減額決定を取り消し
国が2013年8月から実施した生活保護基準の引き下げは憲法25条<生存権の保障>に違反するとして、大阪府内の生活保護受給者42人が、生活保護費を減額した決定の取り消しを求めた「生活保護基準引き下げ違憲訴訟」の判決が2月22日、大阪地裁であった。
森鍵一裁判長は、生活保護費の減額処分は違法であるとし、処分を取り消す判決を出した。
憲法25条の法的性格については諸説あるが、憲法25条は国民の「権利」を保障し、国の法的義務を定めたものであるとする説から考えてみた。法的権利説 ・・・ <国民の納税の義務を定めた憲法からの逆説として当然の権利とみる>
日本国憲法第25条
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低生活を営む権利を有する。
第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
・ 生存権の法的性格について
ⅰ 具体的権利説
憲法25条を直接の根拠として裁判所の給付判決を求めうる、とする説
ⅱ 抽象的権利説
憲法25条を直接の根拠として裁判所の給付判決を求めることはできず、国が憲法25条を具体化する立法をしない場合に国の不作為の違憲確認訴訟を提起できるのみとする説
・ 1項と2項の関係について
ⅰ 1項・2項一体説
第1項と第2項を同一の射程をもつものとして一体的に捉える説
ⅱ 1項・2項分離説
第1項による施策を「救貧施策」、第2項による施策を「防貧施策」とし、前者については厳格な審査基準が妥当するが、後者については裁量権の行使を著しく誤り裁量権の範囲を逸脱した場合に限って意見となすという説
憲法第25条を引用する法律
生活保護法(昭和25年)
第1条 この法律は日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
国民年金法(昭和34年)
第1条 国民年金制度は、日本国憲法第25第2項に規定する理念に基づき、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
ワイマール憲法(1919年)
第151条第1項 経済政策の秩序は、すべての者に人間たるに値する生存を保障する目的をもつ正義の原則に適合しなければならない。この限界内で、個人の経済的自由は確保されなければならない。
(出典:浦部法穂「全訂憲法学教室」(日本評論社、2000)より引用)
「勝訴」の旗が掲げられた瞬間、地裁前は感性と涙に包まれた。原告の女性は「6年間ずっと苦しかった。社会を変えるたたかいはこれからも続く」と語っていた。
判決は、引き下げの名目とされた「デフレ調整」について、消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落(2008年を起点とした物価の下落を根拠とした指数)率を基にした改定は、客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法であると断じた。
自助、共助、公助を柱にする菅政権。 コロナ禍、生活保護費の引き下げで低所得者国民の生活は困窮している。 生活保護基準は国民の生命も危うくしている。 まさに裁量権の逸脱である。
菅政権は「国民の生活にあまりにも無頓着だ」
コロナ影響 生活保護申請24.8%増
厚生労働省は今年4月の生活保護の申請件数が21,486件と前年同月に比し24.8%増加し、2012年4月の統計開始以来過去最大となったと発表した。
しかし、生活保護の支給を開始した世帯数は19,362件(前年同月比14.8%)と圧倒的に少ない。
まずは自助、共助。 公助は最後の最後だとする政策の反映だ。
日本では生活保護利用者は1.6%しかおらず、先進諸国に比し圧倒的に少ない。
しかも、生活保護を利用する資格のある人のうち、生活保護を利用している割合(捕捉率)は2割程度しかおらず、残り8割(数百万人)もの人が生活保護から漏れている。 これは、圧倒的に行政の怠慢で、政治の責任<補足拒否>である。
捕捉率をドイツ並みに引き上げられれば、利用者は717万人になる。
「餓死」「孤独死」「生活苦自殺」・・・の背景には、生活保護の利用率・捕捉率の低さが影響している。
強欲資本主義<経済政策の不正義>、国民の生命無視<自助・共助の強要>の政策を転換しなければならない !