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  税金対策の限界と矛盾を踏まえて
    
できることはやりつくす姿勢を

 東武東上線の車窓から埼玉県・高坂あたりでは今も屋根を青いビニールシートで覆った家屋が散見される。3月11日の地震による被害である。被害地域は広大でかつ甚大だ。
 阪神淡路大震災と比較される場面も多いが、阪神淡路大震災のときは1カ月で震災対応税制が施行された。今回は4月27日に震災対応税制の第1弾が国会を通過した。
 政府は「今般の東日本大震災による被害が未曾有のものであることに鑑み、現行税制をそのまま適用することが被災納税者の実態等に照らして適当でないと考えられるもの等について、緊急の対応として、以下の措置を講ずる。なお、以下の緊急対応に加え、全体の復興支援策の中で税制で対応すべき施策については、後日とりまとめる。」とし、第2弾も用意するという。
 甚大な被害に対して、税金で対応できることは限られている。そのことを押さえつつ、税金で対応できることは措置しつくすという姿勢を政府は貫いてほしい。
 第1弾を見ると、例えば所得税では繰戻し還付が前年の1年分の税金を対象として青色申告者は還付可能としているが、疑問が残る。

  具体例による疑問点

 同程度の規模で事業をしていた被災者が3名いたとする。
 Aさん(青色申告者)=20年所得税0円。21年所得税100万円納付。22年所得税100万円納付。3年間トータルで200万円納付している。
 工場と家が全壊し22年所得再計算で所得は純損失△1,000万円に。その結果、22年分の所得税100万円は0円となり、21年分についても100万円全額還付になるとする。Aさんは200万円の税金が還付される。
 Bさん(青色申告者)=20年所得税300万円納付。21年分所得税0円。22年所得税10万円納付。3年間トータルで310万円納付している。
 被害状況はAさんと同じで22年の純損失△1,000万円に。その結果、22年分の所得税10万円は0円となるが、21年分の繰戻し還付はない。Bさんは10万円の税金が還付される。
 Cさん(白色申告者)=税金の納付や被害状況等はすべてAさんと同じであった。3年間トータルで200万円納付している。Cさんは白色のため繰戻し還付ができない。Cさんは22年分の所得税100万円の税金が還付される。
 いま日本経済に関して政治に求められていることは何か。それは復興のひと言に尽きる。
 同じ事業者の3名を復興させるために、今回の税金措置だけを見るとAさんは200万円の資金、Bさんは10万円の資金、Cさんは100万円の資金が手当されるのだが、3名の3年間の納税額と対比しても大きな矛盾が生じる。例えば青色と白色の違いを、青色申告の特典という視点でそのまま震災対策税制として適用することが政治判断として妥当なのかどうかという問題である。繰戻し還付を1年前だけでいいのかという問題である。

  災害対応の視座を変えなければ

 政府の根本思想は、災害による私的財産の回復は自助努力である。公的資金や税金は使わないという姿勢である。確かに、税制上、災害に対する措置が設けられてきたが、その視座は不幸にも限定的な個別被害にあった場合に対するものといえる。産業基盤や社会基盤が根こそぎ壊滅する災害を視座においているものではない。
 取り急ぎの第1弾はやむをえないとして、視座を抜本的に見直した上で震災対応税制を構築してほしいと切に望みたい。

