租税特別措置法の適用状況
「適用額明細書」……法人税の申告に関与している人は知っているが、知らない人も多いのではないかと思う。
民主党が政権についていた時、「政策減税」である租税特別措置法の適用実態を把握し、その結果を国会に報告することにより適用状況の透明化をはかり、適切に見直しをするために打ち出した政策がこれ。
民主党の政策の中で、評価できるものの一つといってよい。
「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律」というきちんとした法律が作られた。
税理士にとってはひと手間掛かるものだが、透明化と見直しのためと思えば必要なことと受け止めている。
提出された「適用額明細書」は財務省が集計し、その結果を内閣は国会へ報告することになっている。
報告は4年目になるが、この2月に26年度の報告書が国会に提出され、財務省のホームページでも公開された。
朝日新聞が記号からトヨタ自動車を特定
この件に関し、朝日新聞が特集記事を組んだ。分析、視点とも「クリーンヒット」といえる。このシリーズは何回か続けるとしているので、期待したい。
本来、措置法で減税を受けた企業名は公表すべきだが、個別名は記号となった。その記号を朝日新聞は特定したわけだ。
「O(オー)012163」は「トヨタ自動車」と。
ここからは筆者のまとめ
朝日の企業名特定に基づいて、トヨタ自動車はどのような租税特別措置を利用し減税の便益を受けているのかを表にしてみた。
【トヨタ自動車】 26年度減税額
適用した租税特別措置 | 減税額(円) |
① 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除 | 108,365,902,000 |
② 試験研究費の総額に係る税額控除 | 77,719,170,000 |
③ 特別試験研究費の額に係る税額控除 | 12,774,000 |
④ 試験研究費の増加額に係る税額控除 | 30,633,957,000 |
⑤ 国際戦略総合特別区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除 | 284,905,000 |
⑥ 国内の設備投資額が増加した場合の機械等に係る法人税額の特別控除 | 133,508,000 |
⑦ 生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除 | 400,618,000 |
⑧ 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除 | 11,104,911,000 |
⑨ 雇用者数が増加した場合の法人税額の特別控除 | 0 |
⑩ 特定株式信託の収益の分配に係る受取配当等の益金不算入等の特例 | 71,600,000 |
合計 | 228,727,345,000 |
⑩の受取配当等の益金不算入によって法人税は1千8百万円減税となるから、さらに納税額は少なくなる。
トヨタ自動車1社にこれだけの補助金を国が出したということであり、これに加えて法人税本税の税率が引き下げられており、ウハウハぶりが窺えるというものだ。
トヨタの租税特別措置適用から見えてくるもの
適用したものを個別に見てみると、次のようなことがいえる。
要は、トヨタは利益をどのように使っているのかという視点から見た場合である。
試験研究費は設備の増設というより人件費が主要科目となっている場合が多い。そう考えると試験研究費を投資に分類するのはふさわしくない。
投資を設備等に対するものと限定すると、上記表の⑤、⑥、⑦が投資に対する減税額となる。その合計額は8億2千万円だから、トヨタの金の使い方としては、設備投資には大した金額を投じていないといってよい。
次に、賃金の増加に関しては111億円の減税であるから、いくらか賃上げを行ったことが窺える。
対照的に雇用者増はゼロであるから、正規社員を増やすことはしていないということになる。
ここから何がいえるか。
安倍首相は、大企業に世界一活動しやすい環境を提供する、つまり税金も安くすることで大企業の儲けを大きくすることで、賃上げと投資が増大するから経済が成長するという政策をとっている。アベノミクスというやつだ。
ところが見たように、トヨタは空前の利益を上げているにもかかわらず、設備投資にはカネを回していない。わずかに賃上げをしたが、雇用者を増加させるカネの使い方をしていない。だから賃金総額は全体として増加せず、実際の統計でも実質賃金はマイナスという結果になっている。
つまり、大企業に恩恵を与えて利益を上げるようにしても、経済成長に結びつく金の使い方はせず、内部留保を増加させるだけになっているということだ。
アベノミクスがアホノミクスといわれる所以がここでも証明されたわけで、朝日の記事はいま一歩具体的分析に欠けるきらいはあるが、ほぼ同じ視点をのべている。
「適用額明細書」を提出させ、その結果が国会に報告されたのだから、国会議員はしっかり受け止め、述べたような分析から内部留保だけを増大させる政策減税を早急に見直す結論を出すべきであろう。それが出ないようなら、国会議員は怠慢のそしりを受けることになる。