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 調査再開!  無茶で荒い調査も?
     背景に新人事評価制度

  税務署の事務年度は、7月より翌年6月までである。
 税務署の人事異動は毎年7月(通常7月10日)である。
 今年は、東日本大震災による影響を考え、4月以降6月まで新規の税務調査と滞納整理は行わない方針がとられていた。
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  しかし、税務調査中断の方針も解除され、人心一新、新しい人事体制の下、税務調査も本格化する。
 税務職員も人の子である。国家公務員は人事評価制度によって人事査定される。自分の査定(成績・結果)は気になる。ボーナスの査定・査定昇給・昇格・昇任と将来の出世に直結するからである。
 平成21年度から国家公務員には新人事評価制度が導入された。個々人の目標設定による成果主義型人事評価である。能力・実績に基づく人事管理の推進のためとのことだが、実績を前面に出した評価制度である。
 この評価制度は、税務職員も例外ではない。国税庁は勤務評定で税務職員を競争に駆り立てていたが、新人事評価制度は、さらに税務職員の競争に拍車を掛けている。
 税務職員の成績・結果は何で計るのか? 何で査定されるのか? 税務調査と徴収の実績・結果である。 ・・・ その煽りを納税者がうけている? ・・・
 新しい幹部は新天地で評価されるため、独断の施策を試みる。
 一般職員は個々人の目標と指令に従ってより良い成績・結果を求めようとする。
 そこには国民の公僕たる公務員思想はない。
 税務職員の人事評価と結果反映は次のようになっている。
 * 毎年9月に個々人の年間目標を設定させられる。
     評価は能力評価と業績評価の2本立てである。
     能力評価は10月~翌年9月までの1年間の観察でおこなう。
     業績評価は10月~翌年3月までと、4月~9月までの半年ごとに評価される。
 * 夏の賞与(ボーナス)査定は、10月~3月の業績評価で反映される。
 * 冬の賞与(ボーナス)査定は、4月~9月の業績評価で反映される。
 * 毎年1月1日の査定昇給は、4月~9月の業績評価で査定される
   ・ 昇給は、国家公務員は同日に固定された。昇給は査定結果によるため、これまでのように
    ほぼ例外なく1号俸昇給する「定期昇給」という言葉は使用されなくなり、「査定昇給」と
    なった。
   ・ 税務職員は7月10日に人事異動があるため、異動者は4月~6月を仮評価され、評価結
    果は新しい人事評価者に引き継がれるとともに、新しい異動部署に見合う個々人目標を再設
    定させられる。
 10月~9月の能力評価と、上記の業績評価を総合評価した結果で昇格、昇任という将来出世が決められ、7月の人事異動で具体的な形となって現れる。
 7月は人事異動の時期であった。自分の希望が叶えられたかどうか、1年の総決算であった。
 1年中自分の成績・結果が求められる悲しい職業である。これが毎年繰り返されるのである。

    「こんな思い、2度としたくない!」

 事務所でもこの1年の間に、税務調査中に依頼を受けた人、及び、税務調査終了後に依頼に来た人がいる。
 税務調査中の依頼者の場合、奥さんの寝室まで立ち入られ、タンスの下着棚、バックの中身まで物色され、子どもの通帳も検査された。
 「脱税は犯罪である。」「逮捕され、懲役になる場合もある。」等々、事例を得々と説明され、強迫観念に襲われたという。
 事務所受任後は厳重に抗議し、正常に調査は進行したが、相も変わらず権力的な税務調査官はいるものである。担当税務調査官は厳重な抗議に対しても全く反省をしていない。
 税務調査終了後の依頼者の場合は、1000万円以上の追徴金になったという。
 調査内容についても、申告漏れ、計算誤りはあったと思うが、税務調査は怖い。何がなんだか分からないまま、税務調査が早く終わればと税務調査官の言うとおりに印を押した。
 何が漏れていて、何の計算誤りがあった、どのような計算根拠で1000万円の追徴金になったのか分からないという。
 事務所で修正申告内容と納付内容を検討すると、外注先に対する外注費を給与と認定され、消費税の仕入税額控除の否認と給与に対する源泉所得税額の追徴という同一の理由でダブル追徴されたものであった。
 依頼者に検討内容を説明すると、税務調査官からも当時の税理士からも詳しい説明はなかったという。外注先は事業で確定申告している。二重に税金を払うことにならないか? ・・・ 説明されていれば納得しなかったという。納税者に説明責任を果たせない(説明できない?)無理押しと妥協の産物が垣間見える。
 両者の事例からも納税者の法律的知識が如何に弱いものか? 税務調査を如何に恐れているか?その納税者の弱さ恐れにつけ込んで、「法律を遵守する。」「行政説明責任を果たす。」という公務員の原点を放棄した税務調査が横行しているかが知れる。
 警察行政や検事捜査の場合はマスコミでも大きく取り上げられるが、税務調査に関してはほとんど取り上げられない。
 統治権の三権分立(立法権・行政権・司法権)が民主国家の原点といわれる。
 しかし、税務に関しては、法律に基づく解釈・通達=(立法権)・税務調査、徴収の執行=(行政権)・罰則の適用=(司法権)の三権全てを国税庁が掌握している。
 三権とも一極集中している強大な権力を税務署長は持っている。
 だからこそ税務調査官、徴収官はその行使において慎重にならなければならないのは当然である。

    税務調査の基礎的知識

 「税務調査を受けて大変だった。」という話をよく聞くが、税務調査(犯罪調査としての査察調査以外の一般調査)についての基礎的な知識を考えてみよう。
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 ① 我が国の納税義務は、原則として納税者が行う申告により確定する申告納税方式です。
   したがって、税務行政においては、この権利を崇高なものとして尊重しなければなりません。
 ② しかし、 ・納税者が申告すべき税額を申告していない場合。 ・税額等の計算が法律の規定
  に従っていない場合。 ・また、申告等の内容が適法でない場合。 ・あるいは、納税者自らが
  確定した税額を納付していない場合。に税務調査の目的や対象となります。
 ③ 税務調査は「狭義の行政調査」に属します。
   憲法は、個人の尊重(13条)・法定手続の保証(31条)・令状主義(35条)・自白強要の
  禁止(38条)・・・等、人権及び財産権に対する保護規定を設けています。したがって、行政
  上の必要(税務調査上必要)との理由で実力行使することはできません。あくまでも任意調査で
  あり、納税者の同意の下に行わなければならない行政調査です。税務署(税務調査官)の言うこ
  と全てを受任しなければならないというのもではありません。
 ④ 税務調査官には「質問検査権」があります。
   納税者に対して、課税要件事実について質問し、納税者の支配に属する資料を検査する権限で
  す。
   この質問検査権は、税務調査官の恣意独断で行使されるものではありません。必要最小限度の
  行使に止まらなければなりません。
   「質問検査の必要があり、かつ、これと相手側の私的衡量において社会通念上相当な限度にと
  どまるかぎり」・・・と最高裁判所(昭和48、7、10)も判決で規定しています。
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 以上が一般的税務調査の基礎的知識です。
 税務調査の円滑な執行は、税務調査官のコンプライアンス(法の遵守)と行政説明責任、納税者の協力から成立ちます。
 納税者としては、税務署(税務調査官)の行政に何がなんでも従う必要はありません。仮に、税務署(税務調査官)が強制調査であるがごとき行政調査に及ぶときは、国民のひとりとして断固抗議することが大切です。
 我が国は、国民主権の民主主義国家を国是としています。
 江戸時代・封建領主的な租税取り立てはあってはならないし、許してはならないということをいま一度考えてみましょう。