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 株式会社NTTデータ(NTTDATA)は5月12日付ニュースで、「国税庁は自社が手掛けている預貯金照会のデジタル化サービス「pipitLINQ」(読み:ピピットリンク)の採用を決定し、2021年10月から本格運用する」と発表した。

 ニュースは下記ホームページへ
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2021/051200/

 NTTデータによれば、「pipitLINQ」はすでに全国118の自治体と40の金融機関に採用されており、行政機関と金融機関をつなぐサービスだという。
 その中身は、加入機関間で電子データによる預貯金照会ができるというもの。
 要は、行政機関が滞納整理等のために、納税者の預金を役所の端末から加入している金融機関に照会すれば、たちどころにその納税者の全預金の有無を入手でき、差押えなどの滞納処分がスムーズにできることになる。役所にとってみれば喉から手が出るほど欲しかった優れもののサービスということだ。
 NTTデータは、銀行だけでなく、生命保険会社・証券会社との連携も図っていくとしているので、行政機関にすれば願ったり叶ったりであろう。
 概略図では金融機関の勘定系システムと連動していることを示しているので、単に預金の有無だけではなく、残高は当然として、入出金や振込の相手先情報などのすべてを役所はデータで入手できるとおもわれる。

  概略図 NTTデータホームページより (クリックで拡大)

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   課税庁にとって 大きな武器

 さて、自治体はもっぱら滞納整理に使っているが、国税庁が全国の国税局と税務署で使うとなれば、滞納整理に加えて調査に使うことになり、大変な「武器」を手に入れることになる。
 最も懸念することは、税務調査等において課税庁は納税者の預貯金情報を何らの規制も受けず、フリーパスで取得するであろうということである。

 つい最近まで、例えば法人税の調査で臨場した調査官は、真っ先に代表者および家族の預金取引一覧を提出してほしいと要求してきた。この行為は税法が規定する「調査の必要性」を逸脱しており、違法の批判を受けて最近は端からこのような要求をする調査官はいなくなった。
 と思っていたら、相続税の調査では端から質問応答記録書を取らせてほしいと要求する調査官が出ている。目的は、どこの金融機関に預貯金があるのかを質問して記録し、それ以外の金融機関に預貯金があったとすれば、質問に対して回答していない預金はであるから隠蔽にあたるとして重加算税を賦課するためだという。まさにひっかけのようなバカな調査手法をとる見識を疑うが、現実に行われているのである。

 このように、税務調査ではとにかく納税者の全預金を掌握し、脱漏を見つけようという手法が当然視されている。
 国税局としても、調査の「基本動作」と称して、①概況聴き取り調査、②現物確認調査、③金融機関調査の3動作を徹底してやれと指示し、それをやれば不正発見に結び付くと調査官の尻を叩いている。
 10月からこのサービスを使うとなれば、調査の対象に選定された納税者とその関連者について、着手前の準備調査の段階で預金照会を行い、事前に預金の取引状況を把握するものと思われる。
 そもそも法人調査の場合、代表者や役員及びその家族は直接の調査対象者ではないから、反面調査という範疇でしか調査はできない。それは本体に対する帳簿調査をへて、必要があれば行える調査であるが、おそらく課税庁は反面調査は本体にいちいち承諾を得ることなく課税庁の判断でできるので、違法ではないというだろう。

  法的に無整備

 これは行き過ぎである。今の質問検査権や反面調査権の規定は大雑把すぎるので、法律として詳細化し、特定の個人情報は情報入手の必要性を限定したり、その結果得られた情報を本人に通知するなど、税法的な手当てがなされなければならない。
 アメリカでは、金融機関が有する顧客情報に政府機関がみだりにアクセスできないように、金融プライバシー権法がある。
 また、課税庁は調査ではなく、一般的な情報として収集しているというかもしれない。これも行き過ぎであるが、この場合は行政指導の範疇になる。この場合は対象となる本人の承諾が必要であるから、本人に無断で預金情報を収集することはできない。
 今回のデジタル預金照会本格導入は、法的に無整備であり、問題がありすぎる。

   目玉政策の「デジタル社会」実現 その実態モロに

 そもそもこの預貯金照会業務デジタル化は、目玉政策にぶち上げた自公政権のデジタルガバメントにむけて、国税庁が真っ先に導入を決めた政策である。
 デジタル庁の発足と併せて、デジタル社会が国民監視強化となるのは疑いなく、これはまさにそのことを示している。
 (本ホームページのトピックス135号も是非見ていただきたい)

 動きがとにかく早い。支配層は超監視社会や個人情報の商売活用自由化をデジタル社会の実現という飾り文句で作り出そうとしている。
 よくよく注意しなければならないのだ。