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   根深い社会問題

 復興財源に絡む建設業界のキックバック横行を、朝日新聞が7月27日からシリーズで取り上げた。
 名だたるゼネコンで、下請けからキックバックを吸い上げている実態が社会問題として取り上げられたのだ。
 この問題は、日本社会の封建的なあるいは身分制的なもとで続く悪弊であり、明らかな犯罪だが、改まる気配がない。
 朝日も取り上げているように、キックバックの実態が明らかになるのは、圧倒的に税務調査によってである。その点で、税務調査と調査官の質問検査権の行使は、単に申告漏れを調査するにとどまらない役割があるのではないだろうか。

   質問検査権と社会的不公平

 この点について、「租税行政と権利保護」(95年・ミネルバァ書房)で、曾和俊文三重大学人文学部教授(当時)は「質問検査権をめぐる紛争と法」と題する論文を載せている。
 その論文で、経済権力による社会的不公平の広がりがすさまじく、その是正のために積極的な質問検査権の行使が求められる局面が増えており、質問検査権の統制を私人の権利・利益の視点から制限的に考察するだけでは十分ではないと曾和教授は指摘していた。

   下請け業者と税理士の立場

 筆者も考えることが多い。典型例はキックバックであるとずっと考えていた。
 建築業を例にすれば、元請会社の下請担当がもつ生殺与奪権を利用して押し付けるキックバックは、下請にとって必要悪として受けざるを得ない現状がある。当初からこれを原価に組み込んだ施工代金が設定されているから、施主は不当に高い代金を支払うことになる。これが公共施設であり税金で建築されるものであれば、税金の詐取に当たり、正に社会悪である。
 バックする側の下請にもおこぼれはあるが、バックした金額の税金は役員報酬からの支払いや役員貸付金として処理したとしても、つまるところは下請が負担することになる。税金を負担したくないとか、キックバックそのものを隠ぺいしようとすれば、その工事があったかのように架空の原価を計上することになる。
 下請にすれば、事業存続という私人の利益に直結する支払であり、法人であれば合理的な経済行為になり、個人であればその事業に関する必要経費だといわざるを得ない。しかし、それを証明する領収書等はない。
 このキックバックにおいて、申告時のチェックを行う税理士としては、税制において使途秘匿金課税により代替課税が行われることを告知したうえで、架空経費を計上せず、役員報酬や役員貸付金で対応させるしかない。

   税務調査でも限界がある

 税務調査でこれが判明しても、誰にバックしたかを秘匿することが絶対的な条件であるため、調査官に支払先を情報提供することはない。ここでは、私人の利益の前に申告納税制度の相互チェックの片方のチェックが機能しなくなる。その結果、真に所得を得た者の税金が課税されないことになる。まじめに納税しているものにすれば、社会的不公平の問題となる。
 この社会的不公平の問題を下請やその申告に携わる税理士に求めるのは限界があるのであって、権力的行政調査が適正に行使されて真の所得者の所得として正しく認定することが求められる。使途秘匿金課税という安易な代替課税に税務官庁が頼るのは、質問検査権の放棄に他ならない。税理士としてこのような調査に立ち会ったとしたら、調査官に対して法人の利益を守ることを保障するなら支払先の情報を提供するので、真の所得者に対して適正な課税を行ってほしいと投げかけることはできる。
 このとき、おそらく調査官は情報の取得先は秘して対応するというだろう。しかし、現状では取引継続を保障するものではない。調査官もそれを確約できないため、質問検査権も中途半端な行使にとどまり、下請に対する課税処理でお茶を濁しているのが現状ではないだろうか。

   法的な規制で一掃する構えが必要

 これを解決するには、使途秘匿金課税の逆バージョンのルール、例えばキックバックを求めた個人の秘匿所得に対しては犯則調査対象とし金額の高に関係なく無申告ほ脱犯として告発するとともに、キックバックを見逃していたという管理者責任を問う形で、その所属法人に対してキックバック認定額の100%の課徴金を課すような制度を設けるべきだと考える。
 こうした社会的不公平の是正措置に本格的に取り組まなければ、申告納税制度の重要な機能である質問検査権の適正な運用は表層のものにとどまり続け、国のあり方も変わるところがないと考えている。