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 前回に続き、28年度税制改正で打ち出された「加算税の見直し」を取り上げる。

 この改正案が成立すると、調査選定や調査のまとめなどで調査担当者の恣意的な運用が起きかねない。いや、起きること間違いなしといえる。
 加算税の賦課は納税者にとって「不利益処分」だが、その処分で税務職員の裁量を広げることになるので、租税法律主義からみても大いに問題がある。
 問題点を指摘しておきたい。
 
    改正大綱
 
 納税環境整備として、28税制改正大綱は次のように述べる。
 「期限後申告若しくは修正申告(更正予知によるものに限る。)又は更正若しくは決定があった場合において、その期限後申告等があった日の前日から起算して5年前の日までの間に、その期限後申告等に係る税目について無申告加算税(更正予知によるものに限る。)又は重加算税を課されたことがあるときは、無申告加算税・重加算税の割合に10%加算する措置を講ずる。」
 
   現行との対比と仮称
 
 重加算税と無申告加算税の現行税率にさらに10%がプラスされる。
 現行の重加算税と混同しがちになるので、ここでは「重い重加算税」ということにする。

対象加算税
現行
改正・5年内に重加賦課あり
重加算税
(更正・予知後修正)
当初期限内
当初期限後
当初期限内
当初期限後
35
40
45
50
無申告
加算税
改正
なし
当初予知前
左の50万以上
当初予知前
左の50万以上
5
10
5
10
改正
対象
決定・当初予知後
左の50万以上
決定・当初予知後
左の50万以上
15
20
25
30

                 *過少申告加算税、不納付加算税は改正の対象外
 
   課税要件
 
 重加算税や無申告加算税はそれぞれが独立した税目であるから、課税要件が充足しなければ賦課されることはない。
 「重い重加算税」の課税要件は、①今回調査で重加算税が賦課されること、②調査で提出する修正申告書の提出日から5年以内に重加算税を賦課されていること、となる。
 要は5年以内の前回調査で重加算税を賦課され、今回またまた重加算税を賦課される者は「不正常習者」だから重い重加算税を課すということ。
 
   税務調査はどうなる?
 
 この制裁強化策は、無申告と不正を糾弾する国民意識の高まり(課税庁がつくりだしている面も含めて)を受け、経済的不正に対する罰則を強化する流れに対応か。
 不正常習者、無申告常習者に対して「行政上の制裁」を強化する改正であるが、これまでの税務行政をみるとことは単純ではない。
 「真の」不正常習者、無申告常習者への制裁強化は一般的に許容される。
 しかし、納税者の税務に対する理解度や税理士の対応によって、重加算税の対象にならないものに重加が賦課されている事例は数多くある。これらは不正常習者とはいえないが、改正案はこうした過去の事績をすべて不正常習者として「重い重加算税」を課すことになり、行政側の思惑で「真の」不正常習者でないものを不正常習者として作り出すことになりかねない。
 この改正も、過度に課税庁の制裁権を強化するがために、行政上の恣意と濫用を招く懸念がある。
 大綱の文面は、判定要素となる過去の事象を「課されたことがある」とするが、納付の生じる重加算税を賦課されることを言うのか、欠損金の範囲内で納付は生じないが重加算税の対象となる否認を受けたことを言うのか判然としない。
 前者であれば、不正常習者は欠損金を利用する方策をもってこの加算制裁を潜り抜ける可能性があり、およそ意味を持たない。逆に、理解度の低い納税者は毎回加算制裁を受ける可能性がある。
 後者であれば、過去の調査上の取引(税額の生じない重加の受入れ)が次回調査において加算制裁に跳ね返る問題が生じる。
 また、「課された」時点の押さえ方も判然としない。
 前回の重加の賦課の時点と今回調査における対応時期によって加算制裁が生じたり免れたりする。調査の時期と調査結果の終結において、修正勧奨や更正で課税庁による「強行」「強制」が懸念される。
 また、容易に推測されるが、課税庁とすれば前回重加賦課事案については3年から4年周期で調査対象に選定し実地調査を行うことになろう。
 実績重視の調査行政の現実をみると、過少申告加算税対象を強引に重加対象にもっていったり、納税者の無理解に付け込んだ過少と重加の「打ち間違え」をあえてやる事態も想定される。