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  一題 「JAPAN IS BACK」

 テレビから流れてくる音声が耳に入ってくるので、何気なく聞いていると、「JAPAN IS BACK」と叫んでいる人がいる。
 「日本は戻るぜ」ということらしいが、意味不明。そこで、誰が言っているのかテレビを注視すると、なんと新首相の高市さんではないか。
 その舌の根が乾かないところに、トランプさんがやってきて、アメリカ軍のヘリコプターに乗って、アメリカ軍の真っただ中に行き、トランプさんに手玉に取られていた高市さん。見ているこちらが恥ずかしくなる。
 この図は、植民地支配では常套手段のパフォーマンスである。
 盟主国の宰相が植民地の国民に思い知らせる芝居。

 「我が軍隊がお前たちを監視しているぞ。お前たちの親分は俺様の指示や言うことに従順に従っているだろう。みてみろ、俺様がちょっと持ち上げてやると、安心してごろにゃんしているだろう。だから、お前たちはゆめゆめ盟主国に逆らうなよ。独立しようなんて考えるなよ。」

 いやはや、こうした芝居を見ていると合点がいく。
 降伏文書に署名した1945年9月2日以降、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の占領下におかれた日本。占領軍という言葉が示すように、日本は実質アメリカ軍の占領下におかれたのだ。間接統治とはいえ、主権国家ではなくなった。
 1951年9月8日、サンフランシスコ講和条約が締結され、条約は1952年4月28日に発効した。その日をもってやっと日本は主権を回復し、正式に国家として独り立ちすることになった。一方、沖縄と小笠原はそれ以降もしばらくはアメリカの統治下におかれた。
 主権は回復したのだが、日米安保条約を締結し、アメリカ軍の日本駐留を受入れ今でも続いている。

 そこで今回の芝居を見ていると、高市さんが叫んだ「JAPAN IS BACK」は、「1945年9月2日降伏文書署名時に戻るよ」ということではないのかと受け止めざるを得ない。
 だって、横須賀に行ってあれこれやってる姿を見ると、主権国家の首相ではなく、植民地の傀儡政権に据えられた従順なお飾り首相に見えてしまうからだ。

 この辺までのBACKならまだオイオイかもしれない。それが1945年8月14日以前の軍国主義まで戻るということなら、ちょっとヤバイ。
 でも「スパイ防止法」創設にこだわっているところを見ると、「治安維持法」の復活も頭にありそうで、あながち外れともいえない事態だけに、ちょっと待てと言いたくなる。
 「高市さんよ、保守本流というのなら日本語を大事にしろ。英語なんか使うんじゃねえ」と、保守の人は言いたいと思うが、アメリカ軍占領下に戻るのが保守なんだから、英語でいいんです。

 いやはや、10月末に上演された芝居は、「大吉」に引き取ってもらうか、熊さんに森の中に引っ張りこんで食べてもらうのがいいと思うが、どうだろうか。
 日本を強くするどころか、ボロボロにするだけだ。ジャパン イズ バック・・したくないね。

  二題 「調査は5年循環周期でやる」と昭和にBACK

 つい最近、都内のある法人会が税務署長に講演をお願いした。
 招かれた税務署長は、「来年秋にKSKⅡになる。そうすると、税務調査では調査官は調査先でダブレットを使って調査をする。調査選定はAIが行う。効率化されるので、KSKⅡ以降の税務調査は5年に一度の循環周期でやることのなる。皆さんのところにも必ず調査に行く。」と話したという。

 講演会に参加した顧問先の社長は、税務署長から「あなたのところにも必ず行くことになる」と面と向かって言われたと驚いて、すぐに連絡がきた。

 「循環周期」って何のこと?と思われるのではないだろうか。
 税務調査の世界では昭和40年代に使われていた言葉で、すでに死語になっていた。
 この税務署長が定年間際で50歳代後半の年齢なら、昭和40年代半ばの採用なので、新入職員時代に耳にしたことがあるかもしれない。仮にそうだとしても、税務調査官として働き始めることにはすでに死語になっていたはずだ。その人から口に出た。昭和にバックか?

 税務行政の柱の仕事は税務調査だ。はっきり言えば、これしかないといってもよいぐらいだ。その基底にあるのが、「悉皆調査」。納税者はことごとくゴマカシているから、全納税者を毎年調査しないとだめだという「妄想」。皆を悉く調査するというのが悉皆調査。
 しかし、法人数が飛躍的に増加し、また、個人の申告納税者も増加し、悉皆調査なんてとてもできない。
 そこで課税庁が言い出したのが、「循環周期調査」。全納税者を3年一巡、或いは5年一巡で調査するという方式。
 お分かりだと思うが、悉皆調査も循環周期調査も調査先を選定するという作業はいらない。だって、対象は全納税者だから。
 しかし、納税者の増加で1年間でできる実地調査の割合は下がるばかり。

 いま、法人税の実調率(全納税者のうち1年間で実地調査した割合)は2%である。
 仮に納税者が100件だとして、実地調査割合が2%なら、1年で調査するのは2件。そうすると全納税者を順番に調査するとなると50年かかる計算になる。1回税務調査を受けると、次の調査は50年後というわけだ。

 これって、課税庁が循環周期で調査をやりますという宣言は、50年に一回しか調査はしませんと宣言するに等しいことになり、税務調査の「牽制効果」はなくなる。こんなことは小学生でもわかることで、内部の扱いでも「循環周期対象」などという言葉は使わなくなった。

 納税者数と職員数から見て、現時点で5年周期なんてできるわけがない。それが一税務署長の口から発せられるというのはどういうことだろう。法人会での講演だから、思い付きとも思えない。
 前段にKSKⅡやAIを言っているので、上から何らかの情報が与えられ、それで話したと考える方が自然である。
 勝手な想像の話であるが、AIが納税者の誤りを絞り込み、そこだけを調査し、後の事務処理もAIが自動で仕上げるなら、1件半日の実地調査と半日の事務処理で1件上がりとなる。年間稼働日の200日をすべて調査事務に充てると200件。10人の職員で年間2,000件。
 5年一巡方式なら1万件を調査できることになる。
 この署の法人数は1万件なので、なるほど署長の話は満更ではないのかもしれない。

 ただし、1職員年間30件が限度だろう。
 だとすれば、職員を厳しく尻叩きしなければならない。尻叩きされた職員が乱暴な調査に走ることは想像に難くない。こうして、納税者は大迷惑をこうむることになる。
 それが、日常の経済活動を停滞させる。こうして、行政が日本を衰退させる。
 昭和に死語となった言葉にバックして日本がよくなるとは思わない。

 高市さんも税務署も、BACKなんてやめようよ。