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  クレジット決済に誘導

 「キャシュレス後進国」を返上しようと、経済産業省が躍起になっている。クレジットカードや電子マネーなどを使った国内の支払い比率を2025年までに40%まで引き上げる目標を掲げ、所得控除など消費者への税優遇策を探っている。
こんなニュースが流れた。

  韓国は約90%がクレジットや電子決済だという。これに近づけたいというわけだ。
 税優遇策に対しては財務省が抵抗するとみられているが、果たしてそうか。
 韓国はクレジット決済情報は国税庁に通知が義務付けられている(罰金あり)。

   個人間の借り貸しで
     印紙が何の役に立つの?
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  また、韓国では電子インボイスはリアルタイムで、紙ベースは毎月報告で国税庁が全数を把握する体制となっている。このため、韓国国税庁は現金取引やクレジット決済取引はすべて把握しているので、税金納付のゴマカシはないとうそぶいている。日本の財務省も狙っているのではないか。
 ところで、印紙税の取扱いになると、これが実に不可解で、やはり印紙税は廃止が妥当といわざるをえない。

  同じ領収書だが

 例えば、営業者が物を売って5万円以上の代金をもらうとき、領収書を相手に渡すが、現金で代金をもらった時は印紙を貼らなければならない。
 ところが、クレジットによる支払いを受け、それに対して領収書を渡しても、印紙を貼る必要はない。理由は、現金をもらっていないから。
 では、電子マネー(デビットカードなど)で支払いを受けるときの印紙の扱いはどうなるのか。これは現金を受け取っているわけではないが、現金と同じ扱いになって印紙を貼らないといけない。
 クレジット払いはいいが、現金払いと電子マネー払いは印紙税の対象となる。

  そもそも印紙税とは

 印紙税とはそもそもどのような税金なのか。
 1624年(元和元年・徳川家光の時代)、オランダで80年戦争の戦費調達のために創設された。
 日本は1873年(明治7年)に地租改正を行い、安定的な税収確保のために導入された。
 税務大学校の校本では、印紙税の性格として次のように記述している。

 印紙税は、経済取引に伴い作成される広範な文書に対して負担を求める税である。これは、課税文書の作成の背後に経済的利益があるものと考え、また、文書を作成することに伴う取引当事者間の法律関係の安定化という面にも着目し、文書の作成行為の背後に担税力を見出して課税を行おうとするものである。

 この校本で述べている印紙税のそもそもからすれば、支払者に対して渡す領収書は、代金が決済されたという法律関係の安定化に資するのであるから、印紙を貼ることでなおその安定化が保障されることになる。
 そうすると現金決済であれクレジット決済であれ、領収書の法的効果は同じであるはずだ。ところが現金決済は担税力があり、クレジット決済は担税力はないという理屈になるので、印紙税のそもそも論から逸脱してしまう。

  電子定款

 株式会社の設立の際に作成する定款は、公証人の認証を受ける必要があり、この認証には公証人の手数料5万円と、印紙税4万円がかかる。
 ところが、電子定款だと印紙税がかからない。電子定款というが、要するにPDF文書で作成し電子署名等によりメールで送付し認証を受ける。確かにやり取りは電子ベースで紙が介在することはない。従って課税文書というものがないのだから印紙税の対象にならないといえる。
 しかし、通常PDFで作成した定款をパソコン内に保存しっぱなしということはない。
 例えば、事業承継税制で承継会社が認定を受ける場合、定款の添付が必須となっている。つまり、定款を使う場合は紙ベースにしなければ用をなさない。その紙ベースの定款に法律的安定があるということになる。
 だから、認証を受けるのにメールでPDFの添付書類で決裁を求めたとしても、その本質は紙ベースの定款と考えるべきで、印紙税のそもそも論からいえば担税力があるといえるが、紙で持ち込めば課税、メールで持ち込めば不課税というのだから不可解だ。

  同じ営業ではないのか

 税理士業に関しても不可解である。
 個人の税理士が発行する領収書は営業ではないので印紙税は不課税。
 税理士法人が発行する領収書は営業に該当するので課税である。
 仕事の中身は個人税理士も税理士法人もまったく同一である。違うという理屈を探すのは難しい。
 ところが、個人の税理士は印紙税法上は営業ではないし、税理士法人になると同じ税務の代理行為の報酬は営業となる。その違いの理屈は税理士法人は配当ができるからだとする。
 では個人税理士の確定申告はといえば、営業収入による事業所得以外の何物でもないから、領収書作成の背後にある経済的利益は個人であれ法人であれ違いはない。

 印紙税の廃止は電子政府を目指す政府なら、時代の要請でもある。それとも電子化誘導のため、紙ベースの課税を強化するのか。このようないかがわしい税制はやめるべきであろう。