青色申告特別控除とは
個人事業者で青色申告書を提出することについて税務署長の承認を受けた者は、その所得について正規の簿記の原則(複式簿記)により記帳された帳簿をもとに作成された貸借対照表、損益計算書を確定申告書に添付し、期限内申告をすることを要件に65万円の所得控除を行うことができる。
この制度はシャウプ勧告にまでさかのぼるが、シャウプは所得税を全税制の中核として再編確立して、これを中心として資本蓄積税制の骨格を構築した。
1950年(占領時)の当時、個人事業主所得は法人所得と勤労所得の合計に匹敵するウェイトを占めていた。ところが、近代的な簿記記帳もおぼつかなく、これらの中小業者に対する課税は極度の外形的推計=税務当局による押しつけ課税が行われており、納税者の抵抗による混乱の中にあった。
そこでシャウプは、ある程度の減税効果と絡めて、中小業者の記帳習慣を、たとえば特典つきの青色申告奨励で促進しながら、押しつけ課税に偏っていた所得税行政を再編し、軌道に乗せようとしたのである。
役目は終わっていない
このような歴史をみると、青色申告特別控除の特典はその使命を終えているのではないかと思われるかもしれない。
しかし、中小業者に対する課税当局の課税思想は、いまだに押しつけ課税を引きずっており、この特典による記帳習慣の向上が現代においても追求され続けなければ、再び所得税行政は混乱に陥りかねない。その点で、課税当局にとってもいまだに青色申告奨励策をとらざるを得ないのが現状だ。
今回の問題を論じるにあたり、まずこの点を押さえておきたい。
今回の改正は
30年度税制改正で打ち出したのが、青色申告特別控除を65万円から55万円に10万円引き下げること。そのうえで、e-Taxで電子申告するものは65万円の特別控除を認めるとした。
確定申告を規定する所得税法第120条は、「居住者は、…税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。」と規定している。
日本語の常識からいって、「紙に書いたもの」を「提出」することとされているのではないか。
また、 e-Taxを利用するかどうかや、パソコンを使うかどうかは、納税者の信条の問題でもある。
国は、「デジタルファースト」が国家上げての施策だとブチ上げ、やがて電子申告を義務化しようという動きになっている。納税者の利便になるとしているが、行政側にとって都合がいいからにほかならず、国民監視が強まるばかりだ。
行政に都合がいいのだから、e-Taxで「送信」する場合は青色申告特別控除に代えてe-Tax申告特別控除を75万円にするというのであれば、「奨励策」としてわからなくもない。
ところが改正では、条文どおり「紙の申告書」を提出したものや、使いたくない信条の持ち主に対しては、差引所得が10万円引き上がることになる。
基礎控除を10万円引き上げるのだから、ツーペーゼロだというかもしれないが、e-Tax利用者の差引所得が10万円引き下がるのと比べて、同じ記帳や決算をしていて差が出るのだ。
これは、法の下の平等に反する。信条によって差別する話だから、憲法第14条に明らかに違反する。
憲法 第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
所得税だけではない
青色申告控除は地方税に跳ね返る。
加えて、国民健康保険の保険料の計算にも反映される。
このような差別政策をデジタルファースト施策の下で行うというのだ。
なんともひどい改正ではないか。一強体制のなかで、理屈も何もない、何をやっても許されると思っている。このような憲法違反の改正を許してはならない。