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 新型コロナウィルスは図らずも各国のあり方をあぶりだすことになった。端的にいえば、経済権力が自分たちに都合のいいようにルールを変えてきた社会は、人類の歴史において不都合な世界にいたっているということである。
 フランスの経済学者トマ・ピケティ氏は、新型コロナウィルスの影響で「暴力的な不平等を目の当たりにしている」として、各国のコロナ対策で想定される多額の公的債務への対処については公正な税制を確立することが必要であり、富裕層への課税が有効だとの認識を示したと報道されている(英国ガーディアン紙5月12日付)。
 税制に限っても、所得税のフラット化、法人税の引下げ競争、移動性の高い金融所得への軽課、労働・消費・不動産など非移動性所得への重課、課税権力を跨ぐデジタル稼得所得の不課税などが経済権力によってルール化されてきた。
 その公的財源が、スウェーデンのように国民全員に再分配される政治であれば政治として機能しているといえるが、日本のように国民への再分配を切り下げている国では、結果的に下から上への所得再分配がルール化された社会に仕立て上げられてしまった。
 それが経済権力が望んだ社会であるため、コロナ危機に対しても社会変革を伴うような対策が取れるはずもなく、場当たり的な対策しか取れない限界性を示している。

 そこで、経済権力によって作り上げられてきた税制のルールを変え、等しく国民が安心できる社会のための財源を確保するため、当面の税制とこれからの税制について、字数の関係でごく限られた問題を骨格だけとなるが取上げてみたい。

 1 内部留保への課税
 法人税の税率引下げは消費税増税と引き換えに行われてきた。下から上への典型的なルール変更である。正義があるとはいえない。それで蓄積した企業の内部留保は不正義で得たものだから、国民に返還すべきものである。
 財務省の2018年度法人企業統計によれば、金融・保険業を除く全企業の内部留保金額は463兆円となっている。このうち、「現金・預金」は223兆円で、10年前(2008年)の1.5倍になっている。
 2008年といえばリーマンショックの年である。トヨタはそのときの現預金が3兆円だったが、2020年3月期の現預金は8兆円になっているという(決算説明)。12年間で現預金を5兆円増やしている。
 この現預金の溜め込みの半分を臨時課税によって国庫に返してもらえば、即時に110兆円の現金が国庫に入る。国民ひとり当たり10万円配布で12兆円であるから、国債に頼らなくても10ヶ月連続して現金配布は可能である。
 企業側にはまだ半分の110兆円の現預金が残っているのであるから、存続危機にはいたらないだろう。

 2 法人税改革
 格差社会を経済権力は作り出してきた。それを変えるために法人税を変え、それによって企業自体を変え、社会を是正する必要がある。
 参考とすべきはカリフォルニア州議会が2014年に導入した法人課税方式である。
 CEOの報酬がその企業の平均的労働者の賃金の100倍以内なら法人税率を0.8%下げ、25倍以内なら税率を1%引き下げる。反対にCEOの報酬が平均的労働者の200倍以上であれば1.5%、400倍以上であれば4.2%税率を引き上げる。アメリカは平均的労働者の賃金に対するCEO報酬の比率を開示することは既に企業に義務付けられているから、企業に対しては税負担と市民による社会的な視線による統制が働くことになる。さらにカリフォルニア州の優れている点は、高率適用逃れのため低賃金の仕事を多く下請に出すほど高い税率を課すようにしていることだ。
 飴だけの日本の所得拡大促進税制が賃上げに機能していないことや、消費税対策のため社員を下請化した日本と比べても、この方式の社会的な有効性が伺える。

 3 金融取引税導入
 金融が資本主義を変えたといわれている。ケインズは1936年当時、既に金融が投機に走り実体経済を侵食する事態に対して、「証券取引に対する課税」を提案している。EUが導入を進めている「金融取引税」(2021年に実施の動き)の起源といえる。
 富裕層や大企業をより豊かにし、庶民は参加することもままならない金融取引のグローバル化、高度化・高速化、投機化は、経済権力の源泉ともなってきた。これを抑制しない限り、経済権力の変革は進まずコロナ危機のような事態に対しても有効な政策を手当てすることはできないし、南北格差に対する世界的な対策もとれない。
 その国において、金融取引の売り買いの両方の取引という行為に低率で課税する税制であり、売買差益という所得に課税するものではないので、現在のコンピュータ技術をもってすれば各国における課税権力は十分に課税可能となる。回数が多いほど納税額は増えるので、抑制効果は大きいし、税収も見込まれる。各国連帯して、本格的な導入を図るべきといえる。

 4 国際連帯税
 フランスは2006年から国際連帯税を創設し実施している。フランスの空港から離陸するすべての乗客が課税対象になり、エコノミーに比べファーストクラス・ビジネスクラスの税率は高率になっている。これで得られた財源は「国際医薬品購入ファシリティ」という国際機関を通じて、途上国の感染症対策(エイズ、マラリア、結核などの薬剤購入)に用いることになっている。
 自国から海外に行くという行為は、ビジネスであれ観光であれ、十分に税負担にかなうものであり、フランスの思想は感染症対策に対する世界的な連帯としても優れている。各国で創設し、しかるべき国際機関の財源に充てるひとつの思想を提示するものであり、金融取引税の財源配分問題も含め、一国の枠で税制を考えては先に進まない時代になったと認識すべきであろう。

 コロナ危機によってさまざまな問題が露呈した。いろいろな視点から問題の解決を探らなければならない。そのひとつであろう税制に関して、材料を並べてみた。みんなの知恵を結集し時間をかけずに手早く料理していいものを提供しないと、世界の多くの人々は病死するか餓死するしかない。税制を改革して、安心して生きていける世界にしたい。