今年3月に、ある法人が新規の関与先となった。7期を経過しているが、基準期間・特定期間とも課税売上高が1千万円を超えたことがないので、免税事業者である。
しかし、これから先に課税事業者になる可能性があることから、消費税のシミュレーションをすると、断然、簡易課税が有利となる。
そこで、簡易課税制度選択届出書を提出した。適用開始期間は法令に則り、提出した課税期間の翌課税期間とした。
いうまでもなく、法的な不備はない。
*注 適用開始期間を2年後とするなど、翌課税期間以外の課税期間を指定することはできないので、注意してほしい。
税務署から「取下げ」の要求
提出すると、関信局K税務署管理運営部門の若い職員から当事務所に電話が入り、「免税事業者は簡易課税の選択届出書は提出できませんので、取下げてください。」といわれた。
担当税理士が、「消費税法基本通達13-1-4で『簡易課税制度選択届出書の提出は免税事業者であってもできるのであるから留意する。』と念押ししているように、免税事業者でも提出できるのですよ。」と教えてあげると、その場は了解したようであった。
数日後、今度は法人課税第1部門の上席調査官から電話がかかってきた。いわく、「免税事業者の簡易選択届について、管理運営部門から取下げをお願いし、そちらからは基本通達による見解を伺ったが、法人部門の方に回ってきたので改めて連絡します。消費税法第37条1項にはカッコ書きで免税事業者を除くとなっているので、免税事業者は簡易の選択届は出せませんので取下げていただきたい。」
担当税理士が、税務署の正式見解かと確認すると、「取扱いはそのようになっています。基本的に課税事業者になっていることが前提での届出ということなので連絡しています。」と言い切る次第である。
担当税理士が、ほかの事例でも取下げさせているのかと聞くと、「一応お願いしています。」と回答した。
要はK税務署の正式見解であり、免税事業者が簡易課税選択届出書を提出した場合は取下げさせているということだ。
指摘に対して税務署は「だんまり」
耳を疑った担当税理士は事務所の見解として、K税務署は税法の解釈が間違っているのではないですか、K税務署の見解が正しいとすれば、消費税基本通達13-1-4の記述は税法違反を記述していることになりますね、税務署の指示に従って取下げた納税義務者がいれば不利益を被っている恐れがありますね、と文書で指摘し、それに対して回答するよう求めた。
9月16日にこの文書を提出したのだが、K税務署からは半月が経ってもなしのつぶて。
時間をかけて検討しなければ結論が出ないような問題ではないと思うのだが、一体どうなっているのだろうか。
いうまでもなく、税務署の間違い
消費税法第37条1項は、免税事業者は簡易課税を「適用」できないと、適用に関する確認規定を書き込んでいるだけであって、「届出」について免税事業者を除くとは書いていない。
税務署の見解は間違いであり、免税事業者であっても、いつでも簡易の選択届出書は提出できる。
「届出」は「申請」と違い、法的要件を充足していれば、届出書が提出先に到達したときにその届出をすべき手続上の義務が履行されたものとされる。つまり、提出した翌課税期間から簡易課税が適用されるのである。行政手続法37条で確認していただきたい。
「届出」は、法的要件が整っていれば、税務署は拒否できないのである。取下げろと指導するのは、論外となる。
消費税が施行されて25年。最も熟知しているはずの担当官署である税務署で、こんな基本的な事が25年も誤って取り扱われているとなると、これはもう社会的事件といえるのではないか。
もしも税務署の指導に従って、簡易課税制度選択届出書を取下げ、何らかの不利益を被ったとしたら、国賠の対象となると思われる。
税務署は、誤った行政をさかのぼって点検し、取下げ事案があれば是正する措置を取るべきであろう。