誰が被害者?……それは国民に他ならない 事務所かわら版でも取り上げたが、衝撃の大きな事件だけに、このページでも視点を変えて取り上げることにした。 厚労省の村木元局長が無罪になった。 |
一方、検察に飛び火した事件の余波はしばらく続きそうで、決着が大いに注目される。しかし、一連の報道に接してきて、違和感がつきまとう。
事件の被害者は誰か。それに対する責任問題、事件の再発防止はどうなったのかがさっぱり見えてこないからだ。
この事件は、障害者団体が定期刊行物を格安で郵送できる制度を悪用した事件である。実体のない団体が厚労省のニセ証明書を偽造し、企業から注文を受けて広告ダイレクトメールを格安料金で大量発送していたというもの。
証明書の偽造がなければ、企業は正規の郵便料金を日本郵政に支払わなければならなかったわけだから、直接的には日本郵政が被害にあったことになる。しかし、郵便事業が民営化されたとはいえ、この会社は国民の財産であり、その利益は国民に還元される。一私企業とはまったく違うのであり、日本郵政の利益を詐取したこの事件の被害者はつまるところ国民である。
カラクリを知っていて利用した企業は料金の追徴を支払ったようだが、過去の不明分もあり完全に実損が補填されたとは言いがたい。
脇の甘さと知恵のなさ
証拠隠滅にまつわる動きは、一人の検事がこっそりとやったにせよ、組織的に事態は把握されていたという。そのうえで裁判を進行させたというのだから、無実判決は別として、関連した検察陣の判断力のなさ、対応の甘さが浮かび上がる。法律的な知識は豊富なのだろうが、事態に対処する知恵がないということだろう。危機管理能力の欠如は、世間では「脇が甘い」という評価となり、見下されることになる。
監督責任はどうなのか
厚労省に目を移せば、事件に直接かかわっていなかったにせよ、村木元局長の監督権限が及ぶ部署でのニセ証明書事件であり、それによって郵便料金の詐欺行為が実行されたのだから、管理者に監督者責任が及び、処分の対象となるのは当然といえる。
税務署で事務官が還付金などを着服した事件が何件かあった。直属の上司である統括官はもちろん、署長、副署長も管理者責任を問われて減給などの処分を受けている。組織とはそういうものだ。
行政機関ならなおさらである。日ごろの部下の仕事を管理し、法にのっとり、国民に奉仕する仕事を完遂していくために、キャリア官僚や管理職には破格の権限と給与を与えているのだ。
部下が、法律違反、国民に損害を与える犯罪を行政行為のなかで行ったのであれば、当然に管理監督責任を問われるはずだが、でっち上げ被害者になり、局長ポストにカンバックだという。マスコミの報道姿勢には辟易とさせられるが、厚労省自体が事件再発防止に向けてどのように姿勢を正し、対策をとるのかまったく見えない。
今回の一連の流れを見ると、検察、厚労省、マスコミはトンチンカンなことをやっているなあと、うそ寒くなる。
長妻前厚労相は9月22日の退任記者会見で、厚労省について「隠蔽体質、無駄遣い、天下り体質があり、世間の期待に比べて動きがワンテンポずれていた」と評価した、と報道された。やっぱりそうかと思う一方、政治家のズレも気にかかる。