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  2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災。すさまじい被害が生じ、被災者はいまだに自宅にも戻れず、仮住まいを強いられている。
 すでに9年もたっているのに、なぜこんなことが解決できないのか。

 東日本大震災は「国難」と位置付けられた。法律で「未曽有の国難」と規定しているのだから、日本存亡の危機というわけである。そして、基本理念で規定していることは全国民一致団結して復興にまい進しようと呼びかけている。なにやら戦前、戦中の国民向けプロパガンダを思い出させる。
 念のため、法律でしっかり確認しておこう。

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東日本大震災復興基本法
(目的)
第一条 この法律は、東日本大震災が、その被害が甚大であり、かつ、その被災地域が広範にわたる等極めて大規模なものであるとともに、地震及び津波並びにこれらに伴う原子力発電施設の事故による複合的なものであるという点において我が国にとって未曽有の国難であることに鑑み、東日本大震災からの復興についての基本理念を定め、並びに現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現に向けて、東日本大震災からの復興のための資金の確保、復興特別区域制度の整備その他の基本となる事項を定めるとともに、東日本大震災復興対策本部の設置及び復興庁の設置に関する基本方針を定めること等により、東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図ることを目的とする。
(基本理念)
第二条 東日本大震災からの復興は、次に掲げる事項を基本理念として行うものとする。
一 未曽有の災害により、多数の人命が失われるとともに、多数の被災者がその生活基盤を奪われ、被災地域内外での避難生活を余儀なくされる等甚大な被害が生じており、かつ、被災地域における経済活動の停滞が連鎖的に全国各地における企業活動や国民生活に支障を及ぼしている等その影響が広く全国に及んでいることを踏まえ、国民一般の理解と協力の下に、被害を受けた施設を原形に復旧すること等の単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策及び一人一人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる復興のための施策の推進により、新たな地域社会の構築がなされるとともに、二十一世紀半ばにおける日本のあるべき姿を目指して行われるべきこと。この場合において、行政の内外の知見が集約され、その活用がされるべきこと。
二 国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の連携協力並びに全国各地の地方公共団体の相互の連携協力が確保されるとともに、被災地域の住民の意向が尊重され、あわせて女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと。この場合において、被災により本来果たすべき機能を十全に発揮することができない地方公共団体があることへの配慮がされるべきこと。
三 被災者を含む国民一人一人が相互に連帯し、かつ、協力することを基本とし、国民、事業者その他民間における多様な主体が、自発的に協働するとともに、適切に役割を分担すべきこと。
四 少子高齢化、人口の減少及び国境を越えた社会経済活動の進展への対応等の我が国が直面する課題や、食料問題、電力その他のエネルギーの利用の制約、環境への負荷及び地球温暖化問題等の人類共通の課題の解決に資するための先導的な施策への取組が行われるべきこと。
五 次に掲げる施策が推進されるべきこと。
イ 地震その他の天災地変による災害の防止の効果が高く、何人も将来にわたって安心して暮らすことのできる安全な地域づくりを進めるための施策
ロ 被災地域における雇用機会の創出と持続可能で活力ある社会経済の再生を図るための施策
ハ 地域の特色ある文化を振興し、地域社会の絆きずな の維持及び強化を図り、並びに共生社会の実現に資するための施策
六 原子力発電施設の事故による災害を受けた地域の復興については、当該災害の復旧の状況等を勘案しつつ、前各号に掲げる事項が行われるべきこと。
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 国家総動員法かと思わせる書きぶりの基本法。これを受けて財源確保の特別措置法が打ち出された。それが「復興特別税」(所得税と法人税)である。
 国民一人一人が協力せよとの基本法を受けての新税であるから、所得税を納めている者全員が負担に協力しろ、それが国民の義務だというわけである。
 2012年度(平成24年度)から25年間(2037年まで)にわたって負担する復興特別税(所得税と法人税)が導入され、復興のための財源措置を確保するとした。
 なお、復興特別法人税はすでに廃止され、復興特別所得税だけが継続して国民はこの増税を負担し続けている。大企業は早々と逃げることに成功したわけだ。
 この特別措置法では使途も規定されている。
 この点も法律で確認しよう。次の長たらしい法律名が正式の法律である。

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「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」
(復興特別税の収入の使途等)
第七十二条 平成二十四年度から平成四十九年度までの間における復興特別税の収入は、復興費用及び償還費用の財源に充てるものとする。
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 復興特別所得税は目的税で、その使途は「復興費用」に充てると明記されている。被災者はこの財源で救済されると思うからこそ、かなり胡散臭い総動員法的な増税でかつ25年間にもわたる増税を国民は受け入れているのだ。
 ところがである。
 増税を押し付けていながら、使い道について国民はチェックが甘いと見くびっている輩がいて、利権をむさぼったり、目的と程遠い金遣いを平気でやるコズルイ者たちがいる。
 この財源を使って、荒川税務署のリフォームが行われた。税務署の耐震化工事が行われたのである。
 被災者がいまだに仮住まいしているのに、その解消のためにお金を使わず、税務署の建物に復興財源をつぎ込んだのだ。
 荒川税務署のリフォームが復興費用であろうはずがない。
 しかし、この予算を勝ち取った財務省は、法律に沿ったものだから問題ないとうそぶいている。復興基本法第2条5号イに該当するからだというのだ。
 被災者救済などお構いなしに臆面もなく財源を食い物にする官僚たち。それをそのまま認める政治の貧困。
 法律で決めることだから間違いないだろうと思われるだろうが、抜け道をついてうまい汁を吸おうとしている者がいて、国民が純粋に受け入れて負担している税金がとんでもない使われ方をしているのだ。

 コロナ禍による深刻な生活破壊、営業破壊がいま現在進行中である。
 政府は第1次補正予算、第2次補正予算を成立させ、問題は山積みだが、財政出動でそれらの緩和を措置しつつある。
 東日本大震災は法律上も「国難」と規定されている。コロナ禍はそれに匹敵する「国難」であるから、財政出動はやむを得ない。
 この財源はすべて国が借金することで賄われる。その結果、国の借金は約1,000兆円になる。この利払いだけでも大変で、プライマリーバランスが実現する年度はさらに先送りになる。
 そうすると、大震災の復興特別税に倣って、新税を導入して借金を返さざるを得ない。
 差し詰め、「国難回復税」とかの名称で国民の意識を誘導して新税を導入するのか、それとも簡便な方法として現行の復興特別所得税2.1%の税率を5%とか8%とかに引き上げ、2037年まで今後17年間も国民に増税を押し付けることが想定される。
 復興特別税で経済権力側はうまくいったと思っている。それによって、富裕層や内部蓄積をため込んでいる大企業への課税を回避し、庶民増税でいけるという悪知恵がついた。
 しばらくしたら、必ず増税が政治日程に上ってくる。その時、復興特別税が誰に対して課税され、どのように使われているのかをよく検証し、今後の新増税についてもトータルにチェックしなければ、気のいい国民は詐欺に引っかかることになりかねない。
 経済権力の国民誘導策を冷徹に見抜き、「国難」を乗り切るための財源はふさわしいものが負担すべきだと主権者能力を発揮しなければ、またしても愚弄されることになる。