jn186.jpg

  突然、社長になるかもしれない話が‥

 最近、社長の高齢化や身内の後継者不在から、M&Aや従業員に株式を売却して会社を引き継がせようという動きが頻繁に生じている。先日、ある従業員の立場の人から相談に乗ってほしいと声がかけられた。

 相談の中身は、いま勤務している会社の社長から、「会社を引き継いでほしい、ついては社長が100%持っているその会社の株式を〇〇円で譲渡するので買ってほしい。」と持ち掛けられたが、買い取って社長になった方がよいかどうかという内容である。
 社長から直近の決算書コピーが渡されていたので、それも提示された。
 相談された税理士の立場で、軽率な判断材料を提示するわけにはいかない。
 そこで、まずその従業員が会社の主宰者になって会社を経営する気があるのかを確認した。
 そうすると、いまの給料より社長報酬の方が多くなると思うので、何年か後には買収資金も回収できると思うので、やってみたいという。

  決算書を見てみると

 そこで決算の貸借対照表をみると、現預金が100万円ほどしかない。そして、社長借入が2千円ほど計上されている。固定資産等はないため、1千万円の債務超過状態の会社である。
 次に損益計算書を見ると、売上高は2千万円そこそこ。売上総利益率が30%、営業利益が▲80万円となっていた。
 ここまでの記述事項でお分かりのように、通常業務で資金繰りが間に合わず、社長報酬の支払いが即社長からの借入となって運転資金を確保してなんとか回している会社という評価になる。
 株価をゼロとして会社を引き継いだとして、自分の給料が経費の縮小になったとしても、社長借入の返済に回せる日常資金はなく、つまるところ、借入金の重しがずっと続くことになることが目に見えている。

  経営者となった場合の姿勢

 その判断を示したうえで、社長交代で売上高を増やしていける見通しかあるのか尋ねたところ、現社長と違って、自分は仕入先等との交渉ができるので、仕入原価を今より抑えることができるので、借金返済も含めて何とかなるという。
 売上高を増やすという姿勢ではなく、原価を圧縮して利益を確保していくという姿勢である。
 率直にいえば、このような経営姿勢では経営者としては落第だといわざるを得ない。

  小学生でもわかる数字の話

 とある会社が
 売上高20,000 粗利30% 売上総利益6,000 社長報酬5,000、固定経費1,000、営業利益0 だとしよう。

 この会社が、この従業員が目指す原価削減で粗利が35%になったなら、
 売上高20,000 粗利35% 上総利益7,000、社長報酬5,000、固定経費1,000、営業利益1,000となる。

 一方、粗利は5%悪くなったとしても売上高が10,000増えたとしたら
 売上高30,000 粗利25% 売上総利益7,500、社長報酬5,000、固定経費1,000、営業利益1,500となる。

 何がいえるのかというと、この二つの努力姿勢の行着く先である。
 原価削減の努力を必死になったとして、究極、原価ゼロで粗利が100%になったとして、売上総利益は20,000、つまり、売上高で止まる。
 一方、売上高の増加を図れば、粗利率が悪くなってもそれをカバーして利益の絶対額は増えるということである。かつ、売上高は無限大で、天井はない。

  結論は

 経営者のもっとも大事な姿勢、視点は、売上増加を図ることに最大の努力、最大の知恵を出す姿勢を貫けるのかどうかだということである。
 その姿勢がなければ経営に乗り出すべきではないといいたい。

 話を聞いたこの従業員は、経営姿勢のポイントに納得したうえで、自己分析したうえで再考すると帰って行った。
 話をよく聞き、よく掘り下げ、自己分析も冷静に行える人のようだ。よく考えたうえで、新たな状況を切り開いていけるに違いない。 

 最近の情勢として、そして経営の基本として、参考になればと紹介した次第である。