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  甘利担当大臣が発表した
    マイナンバー 万々歳の効果

 2013年5月、マイナンバーの費用対効果について共産党が質問したところ、政府は次のように答えた。
  「番号制のネットワーク構築に3,000億円、稼働費用を年300億円と見込みます。しかし、(効果については)なかなか数値化が難しい」(甘利明経済再生担当相)として、費用対効果を示すことができなかった。
 その時、政府の遠藤紘一・情報化統括責任者(政府CIO)は「内部で試算したものはあるが、非常に仮定が多くて、外に出すには問題があるという判断で表には出ておりません」と述べている。
 ところが2014年6月、甘利大臣は「マイナンバー制度の効果として、年間で9,110人分の事務効率化が見込まれ、仮に、このうち、国、地方の税務職員の効率化分を調査とか徴収等の歳入の事務に充てると、年間2,400億円の増収効果が見込まれる」との試算を発表した。
 「外に出すには問題がある」という判断がクリアされたから出したのであろう。
 マイナンバーで年間2,400億円も税収があがるなら、初期費用も運用費用もあっという間に回収でき、財政赤字解消に貢献する、万々歳ではないか、というわけだ。

   どこから出てきた数字?

 2,400億円の根拠が、この5月、やはり共産党の質問によって明らかになった。
 衆議院内閣委員会の議事録から要約をお伝えする。

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◎参考人意見陳述での宇賀克也参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授)と坂本団参考人(日本弁護士連合会情報問題対策委員会委員長)への質疑部分(5/13)

池内さおり委員(共産) 政府は、甘利担当大臣が昨年6月に、マイナンバー制度の効果として、年間で9,110人分の事務効率化が見込まれ、仮に、このうち、国、地方の税務職員の効率化分を調査とか徴収等の歳入の事務に充てると、年間2,400億円の増収効果が見込まれとの試算を発表している。この増収効果という試算は、職員の効率化分を徴税に充てるという想定だ。 増員すればその分が全て増収につながるという想定だ。マイナンバーの費用便益分析につい て、こうした政府の対応は国民の要求に十分に応えられているのかどうか。
宇賀参考人 とにかく、まず、一旦それを公表されたということは、評価しているけれども、今後、それについて専門のエコノミストたちが詳細に検討して、問題があれば御指摘をしていくということが必要かと思う。
▽池内委員 坂本参考人は、4月22日の日本記者クラブの講演で、マイナンバーの問題点として、新しい箱物行政、壮大な税金の無駄遣いと指摘している。
坂本参考人 今回、マイナンバー法、マイナンバー制度をつくるに当たっては、中心的なシステムを構築するだけで6,000億円かかる。去年になってようやく、これは私も最近まで知らなかったが、甘利大臣が、IT関係の審議会に、何か2,400百億円の増収効果があると。でも、その2,400 億円というのは、番号制度が導入されて、税務署の職員の人たちの仕事が効率化されて、どうも、その人たちが取り立て事務に専念できるようになると2,400億円回収できるんだ、こういう試算らしいのだけれども、職員が専念すれば取り立てられるものなら、職員を増やして2,400億円を 取りに行った方が早い。

◎池内議員の質疑部分(5/15)

池内さおり委員(共産) 例えば年間で9,110人分の事務効率化が見込まれて、仮に、このうち、国、地方の税務職員等の効率化分を調査とか徴収等の歳入事務の方に充てると、年間約2,400億円の増収効果が見込まれますと発言されている。この2,400億円というのは、どのように算出したものか。
向井政府参考人(内閣審議官) まず、当面の効果として、税務関係事務の効率化として掲げている1,980人分の事務について、職員の業務変更を前提に、仮に、調査、徴収事務に充てることとした場合の効率化分に、職員一人当たり見込まれる年間滞納整理済み額1.23億円を乗じたものだ。この1.23億円は、平成23年度の都道府県税の滞納整理済み額である9,512億円を、その徴収事務にかかわる職員数の7,416人で除した額として計算したものだ。
池内委員 この式の意味というのは、2,400億円算出の意味というのは、一人当たりの滞納の回収実績が1.23億円なので、回収に当たる徴税職員を増やせば増やすほど税収が上がる試算になっている。1,980人ふやせば2,400億円、1万人を仮に増やしたとしたら1兆2,300万円の税収になる、そういう計算式になっているということでよろしいか。
向井参考人 一定の仮定を置くということしか計算のしようはないので、現状の一人当たりの徴収額が増えた分もそのまま当てはまっていると仮定した場合についてはこういう額になるという説明のもとに、こういうものを出しているということだ。
池内委員 職員を増やせば一人当たり1.23億円の増収になるというのであれば、そもそも、マイナンバーの効率化と関係なく、職員を増やせばいい話だ。しかし、現実はそんなことは全くないので、実際のところ、徴税の職員というのは横ばいで推移をしている。マイナンバーの効果として2,400億円の税収増という甘利担当大臣の説明というのは、ほとんど非現実的な仮定の上に成り立っている、本当に絵そらごとではないか。
向井参考人 地方の税務職員が必ずしも増えていないというのは御指摘のとおりでもある。これはあくまで仮定なので、こうなるというんじゃなくて、こういうふうな仮定を置いて、こういう計算をすればこうなるという、そういう説明だ。したがって、この数字を全部足したような効果みたいなものは、この紙に一つも書いていない。そういうつもりで作ったものでは決してない。

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  政府の試算を解説すると………

<政府の試算>
 全国の地方税の徴収担当職員7,416人が、年間で滞納整理した金額9,512億円だから、1職員あたり1.23億円が地方自治体に回収された勘定になる。
 マイナンバーによる事務効率化で、国や地方自治体の業務全体で9,110人分が余剰人員になる。このうち税務関係は1,980人余剰となるので、これを滞納整理に従事させれば、1職員1.23億円だから年間2,400億円増収になる。

<とんでもないゴマカシ>
 簡単な簿記ですぐわかる。滞納額の発生と回収は次の仕訳となる。
 <発生> 未収入金(滞納額) 9,512 / 収入(税金) 9,512
 <回収> 現金 9,512 / 未収入金 9,512
 滞納額の回収は、すでに発生している未収入金を現金化しただけ。収入とはまったく結びつかない。
 収入を増やすには、税法を改正して税率をあげるか、課税ベースを広げるかしかない。
 仮に国民が税金を滞納しなければ、発生時の仕訳は
 <発生> 現金 9,512 / 収入(税金) 9,512
 となる。そうすると1,980人にはやる仕事がなく、回収0円となる。増収になりようがない。
 百歩譲って、1,980人が調査で増差を稼いだとすれば、これは丸々増収になる。
 
  国税調査官1人で1,100万円の増差税額

 2014年版「国税庁レポート」によれば、申告所得税・源泉所得税・法人税・消費税・相続贈与税の調査による増差税額は合計3,381億円である。
 国税庁HPによれば、国税庁の定員56,300人のうち賦課部門には68%が就いているというので38,280人になる。管理職等がいるので実際に調査を行う調査官は30,000人ほどと思われる。割り返すと一人あたりの増差税額は
 3,381億円÷30,000人=11,270,000円 となる。
 そうすると、余剰人員1,980人が調査で稼ぐ税額は年間223億円。
 年間の運用経費300億円にも満たない。
 費用対効果はマイナスで、甘利大臣の発表は大ウソということがわかるはず。

 向井政府委員がいみじくも答弁しているが、とても「外に出せる」代物ではない。
 あまりにも国民をバカにしている。