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   NHKスペシャル

 1月25日、NHKBS1スペシャルとして「原爆投下~知られざる作戦を追う~」が放映された。これは昨年9月3日に放映されたNHKスペシャル「決断なき原爆投下~米大統領71年目の真実~」の再放送である。
 なぜ題名を変えたのか興味が湧くところだが、別の視点からこの放送を取り上げたいと思った。

   軍事費過去最高

 自公政権は29年度予算案を国会に提出した。焦点のひとつである防衛予算(軍事費)は総額で5兆1,251億円で過去最高額を更新。
 新兵器としてF35Aステルス戦闘機6機分880億円を計上しているが、目を引くのは防衛省が武器開発に応用可能な研究費を大学などに出し、軍事研究をさせる「安全保障技術研究推進制度」に110億円が計上されたことだ。前年度の6億円から18倍に増額され、「軍学共同」が加速する虞がある。

  原爆開発と使用・・そして

 1945年8月6日広島、8月9日長崎にアメリカは原子爆弾を投下した。
 NHKが放送した概要は次のようなことである。
 アメリカは第二次世界大戦で新兵器として原子爆弾の開発を目指した。開発責任者はグローブスという軍人である。
 彼は、全米各地の物理学者や気象学者等を開発に携わらせた。巨費も投じた。学者たちはそれぞれ専門部門の研究を任され、全体像の情報は提供されず、グローブス1人が新兵器のすべてを掌握した。
 一方、グローブスは原爆の使用を具体的に検討し、トルーマン大統領に進言した。原爆を17発完成させ、日本のどこに投下するを示したのだ。
 グローブスはその効果を最大限に引き出すため、京都にこだわった。周りに山があり、爆心地5キロメートルの円内は壊滅することをにらんでのことだ。
 投下地点は市民の住む都市である。トルーマンは女性や子供を犠牲にするグローブスの提案はナチスの非人道的な大量殺りくと同じであり、世界から非難を受けるので避けたいと判断した。
 グローブスは京都をあきらめ、トルーマンの了解を取るため、広島を第一候補に挙げた。
 グローブスは、広島は軍港をもち都市全体が軍事都市だと報告した。軍事目標に限定するとトルーマンを意図的にだまし、トルーマンは一般市民の犠牲はないと思い込んだという。
 ただし、原爆投下指令はまだ発令されず、その状態でトルーマンは停戦のためのポツダムに飛び立った。
 グローブスは停戦になれば原爆投下はできないと焦る。
 なにしろ学者を大量動員し、巨費を投じた一大プロジェクトであり、しかも絶大な威力を持つ新兵器である。
 軍人として絶対に使用したい、投下したい、効果を確かめたいと突き詰める。
 グローブスは原爆投下指令をテニアンの基地に発する。
 広島に落とせ、用意ができ次第、長崎、小倉、新潟の4都市に次々と原爆を投下しろという指令である。
 この投下指令にトルーマン大統領の署名はないことが分かった。
 開発責任者グローブスという一軍人の独断である。原爆投下は大統領の決断抜きで行われたのである。
 一軍人の兵器を使いたいという思惑で、一般市民が大量に殺戮されたことをこの放送は明らかにした。

 一方トルーマンは、大統領の決断なき投下を隠した。そして、戦争を終わらすため原爆を使用し、それによってアメリカ軍人と日本人の犠牲拡大を防いだと、正当性を主張することに転換する。
 物理学者たちは負い目を感じることはない。
 軍人にしてみれば、新兵器は使いたくなる。強力兵器は使いたくなる。使うためには理由がいる。ならば、理由を作り出せばよいという行動になる。
 隠ぺいとゴマカシが歴史となった。

   歴史の真実と教え

 72年前の原爆投下を巡る真実は、29年度予算案の軍事費増大の危険性を教えていないか。
 「軍学共同」で新兵器を開発する結果の怖さに思い至らなければならない。
 軍事費拡大を続けてはならない。