税理士は、税務当局の「下請」?
税理士法第1条は、「税理士は、税の専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」 と規定している。 一方、財務省設置法第19条は、「国税庁は、内国税の適性かつ公平な賦課及び徴収を実現、酒類業の健全な発達及び税理士業務の適正な運営を図ることを任務とする。」 と規定している。 |
相矛盾する規定である。
税理士法は「・・・独立した公正な立場」を使命とし、“自主・独立・非支配”を掲げ、納税義務者の信頼にこたえるとしている。
財務省設置法は「・・・税理士業務の適正な運営を図る」を任務とし、“管理・監督・支配”を掲げ、国税庁の免許制度の下にある酒小売業と同様に税理士を位置づけている。
国税庁は今年6月30日付で、「平成23事務年度(23.7.1~24.6.30)における税理士事務運営に当たり特に留意すべき事項」を新たに策定した。
これは、国税局税理士管理官を頂点に、細部にわたり指示・命令系統が示され、税理士に対する国税庁の「指導・監督」の強化と「支配」が策定されている。
この「平成23事務年度(23.7.1~24.6.30)における税理士事務運営に当たり特に留意すべき事項」を検討するに
1 「税理士に対する基本的考え方」として、 ・・・ 国税庁の使命である納税者の自発的な
納税義務の履行を適正かつ円滑に実現するため、税理士等がその公共的使命を踏まえ、申告納税
制度の円滑な運営に重要な役割を果たすよう、税理士業務の適正な運営の確保に努める ・・・
としている。
すなわち、税理士業務への国税庁の介入を明らかにしている。
2 「税理士等に対する管理・監督」として、 ・・・ 各種情報の収集や税理士法に基づく的
確な調査を実施し、税理士法に違反する行為を行っている税理士等に対しては法令に基づく懲
戒処分等を行うなど厳正に対処して、局・署は以下の施策を重点的に取り組む。
ⅰ 税理士等の違反行為の未然防止
ⅱ 税理士等情報の的確な収集等
ⅲ 実態確認の充実(効率的・効果的な実態確認の実施)
ⅳ 税理士法上の調査の的確な実施
ⅴ 懲戒処分等の適正な実施
これは、税理士に対する懲戒処分、任免権は国税庁にあるぞとの脅迫?を示している。
問題は、 ① 税理士の使命を下に置き、国税庁の任務を上にした権力的規定であり、 ② 税務行政の強権化と税理士の下請化である。
税理士は、税理士法第1条の使命にもあるように、 ① 「税の専門家」として法(税法及び憲法、商法、民法等)を適正に解釈し、 ② 「独立した公正な立場」でいかなる権力の支配にも屈さず、③ 「申告納税制度の理念」に基づき自主申告・自主納税を果たし、 ④ 「納税者の信頼」に名実ともに応え、 ⑤ 「租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現」という租税法律主義 ―何人も、法律の根拠がなければ、租税を賦課されたり、徴収されたりすることはない。― の実現を図ることを最大使命として奮起・奮闘しなければならないのではないか。
憲法第30条(納税の義務)
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う
* 国民は、法律の定めのない納税義務は負わない。・・・の意であり、逆説的には不当な行政
執行からの“納税の権利”である。
憲法第80条(課税の要件)
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする
* 国に対する租税法津主義を義務付けた規定であり、身勝手に年貢を課した悪代官は民主国
家では認めない。・・・という意である、
日本を取り巻く世界経済は凄まじく激動している。
しかし日本は、失われた10年、失われた20年と言うように変化への対応ができず、相変わらず利権・既得権益、政治権力闘争に明け暮れ、国民生活は格差と貧困の中で喘いでいる。
中小零細企業はこの15年間で50万社以上が減少している。
税理士法改正は、税務当局による税理士制度の(税務当局)補助機関化の歴史であり、現在も税務支援、書面添付制度等、税務当局の受託事業、下請化が進んでいる。
税理士は、国税庁の「平成23事務年度(23.7.1~24.6.30)における税理士事務運営に当たり特に留意すべき事項」の基本的考え方にあるように「国税庁の使命を ・・・ 実現するため」にあるのか、 納税者の自発的な納税義務を果たすために「独立した公正な立場」にあるのか、 税理士としての存亡の岐路に立たされていると言える。
税理士を税務当局の下に置く今回の国税庁の「平成23事務年度(23.7.1~24.6.30)における税理士事務運営に当たり特に留意すべき事項」の策定は、行政の効率化の下に、税理士を意のままに動かそうとする「税理士の下請化」が見え隠れする。
税理士の下請化とは、税務当局に対し物言わぬ税理士をつくり、税理士を徴税機構の一翼に組入れようとするものであり、税理士制度の根幹に触れる問題である。
今年は税理士法制定60年、税務代理士法制定70年である。
税理士法制定時における当時の大蔵省(平田)主計局長の答弁(1951・昭和26年)を心新たに思い起こす必要がある。
「将来におきましては、一層発展した税務代理士が、単に税務官庁の都合ばかり聞くというのではなく、むしろ、納税者の正当な利益と権利を納税者に代わって擁護する。こういう機関としてどうしても将来の発展を図る必要があるのではないか、ということを強く考えている次第です。 ・・・ 同時に私は、税理士各位が実力を養い、税務官署に対してむしろ堂々たる態度で、正しい納税者の利益、権利を擁護するという意味において、大いに活躍を願う。むしろ、それによって税務行政自体が改善される、というところまで活躍が期待されるような方向に行くのが理想ではないか。」
今年も師走。
このホームページも通じ、いろいろお世話になりました。
皆様、明るく、幸せなお年をお迎えください。
そして、来年もよろしくお願い申し上げます。