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   スマートとは

 国税庁は、昨年(2017年)6月23日に「税務行政の将来像~スマート化を目指して~」と称する将来像を発表した。
 文書ではわざわざ「スマート税務行政」と断っている。日本語ではなく、なぜスマートなる英語を使うのだろうか。
 英和辞典で「smart」を引くと、「ひりひりするが原義」だとして、米国と英国の使われ方が次のように並んだいる。
 <主に米国>=利口な、賢い、気の利いた、才気ある、抜け目のない、ませた
 <正式>=活発な、きびきびした、機敏な
 <主に英国>=きちんとした、洗練された、パリッとした
 <正式>=厳しい、激しい、ひりひりする、強い
 
   国税庁が目指す2大項目

 文書は大項目で二つのことを並べている。
 一つは、「納税者の利便性の向上(スムーズ・スピーディ)」
 もう一つは、「課税・徴収の効率化・高度化(インテリジェント)」
 ここでもわざわざ英語を表示している。
 スムーズは「滑らか」、スピーディは「敏速」という意味。
 インテリジェントはコンピュータ用語で「高度な処理能力のある」という意味。

   さて、その実態は

 だんだん見えてきたと思うが、国税庁が目指す税務行政の将来像は英語で表記したところにあると読める。
 納税者の利便性の向上は、電子申告の全面化にいきつく。大企業は電子申告が義務化された。中小業者も遅くない時期に追い込まれていくだろう。
 紙ベースの申告から電子申告になれば、税務署の窓口業務・受付業務がほぼいらなくなる。確定申告で税務職員が2カ月近くも対応する事態が解消される。
 電子申告で収受した申告は、データでそのままコンピュータで保存・誤りチェック・加工・照合ができる。それにより、申告後の事後処理が不要となる。
 つまり、納税者の利便性の向上は、税務署の内部処理が機械によって滑らかに敏速にできるから、時間と要員を大幅に削減することができるというわけだ。
 それで税務署の定員を減らすわけではない。それに従事していた職員を調査・徴収の執行権を行使する業務に振り向ける。
 調査要員が増えれば、調査件数を増やすことができる。
 何のことはない。利便性の向上などと甘い言葉を使って、納税者に電子申告という負担を押し付けて調査要員を増加させることが、第1の項目で述べていることだ。

 第2の項目は、多くの説明はいらない。
 電子申告が全面化すれば、申告内容をマイナンバーや法人番号をキーとして、国税当局が保有する資料情報データとシステム上でチェックすることにより申告漏れの所得・資産の有無や税法の適用誤りを効率的に把握できるようになるとしている。
 そして、取引情報と自動的にマッチングさせることで申告漏れを迅速に把握することが可能となるとしている。
 取引情報は、インボイスの全数把握を意識してのことといってよい。韓国ではインボイスのほぼ100%を国税庁が把握する体制になっており、日本もそれを目指すことは間違いない。
 また、30年1月から預金口座にマイナンバーの付番が始まっている。税務職員はマイナンバー・法人番号付貯金情報の照会・入手が自由にできるようになっていく。
 高度の情報通信処理能力をフル活用して、申告漏れを徹底チェックしていこうというのだ。

   スマートの正しい訳

 国税庁の「スマート税務行政」なる構想は、英語が示すところに本音がある。
 結論は、英国で正式に使うsmartを構想するということになろう。
 正しい訳を当て嵌めると……
 「厳しい税務行政」、「激しい税務行政」、「ひりひりする税務行政」、「強い税務行政」 となる。
 国税庁は英語でごまかすような姑息なことをせず、日本語ではっきりものを言ったらどうか。