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  3ヶ月後から申請開始

   反対運動も活発化
 
 「新消費税法」が令和5年10月1日から施行となる。いわゆるインボイス制度がスタートとなる。
 まだ2年も先の話ではあるが、「インボイス導入反対」という動きがあちこちで起きている。それは、インボイス制度の基本となるインボイスの発行に関して、「適格請求書発行事業者」になるための登録申請が今年の10月1日から始まるからだ。「登録事業者」にならなければ適格請求書・適格簡易請求書=インボイスを発行できなくなる。
 事前登録期間は令和3年10月1日から令和5年3月31日である。この期間に登録すれば、インボイス制度が始まる令和5年10月1日から適格請求書・適格簡易請求書を発行できるというわけだ。
 登録は義務ではないので登録・非登録を自由に選択できるが、登録事業者にならなければ、その事業者が発行する請求書や領収書は非適格請求書となり、消費税法上で仕入税額控除の対象にならない。
 また、登録を申請できるのは、課税事業者に限られる。免税事業者は免税のままでいると登録申請できないため、「適格請求書発行事業者」になれない。インボイスを発行するためには、課税売上1,000万円の免税点以下であっても、課税事業者にならなければならない。
 課税事業者になれば、消費税の納税義務者になり、税務申告とそのための事務負担が生じる。
 というわけで、3か月後から登録申請が始まるので、事業者には「適格請求書発行事業者」になるかどうかの判断が求められる局面を迎えているので、インボイス制度に反対する動きも活発化している。
 
   消費税は廃止しかない
 
 ところで、この反対運動だが消費税の基本的な理解が違っていて、気持ちはわかるが筋が違うよといいたくなる。
 誤解のないように記しておくが、消費税は即時に廃止すべき税制である。これほど国民を愚弄する税金はない。
 消費税は課税済み所得からの支出に対して課税するのだから、その人の所得に対する二重課税であり、憲法が要請する最低生活費非課税という租税原則を踏みにじる違憲税制である。しかもその制度的仕組みはいい加減そのもので且つ手間暇のかかる悪税である。
 一方、徴税側からすれば各事業者が徴税機関に成り変わり徴税してくれるのであるから、源泉所得税と同じく、これほど徴税費がかからずおいしい税金はない。
 また、景気に対する弾性値が低く、経済と財政運営に活力と展望をもたらさないため、国の運営にも負の影響を与える間違った税制である。
 このようなバカな税制は即時に廃止すべきなのだ。だから、インボイスへの反対運動に賛同するとともに、さらなる奮闘も期待しているところだ。
 
   反対運動の理由
 
 そのうえで、次の記事を紹介したい。その新聞の記者とコメント提供者の名誉のために個別名などはぼかしていることをお断りしておく。
 
 インボイス制度は、販売農家の約9割を占める売り上げ1000万円以下の農家にも大きな影響を与えます。新鮮な農産物を消費者に届けている各地の販売所。出荷する多くの農家が免税農家です。この免税農家からインボイスが発行されないと、販売所は、仕入れ分の消費税額を差し引くことができなくなり、販売所の負担が増大します。生産者に消費税課税事業者になってもらうか、負担をそのままかぶるかの選択を迫られます。
 販売所の責任者は「販売所の消費税額は約400万円ですが、インボイス導入で1000万円以上も納税額が増えます。消費税分の値引きを押し付ければ、農家を切り捨てることになります。それはあり得ません。販売所と農家の経営を守るためにもインボイスは中止・延期すべきです。」と話します。
 
 
   何が問題か
 
 この記事と同じような内容の話は枚挙にいとまがないほどである。
 では、この記事の何が問題なのであろうか。
 一点目は、免税事業者からの仕入れは税額控除ができなくなるので、その業者の「負担」が増大する。その負担をかぶるか免税農家に課税事業者を求めるかの選択がせまられると、この記事を書いた記者が言い切っていること。これは誤り。
 一方販売所の責任者の話として、消費税の「納税額」が1000万円以上も増えるとしている。これは誤りではない。
 しかし、免税農家に消費税分の値引きを押し付ければ、という発想を述べていることを見ると、根に販売所が消費税を負担して損をすると考えていることがうかがえる。それは誤り。
加えて、値引の押し付けなどもってのほかである。
 
 消費税では、「負担」と「納税額」を同視したり混同してはいけない。
 消費税を負担するのは、「消費者」という身分の者である。「事業者」という身分の者は課税事業者であれば納税はするが負担は一切しない。
 この販売所の事例を紐解いてみよう。
 
