税務調査の執行機関
税務調査を行う行政機関は、国税局と税務署が行う税務調査がある。
財務省の外局である国税庁には、課税部、徴収部、調査査察部の3部が置かれているが、いずれも下部機関の指導・監督事務を担当し、直接税務調査事務は行わない。
税務調査の執行は、全国12の国税局(沖縄は国税事務所)と各国税局が分掌する524の税務署が行う。
国税局・税務署の税務調査担当部門は下表のとおりである。
国税局
課税部 ・ 広域重要調査
徴収部 ・ 特別滞納整理徴収
調査部 ・ 大規模法人調査
査察部 ・ 査察(犯則)調査
税務署
特別国税徴収官 ・ 処理困難な滞納整理徴収
特別国税調査官 ・ 多額、大規模な調査
管理徴収部門 ・ 納税管理、滞納整理徴収
個人課税部門 ・ 所得税・消費税・印紙税等の調査
資産課税部門 ・ 相続税・贈与税・譲渡所得税等の調査
法人課税部門 ・ 法人税・消費税・印紙税等の調査
国税局のうち、納税者の個別的な税務調査を行う部は課税部と調査部だ。
課税部の資料調査課は、増差所得が多額と見込まれる税務調査を行う。いわゆる料調(資料調査)方式と呼ばれる抜打ち調査や強引な調査手法をとることが多い。しかし、査察調査と違い強制調査権はない。一般任意調査である。
調査部は、大規模法人の税務調査を行う。原則として資本金1億円以上の法人が対象である。
査察部は、犯則事件の税務調査を行う。いわゆるマルサである。裁判所の令状に基づき臨検・捜索・差押を行う強制調査である。査察でも令状を有さず、納税者の同意の下に行う通常の調査(任意調査)もある。
税務署の調査部門の長には統括国税調査官があたり、その下に上席国税調査官、国税調査官、事務官という序列で税務調査がすすめられる。
平成3年7月の国税庁機構改革により直接税と間接税の担当区分が改められ、納税者別の税務調査となった。
個人課税部門では、直接税である所得税・源泉所得税、間接税である消費税・印紙税等の調査が同時に行われる。
法人課税部門も直接税である法人税・源泉所得税、間接税である消費税・印紙税等の調査が同時に行われる。
税務調査を受ける際には、契約書・請書等の印紙添付は注意を要する。
特別国税調査官は部門から独立し、多額・大規模な個人、法人の税務調査を行うほか、税務署間を越えた関連法人グループ、個人を広域的かつ総合的に税務調査を行う。
税務調査権の形態
税務調査を行う目的により、税務調査権には以下の4形態が認められる。
① 個別的課税のための調査権(任意調査)
② 租税徴収のための調査権
③ 犯則事件のための調査権(強制調査)
④ 租税条約相手国の要請に対応するための調査権
任意調査
我が国の申告納税制度は、納税者自らが納付すべき税額を確定し、納付することとされている。しかし、納税者が申告しなかったり、申告しても租税法の規定に従っていなかったり、または、確定した税額を納付しなかった場合には、税務署長はその調査により税額等を決定(通則法25)、更正(通則法24)することができる。
この税務署長の決定、更正の処分には、それに先立って納税者に係る個別的課税資料の収集が必要となる。これが一般に税務調査と呼ばれている。
個別的課税資料の収集のための調査権(所得税法234、法人税法153、相続税法60等)に定められているのが「質問検査権」である。
「質問検査権」は、その行使に対する拒否、妨害、忌避、虚偽答弁などに罰則を設けて、間接的に強制している。(所得税法242、法人税法162、相続税法70等)
これは、罰則を設けることによる心理的圧力で質問及び検査の目的を達しようとするものである。仮に処罰を甘受するとすればそれ以上の強制力を行使することは認められない。
個別的課税資料の収集のための調査権(いわゆる通常の税務調査権)は、納税者の同意を前提とした任意調査である。
強制調査
税務調査には、犯罪事件のための調査権がある。(国税犯則取締法2)
この調査権は、犯則事件の通告処分または告発を目的として資料収集する強制調査権である。
強制調査は、裁判所の令状を得て、臨検、捜索または差押することができ、納税者は拒否できない。
強制調査権は、国税局の査察部によって行使され、一般の調査権(任意調査)=行政調査権と異なり、(準)司法的な強制調査権である。
一般の税務調査とは、上記①の個別的課税のための調査権(任意調査)をさしている。
任意調査権=質問検査権の行使をめぐる紛争は、税務当局と納税者の間でいまだ絶えないが、昭和48年最高裁判所は以下のような判決を下している。
『質問検査権の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、・・・質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている。・・・』(最決昭48.7.10)
この最高裁判決が注目される点は、租税法に特段の定めのない税務調査の実施細目は、課税庁の裁量の範囲ではあるが、その裁量が認められるには下記の要件が必要であると判示していることである。
ⅰ 質問検査の必要があること
ⅱ その必要性と相手方の私的利益のバランスを考えて社会通念上許容される限度の行使であること
ⅲ 質問検査の実施細目が権限ある税務職員の合理的選択によっていること
我が国においては納税者権利憲章が制定されていない。よって、納税者の権利は、この最高裁判決を基に主張しなければならない。
ⅰ 質問検査の必要があることとは ・・・
不必要な調査・見込み調査の禁止である。
アメリカ、イギリス等では不必要な調査に対しては拒否権が認められている。ドイツ等では見込み調査は禁止されている。さらに、アメリカ、韓国等でも1課税期間につき調査は1度に限定されている。
我が国ではこの全て(拒否、禁止、限定)が認められておらず、最高裁判決もここまで踏み込んでいないが、納税者としては同様に主張することが必要であろう。
ⅱ その必要性と相手方の私的利益のバランスを考えて社会通念上許容される限度の行使であることとは ・・・
「社会通念上許容される限度の行使」とは、納税者の要請に応えるものである。そのためには以下のことが守られなければならない。
・ プライバシーを尊重すること。
個人の居宅への立入りや私物の検査は社会通念上許されない。納税者自らの同意意思を明示させるような強要・脅迫も許されないのも当然と主張しなければならない。
・ 営業妨害や信用失墜とならないこと。
店頭における調査で来客に影響を与えたり、銀行や取引先への反面調査で信用不安を醸成するような調査も避けさせるよう主張しなければならない。
ⅲ 権限ある税務職員の合理的選択とは ・・・
質問検査の実施項目が担当税務職員の恣意・独断ではなく合理的な選択によらなければならないということである。
行政手続法の施行(平成6年10月)以降、税務行政指導の責任者は税務署長とされている。
この場合の権限ある税務職員は税務署長である。
税務調査中に税務職員の調査手法に疑念を持つような場合には、直ちに税務署長に対し、調査の実施細目が税務署長の判断と指示に基づくものか否か質問し、社会通念上許容される限度の行使になるよう主張することが必要である。