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    クーデター

 戦争を心から憎む。国として絶対にやってはならない。
 「集団的自衛権」とは、「戦争に参加する」ということに他ならない。
 安倍首相は、憲法は条件があれば武器を取って戦争することができると解釈できるので、「戦争に参加する」という閣議決定をした。この閣議決定を受けて、次の通常国会で100本以上の関連法案を改正するとしている。誠に勝手な解釈である。
 安倍首相は、武器を脇に置き、戦争の身構えをすることが抑止力になるというが、なるわけがない。
 普通の手順でいえば、閣議決定する前に、抑止力になるのか確認するだろう。
 安倍首相が、「想定する敵国やテロ集団に日本はいつでも受けて立つぞ、それでも手をだすのかと率直に聞いたところ、相手は手を出さないと約束した。だから、集団的自衛権は抑止力になる。」というのなら、いくらか説得力はあるものの、そんな話はどこからも出てこない。
 自分のやることに本当に責任を持つなら、その位の動きをやってからにしてほしいが、この首相にそんな度量は見られない。自分が泥をかぶるでもなく、ただ権力をもてあそんで国の基本的在り方を変えようというのだ。
 国民を誤導して戦争する国づくりに邁進する安倍政権のこの動きについて、ある学者は「クーデター」と評した。明らかに憲法を踏みにじり、国の基本秩序を壊そうというのだから、この指摘が適切であろう。

    長谷川如是閑の突っ込み

 戦争と鋭く対峙した長谷川如是閑の著作に触れると、まるで今の安倍政権をにらんでコキ下ろしているかのようである。
 岩波書店 1989年(平成元年)11月20日発行の『長谷川如是閑集 第二巻』から引用させていただいた。
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   戦争絶滅受合法案

 世界戦争が終つてまだ十年経つか経たぬに、再び世界は戦争の危険に脅かされ、やれ軍縮条約の不戦条約のと、嘘の皮で張つた太鼓を叩き廻つても、既に前触れ小競り合ひは大国、小国の間に盛に行はれてゐる有様で、世界広しと雖も、この危険から超然たる国は何処にある? やゝその火の手の風上にあるのはデンマーク位なものだらうといふことである。
 そのデンマークでは、だから常備軍などゝいふ、廃刀令以前の日本武士の尻見たやうなものは全く不必要だといふので、常備軍廃止案が時々議会に提出されるが、常備軍のない国家は、大小を忘れた武士のやうに間のぬけた恰好だとでもいふのか、まだ丸腰になりきらない。
 然るに気の早いデンマークの江戸ツ子であるところの、フリツツ・ホルムといふコペンハーゲン在住の陸軍大将は、軍人ではあるがデンマーク人なので、この頃「戦争を絶滅させること受合ひの法律案」といふものを起草して、これを各国に配布した。何処の国でもこの法律を採用してこれを励行したら、何うしたつて戦争は起らないことを、牡丹餅ぼたもち判印で保証すると大将は力んでゐるから、どんな法律かと思へば、次ぎのやうな条文である。
「戦争行為の開始後又は宣戦布告の効力の生じたる後、十時間以内に次の処置をとるべきこと。
 即ち左の各項に該当する者を最下級の兵卒として召集し、出来るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従はしむべし。

一、国家の××(元首)。但し△△(君主)たると大統領たるとを問はず。尤も男子たること。
二、国家の××(元首)の男性の親族にして十六歳に達せる者。
三、総理大臣、及び各国務大臣、并に次官。
四、国民によつて選出されたる立法部の男性の代議士。但し戦争に反対の投票を為したる者は之を除く。
五、キリスト教又は他の寺院の僧正、管長、其他の高僧にして公然戦争に反対せざりし者。

 上記の有資格者は、戦争継続中、兵卒として召集さるべきものにして、本人の年齢、健康状態等を斟酌すべからず。但し健康状態に就ては召集後軍医官の検査を受けしむべし。
 上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争継続中、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。」

 これは確かに名案だが、各国をして此の法律案を採用せしめるためには、も一つホルム大将に、「戦争を絶滅させること受合の法律を採用させること受合の法律案」を起草して貰はねばならぬ。
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 安倍首相ご本人はこれを読んでどう考えるであろうか。

    現行刑法との関係は?

 「戦争を絶滅させること受合ひの法律案」が提案されることも、そうした法律が成立することも現実にはないであろう。
 しかし、日本に今ある憲法と法律は、実はそれ以上にすごい。
 公務員の憲法順守義務はすでに語られており、安倍首相や改憲解釈を推進している政治家、公務員はすべて憲法に違反しているといっていい。
 しかし、それだけにとどまらない。刑法には「内乱に関する罪」が規定されている。
 安倍首相のこれに関する行動は「クーデター」と評されるのだから、内乱といってもいいだろう。刑法は次のように規定する。
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 第二章 内乱に関する罪

(内乱)
第七十七条 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。
三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。

(予備及び陰謀)
第七十八条  内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。

(内乱等幇助)
第七十九条 兵器、資金若しくは食糧を供給し、又はその他の行為により、前二条の罪を幇助した者は、七年以下の禁錮に処する。

(自首による刑の免除)
第八十条 前二条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する。
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 これが適用されれば、戦場に送り込むどころの話ではない。首謀者は死刑か無期懲役である。
 閣議決定に対して違憲訴訟を起こした人がいると報じられているが、法律家には、内乱に関する罪との関係を是非検討してもらいたいものだ。