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    一人親方・一人職人を調査の重点に

 一人親方に関する調査が税務署の重点になっているようで、あちこちから情報が入る。
 消費税の影響で、会社は従業員を独立させて一人親方とし、外注として使うケースが当たり前のようになっている。
 税務署が会社に調査で入れば、一人親方は雇用に準ずるので給与だと認定し、会社に対して源泉所得税の徴収漏れと消費税の仕入税額控除を否認する動きがひとつのパターンなっている。
 もう一つのパターンは、会社の外注費支払は是として資料化し、受け取った側の一人親方の事業所得をこの資料と突き合わせて過少申告や無申告を調査するものである。
 いまどきの決済は預金への振込であるから、一人親方の収入は預金さえ復元すればほぼ押さえることができる。

   7年遡及で攻防

 ここで、税務署と一人親方との間で問題が生じる。
 税務署は無申告であれば「故意の無申告」だから重加対象のうえ7年遡及と迫る。
 過少申告であれば、「故意の集計違算」だから重加対象で7年遡及だと迫る。

 一人親方にすれば、必要経費等を詳細に記帳できないから無申告になったり、白色申告で必要経費に見合う収入を減じて申告している例が多い。
 このような事業者の事業と税務に関する認識の状態を踏まえることはせず、一律に「故意」で7年遡及にもっていくため、一人親方は納得がいかず税務署と争いになる。

   7年遡及の根拠は

 7年遡及を行う場合の根拠条文は次のとおり。
<国税通則法> 第七十条
 次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年を経過した日以後においては、することができない。
4 次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。
一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税についての更正決定等

 「偽りその他不正の行為」が要件である。
 では、この行為とは具体的にどのような行為をいうのであろうか。税法にはその定義はない。解釈もさまざまである。

  どのように解釈すればよいか 

 筆者は次のように考える。
 まず、重加算税を課す要件をみると、通則法は「隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」としている。
 隠ぺいと仮装も税法に定義はないが、行為を表現する言葉であるから誰でも共通の認識に至る。つまり、隠ぺいとは「隠すこと」であり、仮装とは「真の状態を別の状態に作り上げること」である。

 では「偽りその他不正の行為」となるとどうか。
 まず「その他」は、その前にある「偽り」と後にある「不正の行為」を並列に扱う法令用語であるから、それぞれを見ることになる。
 「偽り」は行為を表す言葉であるから「騙すこと」の認識に至るであろう。だまして税金を逃れるのだから、これは犯罪といってよい。
 では「不正の行為」となるとどうか。「不正」とは、社会的に糾弾されるべき「法に反する悪い行為」、つまりこれも犯罪ということではないだろうか。
 それは、逋脱に関する罰則(刑事罰)適用の要件を税法では「偽りその他不正の行為」としており、行政罰である重加算税の要件である「隠ぺい仮装」と一線を画していることからもそう判断される。
 つまり、「偽りその他不正の行為」とは、刑事罰を科すべき社会的に糾弾されるべき犯罪行為という解釈になる。

   7年遡及の立法趣旨

 7年遡及に関して、その立法過程からもそのことが伺える。
 更正の期間制限を7年に延長するにあたって、その要件を「隠ぺい仮装」ではなく、「偽りその他不正の行為」としたのは、ロッキードを巡る田中首相の受託贈収賄事件や金丸副総理の脱税事件を受けてのことである。
 社会的に糾弾すべき犯罪的行為による脱税に対しては当時の更正期間3年ではなく、7年としたものである。
 だからこそ、国会の付帯決議で、「高額、かつ、悪質な脱税者に重点をおき、中小企業者を苦しめることのないよう特段の配慮をすること。」としていることにつながる。

 そうすると最初に例示した事案などに7年遡及を迫ることは、法の趣旨に反することになる。
 税務署の要件解釈は、取らんかなの姿勢で拡大解釈に陥っているといわざるを得ない。