これが次のようになる。
中小企業だけが対象となる所得拡大促進税制は要件が一つになる。
■ 要件
➣ 継続雇用者給与等の支給額が対前年度から1.5%以上増加していること。
該当すれば、前年度からの増加額の15%が税額控除できる。
継続雇用者となる者も単純化された。
適用年度とその前年度の両年度で1年間丸々給与の支給がある者だけが対象となる。
<概念図①> Aさん一人だけの場合
前事業年度1年間支給額 当期1年間支給額 増加額 増加率
Aさん 4,000,000円 4,060,000円 60,000円 1.5%
この場合は要件を満たすので、60,000円の15%=9,000円が税額控除できる。
ただし、法人税額の20%が限度なので、法人税の課税所得が200,000円で法人税15%=30,000円の場合、30,000円×20%=6,000円が控除額となる。
<概念図②> AさんとBさんがいる場合
前事業年度1年間支給額 当期1年間支給額 増加額 増加率
Aさん 4,000,000円 4,060,000円 60,000円
Bさん 3,000,000円 3,020,000円 20,000円
合計 7,000,000円 7,080,000円 80,000円 1.42%
この場合は要件を満たさないので税額控除はできない。
改正前は、新設法人も対象となっていた。給与等の支給があり法人税額が出る新設法人は旧3要件をクリアするので確実に税額控除が適用となる。
改正後は、新設法人は適用できないことになった。
税額控除については、上乗せ措置もある。
増加額が前年度比2.5%以上増加していることに加え、次のいずれかを満たしている場合は増加額の25%(法人税額の20%を限度)が税額控除できる。
① 教育訓練費が前年度対比で10%以上増加していること。
② 経営力向上計画の認定を受け、経営力向上が証明されていること。
過去の教育訓練費がゼロの場合、当期に教育訓練費があれば①の要件を満たすことになっている。ここも注意しておきたい。
中小企業にとって計算は単純になったが、改正前に比べると継続雇用者全員に1.5%以上の賃上げが条件となることが、改正前に比べてハードルが高くなるといえそうだ。
というのも、改正前は基準年度対比は5年も前なのでクリアしている場合が多く、他のふたつの要件は1円でも増加していればよかったからだ。
そもそも、この税額控除があるから1.5%の賃上げをしようという経営者は少ないのできないだろうか。
赤字であれば税額控除はあり得ない。法人税が出て始めて、結果として、賃上げに対するわずかばかりの「補助金」を貰うことになる。
法人税を払うことが確実な中小企業の経営者なら別かもしれないが、約7割が欠損の申告をしている中小法人において、その「補助金」を貰うために法人税を出そうとにらみ、景気の動向をにらみ、人員確保をにらみ、労働生産性をにらみ、経営の安定と継続をにらんだうえでの賃上げを判断するであろうか。
3月26日、三菱UFJ銀行が今春闘で組合が提示した基本給0.5%の引上げ要求を上回る1%の賃上げに踏み切ると報道された。三井住友とみずほはベースアップを見送るという。
ここには、この税制改正の影響はみじんも見られない。
賃上げ誘導税制として、本当に効果があるのか疑問といわざるをえない。