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  5月25日の新聞を読んでいると目を引く記事が

 リクルートホールディングスと傘下のリクルートが、運営する情報サイトや発行する雑誌の記事執筆などを委託した外部のライターらに消費税分計約6,400万円を上乗せして支払わなかったとして、公正取引委員会は24日、消費税転嫁対策特別措置法に基づき再発防止などを勧告したというのだ。

 消費税転嫁対策特別措置法は平成25年10月1日から施行された法律で、令和3年3月31日まで適用される。

   どういうことかというと……

 リクルートは旅行情報誌「じゃらん」などを発行しているが、社外の色々なライターに記事の執筆を委託している。
 こうした委託の慣例的な流れは、テーマにふさわしい原稿を頼むとき、「原稿料5万円でお願いします」というような依頼となる。相手が受けてくれれば、それで成立だ。このとき、ライターに請求書を求めることはまずない。
 そして、相手が個人なら5万円から源泉所得税5,105円(税率10.21%)を差し引いて44,895円を振込み、後で源泉徴収票を渡して一件落着となる。

 支払者のリクルートにすれば、あとは自社内の経理処理が済めばよい。個人のライターが単なる趣味人か、事業者か、はたまた免税事業者か、課税事業者かなど関係ない。
 現行の消費税法では、相手が事業者でなくても、つまり誰であっても、その支払については消費税法の規定に従って帳簿類の記帳保存があれば仕入税額控除の対象になるので、気にする必要がないのだ。

 この事例では、支払伝票で対応していると思われる。そうすると消費税の区分記載がないから5万円が税込額の支払となり、50,000円÷1.08×0.08=3,703円が仕入税額となる。
 リクルートは自社の経理処理も何ら問題はないと思っていたはずだ。

    ところが……

 公取は、「5万円でお願いします」という場合の5万円は「本体価格=税抜額」ではないかと捉えて、それで44,895円しか支払わないのは、消費税分の全部を対価から減じたことになると判定した。

 最も記事によると、リクルートは本体価格に消費税分を上乗せして支払う契約だったが、ライター側が不注意で請求しなかったり、担当者が請求しないよう求めたりしていたというから、単なるこれまでの慣行より悪質とはいえる。

 そこで、公取委は速やかに減額分を支払い、勧告内容を周知徹底するよう求めたという。
 リクルートは「特措法とガイドラインの理解が不十分だった。勧告を真摯に受け止め、再発防止に努める」とコメントしたとある。

    転嫁特措法を確認しておこう

 特措法は、個人事業者や資本金3億円以下の事業者と継続的に取引を行っている法人事業者対しては次の行為を禁止している。
 ① 減額~本体価格(抜額)に消費税を上乗せしない場合。
 ② 買いたたき~消費税引き上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定めること。
 ③ 商品購入等の要請~本体価格に消費税の上乗せを受け入れるが、見合いに買手の商品等を買うよう要請すること。
 ④ 本体価格での交渉拒否~本体価格(抜額)で交渉したいという申し出を拒否すること。
 ⑤ 報復行為~転嫁拒否された事業者が公取などに知らせたことを理由に、取引減額や取引停止などの不利益取扱いをすること。

 なにやら10%へ引上げを忖度した公取のパフォーマンスのような感もするが、小規模事業者は現行でも使える法律といえる。
 事業者が本来負担する仕組みになっていない消費税だが、転嫁できなければ事業者の負担となる。きっちりと本体価格に消費税を上乗せして取引するようにしよう。