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  新国税庁長官の目指すところ

 国税庁長官や国税局長の就任あいさつが新聞や業界紙で報じられている。
 新任の江島一彦長官は、税務調査の取り組みについて次のように国税庁の方針を述べている。
 「国税庁では、非違類型等に応じた最適な接触体系を選択し、調査必要度の高い納税者に適切に対応できる事務運営を推進している。
 税務調査では、申告・決算情報や法定調書等についてAIを活用した予測モデルを用いて分析し、申告漏れの可能性の高い納税者を的確かつ効率的に抽出し、深度ある調査を実施するといった取り組みを進める一方、計算誤りや法令の適用誤り等が想定される納税者には行政指導等により幅広く接触し申告内容の是正を図るなど必要な対応を実施しています。」

 有体にいえば、「高度な分析力をもつAIが脱税していると思われる納税者をピックアップするので、その納税者に対してはバッチリ調査をやって税逃れは許さない。一方、単なる計算誤りや法律の適用誤りは目くじらを立てて取り締まるのではなく、それ違っているから自主的に直してね、加算税もかけないよ、という行政指導でその誤りを直してもらおうのが国税庁の方針だよ。」というのである。

  ごく最近の税務調査の実態

 この話をしたら、ある納税者は「この前調査を受けたけれど、まったく違うじゃないか。」と憤った。
 ことの次第は・・・・

 法人課税の特官が調査に来て、法人税の申告では是正すべきことがない暗い表情。それで調査が終わるのかと思っていたら、急に顔を輝かせて源泉所得税の徴収漏れがあると言い出した。
 給与担当者が、うちは漏れなく源泉所得税を徴収して納付しているんで、漏れはないはずですと問いただすと、特官は嬉々として・・・

 「この人に3月31日に支払った給与は乙欄で徴収すべきだが、甲欄で徴収しているから、差額の8千円が源泉所得税徴収漏れになる。」という。

 この会社は給与の支給期等が決められている。毎月16日から翌月15日を締め日とし、締め日の月末に支給することになっている。
 退職したAさんは、3月20日に退職したが、この会社は退職日に給与を精算して支払うことはしていないため、会社の給与担当者は2月16日から3月15日までの1か月分と16日から退職日の20日までの5日分の給与を合計し、甲欄により源泉所得税を計算して天引きした額を3月31日にAさんに振り込んだ。
 給与担当者はなぜAさんの給与を乙欄で計算しなければならないのか意味不明であった。
 そこで、給与担当者が特官に何で??と聞くと・・・

 特官は、「退職したAさんに、3月分と退職後の5日分の合計を3月31日に支給しているが、人事記録を見るとAさんは3月25日にほかの企業に就職している。就職と同時にその企業に扶養控除等申告書を提出しているはずだから、タックスアンサーで書いている通り、退職と同時に扶養控除等申告書の効力はなくなるし、宥恕規定は働かないから、乙欄で計算しなければならない。」というのである。

  タックスアンサー№2739は疑問

 ぜひ、タックスアンサーを読んでいただきたいが、そこで記載する退職者に対する「在職中の追加払いの給与」に対する源泉徴収表の適用については納得できる部分もあるが、支給期がたまたま退職後になる場合のは適用は法律上どこにも効力に関する規定はないのだから、一身専属の給与という基本から考えると、支給期の効力が働くと解釈するのが当然であろう。したがって、甲欄適用でよいのだ。
 したがって、給与担当者の甲欄による徴収は常識にかなう処理であり、筆者はタックスアンサーの解説は間違っていると考えているものだ。そもそも、甲欄が適用される期間の給与であり、他に主たる給与を受けているわけではないのだから、主たる給与以外の何物でもない。これを従たる給与だといえるわけがないからであり、法の趣旨をまったく誤認している解説だからである。

  調査官の逃げ場?

 実は、筆者のところにはこの特官と同じ調査手法が何件も届いている。どうも、是認になりそうな事案で困った調査官のノルマ稼ぎの「手」になっているようだ。これで「是認逃れ」「非違1件」の事績が作れるということらしい。
 なんとも情けなくて、涙が出る。

 長官が言っていることが現場では実行されていない。仮にタックスアンサーが正しいとして、この事案の非違は法令の適用誤りの範疇だから、行政指導で終わりだろう。それを調査の非違として加算税をかけるこの特官は、長官の職務命令を聞かないのだから、職務命令違反者で、この特官こそ「処分」すべきだと思うが、みなさんはどう思う。

 こうしたセコイ調査の背景にあるのが、調査官に対する厳しいノルマ主義と成績競争の強化である。
 長官の職務命令が現場で無視されている不当な行政執行は、長官が押し付けるノルマ主義と成績競争にあることを知るべきだ。
 税務行政にノルマや成績競争を入れてはだめだよ、長官!