
公開講座を聴講して驚いた!
11月25日、都内で開催された「公開講座」に参加した。 要は、納税者にとって関心が高い税務調査について、当局はどのような方針で調査行政を展開しようというのかを、当局資料をもとに解明するという講座である。 | ![]() |
税務行政は毎年7月から翌年の6月を事務年度と定めて運営されている。今は令和7事務年度の前半の山場というわけだ。
この事務年度を切り回すため、現場第一線指揮官にあたる統括官を一堂に集めて、方針徹底のための会議が事務年度頭に開催される。それが、「統括官会議」である。
その会議資料に事務年度の重点施策等が書き込まれているので、それを開示させれば、税務署は納税者等に対して何をやろうとしているのか分かることになる。
研究センターは会議終了を見計って開示請求し、その開示資料をもとに今回の講座を開いている。総数136ページの「公開講座資料集」には、東京国税局の統括官会議資料がふんだんに収録されていて、大変目を引く。
目が点(…)に
開示資料を見ていてかなり驚いたのが、資産課税のふたつのページである。
まず、調査選定で見込税額まではじき出していることだ。
調査官は上司の統括官等から誰それを調査しろと「調査指令」を受ける。
その時、この誰それを調査すると追徴税額が××円出るとAIが見込税額をはじき出しているいるからな、と統括官が厳命する。「税金を取ってこい」といっているわけだ。
(下図の2枚は開示された東京国税局資産課税部門の統括官会議資料をそのまま掲載)
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次に驚くのが、「実施方針」で示している目標と評価基準である。
国税局幹部が調査第一線の管理者である統括官に言っていること、求めていることがなんともすざまじぃ。
▶ 追徴税額の最大化を目指せ
▶ 追徴税額を積み上げろ
▶ 追徴税額積み上げのために調査件数を増やせ
そして、お前たちは次の3基準で評価して成績順を決めるぞというのである。
▶ 総追徴税額
▶ 一日当たり追徴税額
▶ 追徴税額中央値
その上で、「一件当たり追徴税額」は評価基準になっていないから間違うなよ、と念押ししている。
この意味するところは、調査は効率よくたくさんの件数をこなし、すべてでコンスタントに追徴税額を挙げたものを高く評価するということだ。
調査結果は、毎月税務署から国税局の管理部署に報告することになっており、国税局は統括官に自分の立ち位置をよく踏まえて業務にあたれとも言っている。
年間の総稼働日数は限られている。
二つの部門の中間的な調査事績を事例としてみてみよう。この期間の総稼働日数は35日としよう。
ダメ統括部門調査結果 A・30日 1000 B・3日 120 C・2日 80
優秀統括部門調査結果 D・10日 500 E・4日 300 F・3日 200
ダメ統括部門 優秀統括部門
調査総数 3件 3件
調査総日数 35日 17日
一件当調査日数 11.6日 5.6日
総追徴税額 1200円 1000円
一日当追徴税額 34円 58円
追徴税額中央値 120円 300円
一件当追徴税額 400円 333円
のびしろ件数 0件 3件
のびしろ税額 0円 1044円
のびしろ合算
総追徴税額 1200円 2044円
見ればわかるように、特定の項目と数値を見ると、ダメ統括が優っているところがある。しかし、3基準でいえば総追徴税額は優秀統括より上だが、一日当たりと中央値では劣り、かつ伸びしろがないので総追徴税額もすぐに逆転すると幹部に判断されるわけだ。
結果、ダメ統括官部門の職員はビリケツの評価となる。
こんな指標に追いまくられて仕事をする税務職員は「無間地獄」に落ちたも同然で、統括官が受けている圧力は相当なものだろう。これが調査官に跳ね返り、調査官は納税者に向かってくる。行政にゆがみがでるのは必然だ。
エサを求めて手当たり次第に人間を襲う熊が連日報道されているが、エサを取ってこいとせっつかれているアーバンベアならぬタックスマンベアが納税者を獰猛に襲ってくる図を想像してしまうのだが、あなたはどう思う?
こんな行政でいいのだろうか。


