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   まず28年度税制改正のおさえ
   与党大綱の底流は「格差社会」の推進

 与党税調の28年度税制改正大綱が27年12月16日に発表された。
 例年、ほぼ丸呑みの形で政府の税制改正大綱になっているので、28年度改正案もそうなるであろう。
 新聞報道などで、法人税率の更なる引下げと軽減税率導入が目玉として取り上げられている。
 大綱は安倍さんの経済政策を自画自賛し、それをさらに推し進める立場を露骨に盛り込んでいる。この大綱の特徴を端的にいえば次の二つだ。
 ①「稼ぐ力」の強いものにはより稼いでもらうために税金面で支援する。
 ②「やる気のある地域」には税金面で優遇するが「やる気のない地域」は知らん。
 なんともエゲツナイ税制改正である。社会保障の切り下げとあわせてみると、国民と地域の「格差社会拡大税制」の押し付けといえる。
 人と地域の格差社会を生み出し、それが日本を疲弊させている現状を改革しようという意思は全く見当たらない。
 軽減税率の導入に目を奪われていると、日本はますますいびつな国になってしまう。

   税務調査で揉めること必然

 見落としてならないのが、「納税環境整備」として打ち出した加算税の強化である。
 今回と次回の2回にわたって取り上げることとする。
 第1弾の今回は、自主修正に対する加算税の賦課
<現行>
 国税通則法第65条は過少申告加算税の賦課について規定する。
 その規定は、期限内申告書が提出されている場合で、その後修正申告書の提出や更正がされるときは10%の加算税を賦課するというものだ。ただし、第5項で、納税者が更正を予知するまえに自主的に修正申告書を提出する場合は、過少申告加算税の賦課は適用しないと除外を規定している。つまり、更正予知前の修正申告はその金額のいかんにかかわらず加算税が課せられることはない。
 この規定の趣旨は、お上に手数をかけさせることなく正当額に是正したのだから行政罰たる加算税はかけないというものだ。
 問題となるのは、更正を予知するとはどういうことかということ。
 裁判でも争われ、いまは「非違端緒把握説」が定説となっている。
 調査をすると通知しただけでは、どの項目の何を更正するのか納税者は判断ができないから更正されるとは予知できない。特定の事項についてそれが是正されるべきものではないかと調査担当者から指摘されたときに納税者は更正されるかもしれないと予知する状態になる。したがって、それ以降は自主的な修正申告であっても加算税は賦課できるというのがいま定着している判断で、「非違端緒把握説」といわれている。
 したがって、調査をすると通知されて改めて申告内容を点検したところ計算誤りがあることに気づき、調査官から計算誤りを指摘される前に自主修正した場合は、それについては過少申告加算税は賦課されない。
<改正案>
 調査をすると通知し、かつ更正を予知する前に行う自主修正には5%の過少申告加算税を賦課する。ただし、期限内申告税額と50万円の多い額を超える部分は10%の割増し加算税を賦課する。
 これが改正案である。
 この改正案をみると、更正の予知については「非違端緒把握説」に立っている。
 調査官が具体的に非違の端緒を把握して指摘するまでの自主修正には加算税がかけられないから、調査をすると通知さえすれば、非違端緒の指摘前に出された自主修正には5%(額によって10%の割増)の過少申告加算税を賦課できるようにするというものだ。
<問題点>
 申告納税制度は、第一義的に納税者の自主的な申告に税額の確定を委ねる制度である。
そのうえで税務署長に賦課権を付与し、調査により税額を決定できる権限を与えている。
 この申告納税制度の基本を踏まえると、納税者には申告を何回でも見直して正しい税額に修正できる道を用意することは当然であろう。
 国税通則法第19条は、申告書を提出したものは、税務署長から更正されるまでは何回でも修正申告書を提出できると規定する。
 人間だもの間違いや誤解がある。それに気づいたときは自主的に修正してねというわけだ。ここでの規定をみると、更正されるまではとされており、調査がいかなる段階なのかは無関係としている。
 そうすると法の構成は、納税者に対しては更正されるまでは自主修正による是正措置を保証し、その場合は行政罰である加算税を適用しないこととし、調査担当者から是正事項に該当するのではないかと指摘された場合は更正されることに匹敵するのであるから、それ以降は自主修正としては扱わず、行政罰も賦課するとなる。
 今回の改正は、今は適用が除外されている期間の中に「調査通知」という前倒し点をおき、現行の法が予定している納税者の自主修正権を狭め、行政罰の適用を拡大しようというのだ。
 俗にいえば、調査するとの通知を受けたから見直したのだろう、通知がなければ見直さなかったに違いないから怪しからんので罰金だと、お上意識丸出しである。
 納税に関して納税者は多大の労力と費用をかけて納税額を確定させ申告納税している。調査を通知されて見直し自主修正することは、納税者が納税道義を発揮した結果であり、非難されることではない。それで国庫なり社会費用の分担額がより正しい形で確保されるのであるから、そこに行政罰を課す必要はない。
 納税者を信頼せずこうした厳しさを措置すると、逆に、調査では見つからないかもしれないから自主修正はやめておこうということになりかねない。
 調査の通知を巡ぐる問題も懸念される。
 国税庁は納税者と接触するときは調査と行政指導の区分を明確にして通知するとしている。しかし、実際の現場はそうなっていない。行政指導では自主修正に加算税を賦課でないから、自主的な見直しを求める行政指導であるにもかかわらず「調査」と通知し、その後の自主修正に加算税を賦課して実績にしようという調査官が出ないともかぎらないし、現にそうした例もある。しかも電話での通知は言った言わないの世界になってしまう。
 文書でも「調査をします」とだけ記述した来署依頼が横行している。この場合、調査の事前通知規定をまったく無視した通知となっており、そもそも違法文書ともいえるもので、このような通知で調査を通知したから以後の自主修正は加算税を賦課するということであれば、行政側の濫用は歯止めが利かなくなる。
 
 今回の改正は申告納税制度の趣旨に反する姑息な改正と言わざるを得ない。
 更正予知が「非違端緒把握説」だと自ら確認しているのであるから、そこまでの自主修正には行政罰を適用すべきではない。