急増、一方で未申請も
生活保護の受給者は、去年10月の時点で196万人(全国)を超えたと厚労省が発表した。失業者の増加などに伴って急増していて、最も少なかった平成7年に比べると2倍に増えているという。
日本の総人口は平成17年の前回国勢調査で1億2,700万人。その後も人口減少が進んでいるといわれているので、昨年実施された国勢調査の結果待ち(今2月、速報値が発表される予定)だが、総人口は1億2,000万人ギリギリか割り込む可能性もある。いずれにせよ、総人口比率で1.6%が生活保護を受けているという異常事態だ。
金額では、国と自治体が負担する保護費の総額は、平成21年度には3兆円を超えた。
ちなみに、さいたま市は1月28日、2011年度の当初予算案を発表したが、一般会計は、生活保護など扶助費の拡大で前年度当初比2・8%増の4,408億9千万円で過去最大を更新した。
人数も金額も増加しているので、それなりにセーフティネットとしては機能していると思いたい。
しかし、受給要件があるのに申請しない人が受給者比で15%程度、つまり30万人ほどいるといわれている。
つい最近も生活保護を申請せずに餓死した事件が報じられた。生存権としての社会保障として生活保護が機能しているとは言いがたいのが、日本の現状ではないのか。
政府と自治体がやるべきことは、きめ細かなセーフティネットを地域社会に構築して、もれなく救い出し、受給者が「恥辱」を感ずることなくスムーズに受給できる体制をとることだ。
抑制ねらいの「改正」に動く
なぜこの事態が生じているのか。原因は誰の目にも明らかだ。さすがに厚労省も、厳しい雇用情勢が続いていることを原因としている。人材派遣の規制緩和など、政府と財界がグルミで推し進めてきた大企業に都合のよい雇用政策の結果である。
ところが、1月25日、細川厚生労働大臣が閣議のあとの記者会見で「働く能力があっても就職できずに生活保護を受ける人が増えていて、就職を促すためにはどうしたらよいのか、自治体としっかり協議していきたい」とし、生活保護の受給者の増加に歯止めがかからないことから、受給者の自立支援の強化や不正受給を防止する新たな対策を検討し、生活保護法の改正を目指すと語った。
「仕事への意欲のない人は、原則として3年ごとに生活保護の適用を見直す」というのだから、働こうとしないものは生活保護も削る方向の改正ということだ。
意欲だけで働き口は確保されるのか
国民全体が飢えることなく文化的な生活を維持していくことは憲法が示すところ。政府はその実現に向けて政策を定めて実行することが求められている。
そのとき、原因を深く掘り下げて政策を立案しなければ、場違いな結果を招く。
政令市の市長会は、仕事ができる人の就労意欲を高めるプログラムを作成することや、受給者の自立を促すための仕組み作りを模索しているという。それも必要なことだ。しかし、現在日本の労働者・失業者をめぐる状況は、就労意欲を高めれば就業し、自然と失業率が下がるというものではない。
単に失業率で示される失業数だけではなく、短期雇用、最低賃金すら守られない低賃金、長時間労働と残業代未払いなど、労働者は健康不安と生活保護という左右の谷を覗きながら、細い尾根を歩んでいる状態に追い込まれている。
いったん職を失うと、意欲があろうと職につくのは容易ではない。
企業が横暴を極めている状況を出現させた政策と企業の倫理を、国が規制する政策を打ち出さない限り、展望は見出せないだろう。
ある意味最後のセーフティネットである。支出が増えるので抑制すればいいというものではない。あれこれ場当たり的政策を打ち出すのではなく、総合的な施策を打ち出してもらいたい。