8月29日、一橋大学名誉教授の石弘光氏が8月25日に亡くなっていたと朝日新聞が報じた。
石氏は24年間にわたり政府税調の委員を務め、2000年から2006年の6年間は税制調査会長を務めた。
石氏死去の報に接し、平成14年(2002年)6月、税制調査会が出した「あるべき税制の構築に向けた基本方針」に触れておこう。石氏はこの基本方針を出した時の税制調査会長である。
実は、この基本方針で打ち出した増税策が現在の税制改正の基本になっている。
➣ 法人税については、企業の自由な活動を妨げない中立的な税制を構築するとした。
これがその後の一連の法人税率引き下げとして措置されてきた。
そして、この基本方針で、法人税の減税に対する代替財源を大衆課税で措置する方針を打ち出した。
➣ 所得税については、諸控除の見直しを図るとした。
配偶者控除をはじめとする人的控除の見直しにあたり、基礎控除の拡充を考慮するとした。この方針がほぼそのまま平成29、30年度の所得税改正になっている。
➣ 消費税については、中小事業者向けの特例見直しと税率水準の見直しを図るとした。
免税点の引下げ、簡易課税適用基準の引下げがこの方針によって行われた。
また、消費税税率が二桁税率になるときは、食料品への軽減税率とインボイスの導入を検討すべしとした。
来年10月から10%に引上げられる際に、食料品への軽減税率導入とインボイス導入を行う方針を打ち出したのはこの基本方針においてである。
➣ 相続税については、より広い範囲に適切な負担を求めるべきとした。
その後、基礎控除が60%も引き下げられた。
➣ 地方税については、個人住民税の諸控除見直し、法人事業税への外形標準課税導入、固定資産税の安定的確保をとりあげた。
外形標準課税が導入され、今のところ大企業に限定されているが、全法人への適用が方針である。
石氏は、消費税の二桁税率実施を見ることなく死去されたが、税制としては成立しており、自分が打ち出した基本方針通りに大衆増税が進んでいることに満足していたのではないだろうか。
だが、石氏が会長として指し示した大衆課税、大衆増税路線はこれからが本格適用となり、その効果や結果により日本の財政が立ち直り、国民が安心して暮らせる国になるかどうかは未知数である。未知数というより、大変危ない方向に向かう虞がある。
石氏が会長時に残した「あるべき税制」は、大企業中心主義のアベノミクスと親和的であり、大企業だけが栄える結果になりかねないからである。石氏には、もう少し長生きしていただき、「あるべき税制」の結果に論評をいただきたかった。