 <成立した第1弾のポイント>  不明点は当事務所に問い合わせください。
【所得税】
1.雑損控除の特例
① 住宅や家財等に係る損失の雑損控除について、22年分所得での適用を可能とする。
② 繰越し可能期間を5年とする(現行3年)。
2.災害減免法による所得税の減免措置の前年分適用の特例
住宅や家財の損失に係る災害減免法の適用について、22年分所得での適用を可能とする。
3.被災事業用資産の損失の特例
① 22年分所得の計算上、被災事業用資産の損失の必要経費への算入を可能とする。青色申告者については、被災事業用資産以外の損失を含めて、22年分所得で純損失が生じた場合には、更に21年分所得への繰戻し還付を可能とする。
② 被災事業用資産の損失による純損失について、繰越し可能期間を5年とする(現行3年)。保有資産に占める被災事業用資産の割合が1割以上である場合には、被災事業用資産以外の損失を含めて、現行3年の繰越しが可能な純損失について、繰越期間を5年とする。
4.住宅ローン減税の適用の特例
住宅ローン控除の適用住宅が、大震災により滅失等しても、24年分以降の残存期間の継続適用を可能とする。
5.財形住宅・年金貯蓄の非課税
平成23年3月11日から平成24年3月10日までに行われた財形住宅・年金貯蓄の大震災による目的外の払戻しについて、利子等に対する遡及課税を行わないこととする。
6.大震災関連寄附に係る寄附金控除の拡充
平成23年、24年、25年分の所得税において、大震災関連寄附について、寄附金控除の控除可能限度枠を総所得の80%(現行:40%)に拡大する。
また、認定NPO法人等が、大震災に関して被災者の救援活動等のため募集する寄附について、指定寄附金として指定した上で、税額控除制度を導入する(税額控除率40%、所得税額の25%を限度)。
【法人税】
1.震災損失の繰戻しによる法人税額の還付
平成23年3月11日から平成24年3月10日までの間に終了する事業年度において、法人の欠損金額のうちに震災損失金額がある場合には、その震災損失金額の全額について2年間まで遡って繰戻し還付を可能とする。
また、平成23年3月11日から同年9月10日までの間に中間期間が終了する場合、仮決算の中間申告により同様の繰戻し還付を可能とする。
(注)大震災に係る国税通則法による申告期限の延長により、法人税の中間申告期限と確定申告期限が同一の日となる場合には、中間申告書の提出を不要とする。
2.利子・配当等に係る源泉所得税額の還付
平成23年3月11日から同年9月10日までの間に中間期間が終了する場合、仮決算の中間申告により、震災損失金額の範囲内で、法人税額から控除しきれない利子・配当等に係る源泉所得税額の還付を可能とする。
3.被災代替資産等の特別償却
平成23年3月11日から平成28年3月31日までの間に、①被災した資産(建物、構築物、機械装置、船舶、航空機、車両)の代替として取得する資産、②被災区域内において取得する資産(建物、構築物、機械装置)について、特別償却を可能とする。
(注1)被災区域:大震災により滅失した建物等の敷地の用に供されていた土地等の区域(下記4.において同じ)
(注2)償却率は、平成26年3月31日以前に取得した場合、建物・構築物について15%(中小企業者等は18%)、機械装置・船舶・航空機・車両について30%(中小企業者等は36%)とし、平成26年4月1日以後に取得した場合はこれらの2/3の率とする。
4.特定の資産の買換えの場合の課税の特例(略)
5.買換え特例に係る買換資産の取得期間等の延長(略)
【資産税】
1.指定地域内の土地等の評価に係る基準時の特例、申告期限の延長
大震災前に取得した財産に係る相続税・贈与税で大震災後に申告期限が到来するものについて、指定地域内の土地等及び一定の非上場株式等の価額を大震災後を基準とした評価額とすることを可能とすると共に、その申告期限を延長する。
(注)上記の事例において、建物等が大震災により被害を受けた場合には、災害減免法により、被害額を控除して相続税等を計算することができる。
2.住宅取得等資金の贈与税の特例措置に係る居住要件の免除等
住宅取得等資金の贈与税の特例の適用を受けようとしていた住宅が、大震災により滅失して居住できなくなった場合には、その住宅への居住要件を免除する。
贈与された住宅取得等資金について贈与税の特例を受けようとしていた者が、大震災により居住要件を満たせない場合、居住期限を1年延長する等の措置を講ずる。
3.被災した建物の建替え等に係る登録免許税の免税(略)
4.被災した船舶・航空機の再建造等に係る登録免許税の免税(略)
【消費課税】
1.消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例(略)
2.消費税の中間申告書の提出に係る特例(略)
3.特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税(略)
4.建設工事の請負に関する契約書等の印紙税の非課税
大震災により滅失・損壊した建物の代替建物を新築又は取得する場合、大震災により滅失・損壊した建物の代替建物の敷地の用に供する土地を取得する場合又は大震災により損壊した建物を修繕する場合等において、平成23年3月11日から平成33年3月31日までの間に被災者が作成する建設工事の請負契約書・不動産の売買契約書に係る印紙税を非課税とする。
5.被災自動車に係る自動車重量税の特例還付(略)
6.被災者の買換え車両に係る自動車重量税の免税措置(略)
<その他>
・ 寄附金の指定(寄附金控除等の対象化)
今回の地震に関して中央共同募金会が募集するNPO法人や民間ボランティア団体等向けの寄附金を告示により指定(3月15日に告示済み)。
公共法人・公益法人等が設置する公益の用に供される建物等で、大震災により滅失・損壊したものの原状回復のため、一定の要件の下にその公益法人等が募集する寄附金を告示により指定(復旧の動きを見ながら対応)。