会保障の一体改革の具体化を進めるべきだ。

ニ 消費税の簡易課税制度の仕入れに係る概算的な控除率については、今後、更なる実態調査を行い、その結果も踏まえた上で、その水準について必要な見直しを行う。
ホ 消費税率が段階的に引き上げられることも踏まえ、消費税の円滑かつ適正な転嫁に支障が生ずることのないよう、事業者の実態を十分に把握し、次に定める取組を含め、より徹底した対策を講ずる。
ヘ 取引に際しての価格表示と消費税との関係については、外税、内税等に係る様々な議論を勘案しつつ、事業者間取引、相対取引等におけるその表示の在り方を含め、引き続き、実態を踏まえつつ、様々な角度から検討する。
ト 医療機関等における高額の投資に係る消費税の負担に関し、新たに一定の基準に該当するものに対し区分して措置を講ずることを検討し、医療機関等の仕入れに係る消費税については、診療報酬等の医療保険制度において手当をすることとし、医療機関等の消費税の負担について、厚生労働省において定期的に検証を行う場を設けることとするとともに、医療に係る消費税の課税の在り方については、引き続き検討する。

 * 医療に対する国の政策が改めて問われる。

チ 住宅の取得については、取引価額が高額であること等から、消費税率の引上げの前後における駆け込み需要及びその反動等による影響が大きいことを踏まえ、一時の税負担の増加による影響を平準化し、及び緩和する観点から、住宅の取得に係る必要な措置について財源も含め総合的に検討する。
リ 消費税及び地方消費税の賦課徴収に関する地方公共団体の役割を拡大するため、当面、現行の制度の下でも可能な納税に関する相談を伴う収受等の取組を進めた上で、地方公共団体における体制の整備状況等を見極めつつ、消費税を含む税制の抜本的な改革を行う時期を目途に、消費税及び地方消費税の申告を地方公共団体に対して行うことを可能とする制度の導入等について、実務上の問題点を十分に整理して、検討する。
ヌ 酒税、たばこ税及び石油関係諸税については、個別間接税を含む価格に消費税が課されることが国際的に共通する原則であることを踏まえ、国及び地方の財政状況、課税対象となる品目をめぐる環境の変化、国民生活への影響等を勘案しつつ、引き続き検討する。
ル 酒税については、類似する酒類間の税負担の公平性の観点も踏まえ、消費税率の引上げに併せて見直しを行う方向で検討する。
ヲ 森林吸収源対策(森林等による温室効果ガスの吸収作用の保全等のための対策をいう。)及び地方の地球温暖化対策に関する財源確保について検討する。
ワ 燃料課税については、地球温暖化対策等の観点から当分の間税率が維持されていること及び平成24年度以降において石油石炭税の税率の上乗せを行うこととしたことも踏まえ、引き続き検討する。
カ 自動車取得税及び自動車重量税については、国及び地方を通じた関連税制の在り方の見直しを行い、安定的な財源を確保した上で、地方財政にも配慮しつつ、簡素化、負担の軽減及びグリーン化の観点から、見直しを行う。
ヨ 印紙税については、建設工事の請負に関する契約書、不動産の譲渡に関する契約書及び金銭又は有価証券の受取書について負担の軽減を検討する。
二 個人所得課税については、次に定めるとおり検討すること。
イ 金融所得課税については、平成26年1月から所得税並びに個人の道府県民税及び市町村民税をあわせて100分の20の税率が適用されることを踏まえ、その前提の下、平成24年度中に公社債等に対する課税方式の変更及び損益通算の範囲の拡大を検討する。
ロ 給与所得控除については、給与所得者の必要経費に比して過大となっていないかどうか等の観点から、実態を踏まえつつ、今後、その在り方について検討する。
ハ 年金課税の在り方については、年金の給付水準や負担の在り方など今後の年金制度改革の方向性も踏まえつつ、見直しを行う。

 * 二のイロハは、そもそも累進税率の強化を回避し、所得再分配の抜本的改革をすり替えるもので、不労所得軽課、勤労所得重課を推し進めるもので、検討する方向がずれている。

ニ 個人住民税については、地域社会の費用を住民がその能力に応じて広く負担を分かち合うという個人住民税の基本的性格を踏まえ、次に定める基本的方向性により検討する。
(1) 税率構造については、比例税率を維持することを基本とする。
(2) 諸控除の見直しについては、所得税における諸控除の見直し及び低所得者への影響に留意する。
(3) 個人住民税の所得割における所得の発生時期と課税年度の関係の在り方については、番号制度の導入の際に、納税義務者、特別徴収義務者及び地方公共団体の事務負担を踏まえつつ、検討する。
三 法人課税については、平成27年度以降において、雇用及び国内投資の拡大の観点から、実効税率の引下げの効果及び主要国との競争上の諸条件等を検証しつつ、その在り方について検討すること。

 * 消費税率の引き上げは、法人税率の引き下げの財源となった。大企業の要求通りの政策。この法人税率引き下げ競争の口火を切ったアイルランドは、経済不況に陥っている。企業の税率を下げても、いいことはない。各国は税率引き下げ競争をやめようという動きになっているのに、それに逆行するもの。日本の不況も実はこの法人税率引き下げに原因があるといっていいのだ。

四 資産課税については、次に定めるとおり検討すること。
イ 事業承継税制について、中小企業における経営の承継の円滑化の運用状況等を踏まえ、見直しを行う。
ロ 相続税について、老後における扶養の社会化が高齢者の資産の維持に寄与している面もあることも踏まえ、課税方式を始めとした様々な角度から引き続きその在り方を検討する。
五 地方税制については、次に定めるとおり検討すること。
イ 地方法人特別税及び地方法人特別譲与税について、抜本的に見直しを行う。
ロ 地方法人課税の在り方を見直すことにより税源の偏在性を是正する方策を講ずることとし、その際には、国と地方の税制全体を通じて幅広く検討する。
六 番号制度については、税務における一層の適正かつ円滑な利用を確保する観点から、調書の拡充による必要な情報の収集等に関する各種の施策について、納税者及び事業者の事務負担等にも配慮しつつ、引き続き検討すること。
七 国際的な取引に関する課税については、国際的な租税回避の防止、投資交流の促進等の観点から必要に応じて見直すとともに、国際連帯税について国際的な取組の進展状況を踏まえつつ、検討すること。
八 年金保険料の徴収体制強化等について、歳入庁その他の方策の有効性、課題等を幅広い観点から検討し、実施すること。

 どうだろうか。法律でうたっている検討課題。経済権力の主体である大企業や富裕層に都合の良いところは先取りし、それ以外はまったく無視する安倍政権の姿が明らかになったと思う。低所得者への施策を実施しろと、声を上げていこう。