税と社会保障の行方は
2011年全国税制懇話会秋季研究集会は、去る10月16~17日、箱根湯元温泉郷「箱根路 開雲」で開かれ、全国から77名の参加を得て成功裏に終了した。 初日、熊澤通夫先生より「社会保障・税一体改革成案の概要と特徴」と題し、社会保障制度改革の方向性と具体策を問題提起とともに、真の社会保障・真の税制の方向を学んだ。 |
「社会保障・税一体改革成案」の特徴では
・ 自公政権の継承 ~ 増税の政策連合(民・自・公) ~
・ 小泉政権の財政再建策とその破綻
・ 民主党政権の誕生(国民の期待)とその変質
がリアルで歴史的流れとして確認し合った。
特に権利としての社会保障では、日本国憲法第25条(生存権の保障)の立場から「国民の権利」「国家の義務」と捉える必要性を感じ合った。
・ 権利としての社会保障
「人間らしく生きる」権利
・ 国際的権利保障
「何人も、社会の一員として、社会保障をうける権利を有し、且つ、国家的努力及び国際
的協力を通じ、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と人格の自由な発展に欠
くことのできない経済的社会的及び文化的権利を有する」(国際連合「世界人権宣言」第
22条。1948年)
「何人も衣食住、医療及び必要な社会施設を含む自己及び家族の健康及び福利のために十
分な生活水準を享有する権利並びに失業、疾病、能力喪失、配偶者の喪失、老齢、又は不
可抗力に基づく他の生活不能の場合に保証を受ける権利を有する」(同法第25条1項)
・ 日本国憲法第25条(生存権の保障)
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国はすべての生活
部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上に努めなければならない」
・ 消費税の引き上げは、社会保障の充実 ・・・ 幻想
消費税引き上げても、年金・医療・介護 ・・・ 連続の改悪メニュー
年金 | 支給額の削減 支給年齢先延ばし | 3年程度で2、5%削減 その後マクロ経済スライドで毎年0、9%削減 現行60歳→65歳への引き上げ前倒し その後68歳~70歳に引き上げ |
医療 | 患者の負担増 病院追い出し強化 | 外来受診のたびに定額負担を上乗せ 70歳~74歳の負担を医療費の1割→2割に倍額 長期入院患者の診療報酬引き上げ |
介護 | サービスの取上げ 施設建設の抑制 | 「重点化」の名で給付を削減 サービスの薄い「高齢者住宅」へ重点移行 |
生活 保護 | 改悪を示唆 | 医療費の自己負担 ボランティア、職業訓練の義務付け 生活保護水準の引き下げ |
保育 | 公的責任の放棄 | 国や自治体の保育実施義務の廃止 市場化、営利化(市場原理主義)の推進 |
OECD加盟国の相対的貧困率(2000年代中ごろ比較) | |||||
(貧困率低位5ヵ国) | (貧困率上位5ヵ国) | (単位 %) | |||
デンマーク | 5、3 | ポーランド | 14、6 | 2009年 | |
スウェーデン | 5、3 | 日本 | 14、9 | 現在16、0 | |
チェコ | 5、8 | アメリカ | 17、1 | ||
オーストリア | 6、6 | トルコ | 17、5 | ||
ノルウェイ | 6、8 | メキシコ | 18、4 |
日本の貧困率推移 | |||||
年 | 1991 | 2003 | 2006 | 2009 | |
相対的貧困率 | 13、5 | 14、9 | 15、7 | 16、0 | 2009年 |
子どもの貧困率 | 12、8 | 13、2 | 14、2 | 15、7 | 世界最低 |
続いて、国税の職場でたたかっている全国税労働組合から「税務現場の実態」「税務行政の現状」
などが報告された。
2日目は、浅井優子先生より「ベトナム税制調査団報告」。 粕谷幸男先生より「取得費(不動産相続に伴う遺産分割弁護士費用)をめぐる訴状」(最高裁事案)。 岡田俊明先生より「国税通則法改正(先送り法案)に関する最新情報」。 本川國男先生より「税務調査の特徴と対応」が報告され、和やかなうちにも真剣な討議が行われた。
事務所から3名が参加した。
公開講座 ― (東京税財政研究センター) 開かれる
去る10月21日、「東日本大震災・原発事故と日本の税制・税務行政の課題と問題点」と題し、東京税財政研究センターの第45回「公開講座」が開催された。
・ 東日本大震災・福島第一原発被害の被災者に対する税務行政等に関する提言(案)
講師 本川 國男 会員
・ 税務調査への対応 ― 法人の同時調査を中心に ―
講師 小田川豊作 会員
・ 税務行政の変化と特徴 ― 2011年度国税庁特留事項通達にみる ―
講師 岡田 俊明 会員
・ 税理士事務運営の特留事項の策定 ― 税理士は国税庁の下請か? ―
講師 飯島 健夫 会員
事務所から、小田川豊作税理士が講師として報告した。
税理士として国民のために社会貢献していくことは、現在の政治的情勢(国家・国税庁と税理士の独立・自主)、経済的状況(資格はあるが税理士業として食べていけない)、社会的環境(税理士の社会的必要性/単なる計算屋であって良いのか)などなど様々な問題を抱えている。
これらの状況の中で、事務所は精一杯の力を発揮すべく、研究・実践を重ねて行こうと思っている。