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    空き“地” 空き“家” 増え ・・・ 生活圏が劣化

 小林多喜二の代表作のひとつに「不在地主」という長編小説がある。(1929・昭和4年「中央公論」)
 磯野小作争議という実際の事件をモデルに、農村の搾取構造を描いたプロレタリア小説である。
 農場の主人「岸野」が不在であるにもかかわらず、その代理人に管理される村。S村。 そこで貧農生活を送る“健”は、だんだんと農村と都会の搾取の構造を学びながら、仲間たちと共に、争議を展開していく。 貧困と差別のなかで、搾取の構造を明らかにし、闘いへと立ち上がっていく青年の姿を描いた小説である。

    放置されている廃屋
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 いま、○○ファーストと独りよがりの独善が持て囃され、分断と差別が蔓延し、都市と地方の格差、政治・官と国民の乖離、貧困の連鎖、税の集め方と税の使い方の不道理など、時代に違いはあるが搾取の構造は多岐にわたっている。

   下落する 「不動産価格」  重い 「固定資産税」

 バブル崩壊後、土地価格は“半値”、“8掛”、“2割引”と言われ、全国的に地価は値下がりした。
半値、8掛、2割引とは最高値の32%である。 埼玉50㌔圏にある事務所近郊の地価をみても、バブル最盛期、「坪100万円ですよ」と不動産業者がテレビ放映で話していた地方の商店地、現在価格は3.3㎡当り33万円以下である。
 バブルをしのぐ地価、商業地10年ぶり上昇。 と、公示地価、路線価、基準地価の発表に新聞紙面は踊っているが、2020年オリンピック需要や観光地の再開発、異次元金融緩和が地価を引上げた(官製バブル)もので、地価は地方圏や生活圏は26年連続で下がっている。

 固定資産税はどうなっているのか? 地方圏や生活圏の地価は26年連続で下がっているが、固定資産税は26年連続して上がっているか高止まりしているのが現状だ。
 何故不動産価格は下落しているのに、固定資産税は上がりし続けているのか ?
 地価が値上がりしても何の利益をもたらさない居住地や市街地農地を持っている人にとっては相当の負担増を強いられている。

 ● 事務所で対応した事例を見よう!

1 東京近郊の農家(A氏)。 先々代の相続時、相続人間の話し合いがまとまらず相続未登記のまま。 今では法定相続人が増え27人に。 全く見知らずの人もいる。
 今回の(先代)相続時も27人の相続人の了解が得られず未分割で相続税申告(農業相続人を指定できず、相続税の納税猶予は適用できない)をした。 宅地の広さは約450坪(1,485㎡・台帳宅地1筆/北側2/3約1,000㎡は屋敷山林〈防風林.お稲荷様地〉、昔の農家の敷地としては広くはない)、自宅は現代風に建替えて敷地約100坪(330㎡)。 先々代から名義変更はできていない。 固定資産税は、1,485㎡を宅地として課税してきている。 課税は法定相続人の代表者と認定され全てA氏に求めてくる。 A氏は近郊農家として相応の畑を所有しているが市街化区域とされ宅地並みの固定資産税・都市計画税が課税され負担は年間約91万円に達する。

2 人口1万人程度の田舎町。 2筆の畑を所有していた(別に居宅地あり)。 無道路地である。その畑の隣地に役場は小さな公共施設を建設した。 公共施設建設にあたり市街化区域と市街化調整区域の見直しがされ、当該畑2筆は市街化区域に線引き替えされた。 当該奥隣地の畑は市街化調整区域のまま残された。
 市街化区域に編入された畑は宅地並み課税とされ固定資産税評価額は近傍畑評価額@㎡当り20,500円、課税評価額は12,872円。 調整区域に残された奥隣地畑は@㎡当り59円である。

 従来と変わらず耕作しているのに、勝手に線引きされ市街化区域に編入された耕作畑地、奥隣地畑の218倍の課税評価額である。

 納税義務者の特定・固定資産評価額の算定はそれぞれの自治体に委ねられているが、所有権利者の実態を無視した課税、現況不動産価値、利用からかけ離れた評価額課税は納税者の信頼を失う。

 結果、「不在地主」、「不在家主」を生む遠因にもなってくる。

   何故  固定資産税はかかるの ?

 中国の土地の所有者は国家であり、土地を使用したい場合は使用料(賃借料)を支払うという。
 日本は土地の所有権者は個人である。個人で所有しているのに中国のように使用料(固定資産税)を毎年支払わなければならないのか? 納得できる人は少ないだろう。

 民法的に所有権とは、自分のものである。 使用・収益・処分など権利の乱用にならない範囲で自由に好きにしてよいものだ。
 にもかかわらず、無理をして土地を購入しても固定資産税を(毎年)納めなければならない。 土地持ちは金持ちなのか?  金持は土地など購入せず、株や金塊を購入する。 株や金塊は所有しているだけでは税金はかからない。  固定資産税とは何なのか ?

 固定資産税は市町村(国)にとっては安定的で確実な税収(約4割を占める)である。
 さまざまな理由はあるが、行政費用調達のみを目的とするなら、戦争をするために戦費調達が必要だ。戦費調達の税制はやむを得ない。 と成りかねない。

 相続税も増税された。 3代で資産は無くなる時代である。

 不在地主・不在家主のため生活圏が荒れ果て、獣が棲みついている状況が報道されている。当然、固定資産税も徴収できず、市街地整備も手につかない現況も発生している。 今後、不在地主、不在家主が急増し、地方圏のみならず、首都圏でも生活環境を脅かす時代になってきた。

    空地は 投げ売り  空家は 老朽化

 バブル時代原野商法(「この土地は値上がりする」・「近くに駅ができ便利になる」といって土地を売りつける商法)が隆盛した。
 今、別荘地など空地、空家、首都圏での空店舗、空工場が投げ売りとなっている。
 バブル末期、約100坪(330㎡)の(高級)別荘地を1,850万円で購入した。 この間、固定資産税(空地だが宅地課税)を27年間払い続けたが、今回売却した。 買い手はなかなか見つからず、更地のまま売却価格10万円。 仲介業者(宣伝費・仲介料等)へ22万円支払った。 結果、1,850万円+12万円+27年間の固定資産税がマイナスである。
 子どもはいらないと言う。 税負担や管理コストが負担しきれないのが理由だ。

 今後少子高齢化はますます進み、相続放棄地、放棄したくてもできない土地、市町村へ寄付を申し出ても門前払いされる土地、市場価値は落ちたのに税負担や管理コストが重くのしかかる土地や家屋、マンションなど 所有者不明土地・所有者不明家屋が増大し、もはや「不動産」ではなく「負動産」の問題が全国的に広がって来る。

 日本全体で空家の数は5年間で63万戸増え約820万戸、住宅総数の13.5%(総務省2013年調べ)
を占めている。 2020年以降30%を超える時代が予想されている。