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 アメリカのボルトン前大統領補佐官が回顧録を出した。
 そこには、トランプ米大統領が昨年7月に訪日したとき、在日駐留米軍の経費負担金として年間80億ドル(約8,500億円)を出せと日本の政府高官に伝えたことが記してあると、一斉に報道された。
 ボルトン氏は、いま日本が負担している額は25億ドル(2,700億円)で、その3倍強をぶつけたとしているが、この25億ドルは「思いやり予算」(1,970億円)に再編経費を加えたものとみられると報道されている。

 在日駐留米軍の経費負担金って、いったい何のことかと思われる方もいると思う。
 ものすごくわかりやすく言えば、暴力団の「みかじめ料」と思っていただければ間違いない。
 語源は、毎月3日に支払わせるという説とか、3日以内に支払わなければお前を締め上げるという説がある。3日で締め上げるから「みかじめ」というわけ。
 暴力団の言い分は、「この辺りはうちが取り仕切っているのだから、場所代をよこせ」、「支払えば商売を認めるし守ってもやる」ということだとされている。
 暴対法では「みかじめ料」の要求を、「暴力的要求行為」の一つとして禁止し、中止命令の対象になっている。

 ボルトン回顧録では、トランプ大統領は日本への要求を実現するためには「駐留米軍」を撤退させると脅すのが効果的で、交渉の立場を強くすると話したとも記載されているそうだ。
 「おう、日本サンよ、みかじめ料8,500億円支払えや。支払わなんだらウチの若い衆とヤッパ(武器)を全部引き上げるど。そしたら隣のシマの連中が舌なめずりして襲ってくるぞ。商売どころじゃあるまい。そんでええのか」と、まるで東映の仁侠映画そのままが映像として思い浮かぶではないか。

 なぜこんな無法がまかり通るのだろうか。
 先月6月23日は、1960年に岸首相が行った日米安保条約の改定発効から60年であった。この改定がもたらした意味として、日本はアメリカの属州になったという学者もいる。
 この改定安保条約第6条に基づき、「日米地位協定」が結ばれている。この協定の柱は、①基地の提供、②基地の管理、③米軍・軍属の特権的地位であり、ここに日本の費用負担も盛り込まれている。条文を見てみよう。

日米地位協定 第二十四条

1 日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費は、2に規定するところにより日本国が負担すべきものを除くほか、この協定の存続期間中日本国に負担をかけないで合衆国が負担することが合意される。

2 日本国は、第二条及び第三条に定めるすべての施設及び区域並びに路線権(飛行場及び港における施設及び区域のように共同に使用される施設及び区域を含む。)をこの協定の存続期間中合衆国に負担をかけないで提供し、かつ、相当の場合には、施設及び区域並びに路線権の所有者及び提供者に補償を行なうことが合意される。

3 この協定に基づいて生ずる資金上の取引に適用すべき経理のため、日本国政府と合衆国政府との間に取極を行なうことが合意される。

 24条は、読んでいただいたように、日米双方の駐留経費負担の在り方を定めている。
 日本の経費負担は、施設・区域(基地や演習場)・土地の賃料や地主への補償と規定し、それ以外のすべての駐留経費は日本に負担をかけないで合衆国が負担すると取り決めている。実際に、1960年から1978年まではこれが守られていた。
 しかし、1970年代のベトナム戦争でアメリカの財政が泥沼化すると、アメリカは同盟国に「責任分担」を要求し、金丸氏が防衛庁長官だったときに「思いやり予算」として1978年以降、基地従業員の福利厚生費の負担を開始した。
 その後次々と拡大解釈して「思いやり予算」を増加し続け、1987年には「特別協定」を締結して従業員の基本給まで拡大して今日に至っている。
 その思いやり予算は2019年度で1,970億円だ。たまたま手元に2018年度の内訳資料がある。2019年度と2億円しか違わないので参考にしてほしい。

 2018年度「思いやり予算」の内訳
 提供施設設備費   206億円
 労務費(福利費)  270億円
 労務費(基本給) 1,251億円
 光熱水料      232億円
 訓練移転費      9億円
  合計      1,968億円

 この金額は安保条約上も地位協定上も支払う義務のないものである。
 「責任分担」という脅しで支払いに応じたところ、次々と要求が拡大し、今度はとてつもない金額が突き付けられた状態になっているというのが、ボルトン氏が明かした今日の姿である。
 脅しに屈するのか否か、さあどうする、どうする。戦後日本の総決算を掲げ、アメリカ押し付けの憲法を変えようと息巻くお方よ。