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   税務署のお祭り

 税務署の年間サイクルとして、所得税の確定申告は税収に直結する重要な「お祭り」なので、全署あげての態勢をとる。税理士にも応援を頼んでいるほどだ。
 方や、納税者は申告に向けて大わらわ。そんな時に「税務署が調査するぞ」なんて言うと、非難されるに決まっている。
 納税者の申告に対応する税理士も超繁忙期になる。税務署は、税理士に確定申告の応援を頼んでいるのに、関与先の税務調査をするなどというと、これまた非難されることになる。
 そんなことから、毎年、2月・3月は税務調査をほぼ行わないという年中行事のサイクルが定着している。

   確申期が明けると
   人事異動のお祭り

 その確申期があけると、待ってましたとばかりに税務署は一斉に調査に動き出す。
 これも年中行事の「お祭り」みたいなものだが、税務署の人事異動が7月10日発令と決まっており、全職員5万5千人の3分の1に当たる1万5千人ほどが勤務する税務署等から別の税務署等に配置替えとなる。大異動だ。これも年中行事のお祭り騒ぎとなる。
 こうして確定申告のお祭りと、人事異動のお祭りの間の期間が、税務署の通常業務期間として調査の追い込みをかけるというわけだ。

   6月末を睨んで

 この時期の調査を業界用語で「4・6調査(ヨンロクチョウサ)」と言っている。
 というのも、7月に配置転換が控えているため、4月から一斉に始めた調査は6月中旬には決着させろと調査官は上司から指示されている。
 誰が配置替えとなるのかは、人事発令書をもらうまで分からない仕組みにしているので、着手した調査が人事発令までに決着を見ていないと、別の調査官に引き継ぐことになり、調査事務がスムーズにいかないから、人事異動前に決着させろとなる。
 調査の決着というのは、更正する場合や修正をとった場合は、更正通知書や加算税の賦課決定通知書を発送し終えるということだ。そのためには、5月末頃までに調査をまとめないと、通知書等を作成する時間が取れない。つまり、短期決戦になる。

   尻叩かれる調査官

 さて、そうすると、どんなことが税務調査で起きるのか。
 鋭い人はわかると思うが、調査が「粗くなる」のだ。
 これは決して譬え話ではなく、短期決戦で納税者に勝とうとする調査官は、ルールを無視したり、汚い手を使っても勝とうとする。そうしないと、自身の調査能力が低いと評価されるからだ。

   やはりというべきかの、無予告調査

 さて、今年の4・6調査はどうかなと身構えていると、まるで「見本」のような調査が行われていた。うちの顧問先ではない蕎麦屋さん(青色申告の個人営業)に税務署の調査官が二人、無予告で臨場し、現金監査をやってレシートを3年間分すべて持ち帰った。
 開業して10年。初めての調査である。突然飛び込まれてびっくり。税理士に依頼していないため、調査官の言うがままに対応したという。
 しかし、几帳面に記帳して申告しているし、やましいことは一切ないのに、まるで犯罪者のような扱いに対して、次第に腹が立ってきたというわけだ。

   無予告調査は法が規制

 そこで記しておきたいのだが、この無予告現況調査は法規を逸脱した強引な調査だということを知っておいてもらいたいということである。
 税務調査は、事前に通知することが原則である。無予告で臨場するのは、例外である。
 例外であるから、それができる条件が国税通則法に明記されている。通知することによって、税務調査を行使することに何らかの障害が生じると合理的に判断される場合のみである。
 さらに国税庁は、取り扱いを通達で公開している。つまり、基準を明確に示している。
 その中のひとつとして、単に現金商売をしているだけの理由で無予告調査とすることはまかりならんとしているのだ。過去の調査事績や情報から合理的に調査困難が判断できる必要があるといっているのだ。
 実は、調査官はこれらの法規を勉強しておらず、知らない人が多い。嘘じゃないところが困ったもんなのだ。

   あてはまらなくても 平気のへいざ

 開業以来、税務調査を受けたことのないこの蕎麦屋さんに過去の調査事績があるわけがない。
 税理士として申告した青色決算書を見ると、粗利や原材料等の仕入や経費の計上事績が異常数値を示しているわけではない。税務署にしても、多くの分析比率をもっていることから、問題がないことを容易に判断できることだ。
 どうみても、例外である無予告調査をすべき事案ではない。結局、やってはならないと国税庁が釘を刺している「現金商売だから」で、無予告を判断したということになる。
 もうひとつは、事前通知による日程調整などをしていると、時間がかかって調査が期限内に終わらないから、無予告で入って短期に仕上げろという自分たちに都合の良い手段をとったとなる。

   法律を守らせよう

 納税者のみなさんにはぜひ知っておいてもらいたいのだが、無予告現況調査は「例外」であり、できる条件が法律で明記されているということを。
 この蕎麦屋さんの事例は、公僕たる公務員が、法律や通達を無視してやってはならないことをやった典型である。
 無予告で入られても、あわてることはない。日を改めて調査を受けると言ってその時は受けないこと。税務署の調査官には、強行する権限は与えられていないから、強引に調査に対応しろということもできないし、入り込むこともできない。何もしないで帰らざるを得ない。
 そして、調査にきちんと対応できる私どものような税理士に依頼して、調査に臨むことも大事なことだ。
 無知無謀な調査官と納税者の知識不足が相まって、納税者がズタズタに食われた事例を数多く知っている。専門家に依頼するという知識も持ってほしい。

 権力は、時によって無謀なほどひどいことをする。肝に銘じてほしい。