① 消費税がないときの取引
   売上100,000万円-仕入60,000万円=粗利40,000万円(商売上で得る現金)
② 現行・消費税10%の取引で免税事業者も消費税を乗せて販売(仕入控除OK)
   売上110,000万円-仕入66,000万円=納税前の粗利44,000万円
   納税 10,000万円-6,000万円=4,000万円
   納税後の粗利 44,000万円-4,000万円=40,000万円(商売上で得る現金)
③ 導入後・免税事業者は消費税を乗せられずに販売(仕入控除できず)
   売上110,000万円-仕入60,000万円=納税前の粗利50,000万円
   納税 10,000万円-0万円=10,000万円
   納税後の粗利 50,000万円-10,000万円=40,000万円(商売上で得る現金)
 
 インボイスになり免税農家から仕入れたら販売所は確かに納税額が増える。しかし、負担は一切なく、商売上の利益は変わらない。納税資金さえしっかり管理できていれば、経営上の影響はまったくない。この消費税上の仕組みはどのような商売であれ、また規模の大小にかかわらず、貫徹される。
 消費税を負担するのは消費者=国民であり、事業者は納税はするが負担することは一切ない。
 免税事業者を理由に値引きを迫るなどは、仕組みの無知による愛嬌ではすまされない。「うちが損するから消費税分は値下げしてよ。」などと免税事業者に迫るのは、嘘で相手をだます詐欺に等しい。
 
   免税事業者のままだと損をする
 
 ところが、インボイスになると免税事業者は「事業者」ではなく、「消費者」の身分になる。このため、免税事業者は消費税を負担することになり、手許現金がそれまでの商売で得ていた現金より減ることになる。
 そもそも消費税=付加価値税は前段階控除方式をその仕組みとして成り立っている。業者間取引に免税事業者が入ることを仕組みとしていない。間に免税事業者が入ると、前段階控除方式が成立しないので、そんなことを想定しておらず、免税事業者が間に入れば消費税=付加価値税は根本的に崩れてしまうのだ。
 では、インボイス制度で免税事業者が入るとどうなるのか。免税事業者は消費税を転嫁できないので消費者の身分になり消費税を負担することになるため、商売上の利益が消費税分だけ減ってしまうのだ。一挙に10%も利益が減るのであるから、やっていけなくもなる。
 実はこれは消費税の仕組みから起きることなので、インボイスになる前も同じ。だから財務省は、免税事業者は仕入で支払った消費税を上乗せして請求しないと損をするよと、免税事業者であっても消費税をのせて商売しなさいと堂々と奨励していた。ところがインボイスになると免税事業者に消費税をのせて請求しなさいとは法令違反になるからいえない。そこで財務省は何を言っているのかといえば、課税事業者になるしかないけれど、簡易課税があるからそれでやったらといっているのだ。
 
   租税特別措置で中小業者を守れ
 
 財務省はインボイス移行で161万の免税事業者が課税事業者を選択し、それによる増収が2,480億円になるとはじいている。
 間違えないでいただきたいが、これは免税事業者が課税事業者になって新たに負担する額ではない。益税として免税事業者にとどまっていた消費税が納税されるにすぎない。消費者はすでに負担済みなのに、国庫に入っていなかったにすぎないものだ。
 ただ、免税から課税となると、事務負担と申告業務がのしかかる。それは、中小業者にすれば少なからぬ負担であろう。
 そもそも免税制度は中小業者のそうした事務負担に配慮して設けられたものだ。
 そこで提案だが、消費税制の仕組み上免税制度は設けないこととする。事業者はすべて課税事業者として消費税の前段階控除方式のチェーンを繋ぐために、事業者は例外なく課税事業者とするのである。
 そのうえで中小業者対策として租税特別措置を行い、例えば課税売上500万円以下の消費税申告については算出された消費税(地方消費税を含む)と同額を仕入税額控除額とし、納税額はゼロとするのである。いうまでもないがこれは益税となるが、中小業者の保護という政策上の措置であるから割切るしかない。
 法人税や所得税でたくさんの租税特別措置が手当てされていることからみれば可愛いものである。
 こうすれば、免税が排除され消費税の仕組みは貫徹され、中小業者対策もなされることになる。
 
 改めて言うが、消費税を負担しているのは消費者、つまり一人一人の国民であり、かかる悪税は廃止すべきである。

 そのうえで、いい加減な消費税制を少しでも基本に近づける施策としてインボイス制度へ移行することは、ある意味当然の流れである。であるなら、消費税制の欠陥を正すインボイス制度自体に反対するのではなく、中小業者対策を政治的課題として確立させることが大事なのではないだろうか。インボイス移行反対は、筋が違うといわざるを得ない。