当事務所の代表・宮澤義雄が理事長を務める全国税制懇話会(会員200名)は、4月14日と15日の両日にかけて、「春季研究集会」を「ホテルびわこ」で開催した。
全国から99名の税理士および税理士事務所職員が参加した。
初日、メイン講演として登壇した中村芳昭青山学院大学名誉教授から、納税者権利憲章をどのように構築すべきかというテーマに関して、アメリカにおける納税者の権利保護に関する最新情報が報告された。
中村教授がアメリカ内国歳入庁(IRS)の現在の情報を収集したもので、日本ではまだ紹介されていない貴重な内容のものである。当ホームページでその一部を紹介したい。
日本の税務行政における納税者の「人権」感覚と比べると、日本の納税者の人権は江戸時代とあまり変わっていないといわざるを得ず、日本の現状は情けなくて涙が出る。
日本の納税者は、「納税者の人権を守れ」、「納税者権利憲章を制定しろ」と、一揆を起こさなければ、いつまでたってもお上や小役人の勝手気ままに人権を踏み荒らされることになる。
日本政府はアメリカの同盟国として、またアメリカを手本として民主国家の一員だというのであるから、これから紹介する納税者の権利に関してもアメリカを手本として立法化したり、税務行政を改善すべきであろう。
10の納税者の基本的権利立法
アメリカ連邦議会は、2015年に内国歳入法に7803上(a)(3)(A)~(J)を追加し、10の納税者の基本的権利を法定した。
規定は次のとおりである。
***********************************
歳入庁長官は、その職務を果たす際に、IRSの職員が、次の権利を含めて、この表題について他の規定によって与えられる納税者の権利に精通し、かつ、これに従って行動することを確保しなければならない。
(A)通知を受ける権利
(B)質の高いサービスを受ける権利
(C)適正な税額以上の納税をしない権利
(D)IRSの決定に異議を唱え、意見を聞いてもらう権利
(E)独立したフォーラム(審議所)でIRSの決定に不服を申し立てる権利
(F)終局の権利
(G)プライバシーの権利
(H)機密保持の権利
(I)代理人を保持する権利
(J)公正かつ公平な税制を求める権利
***********************************
納税者の権利を集約して規定するとともに、長官は税務職員が税法に規定する納税者の諸権利に精通し、なおかつそれに従って行動するように運営しなければならないという、義務付規定になっている。
そして、IRSはペーパー表裏1枚のパンフを作成して、各項目の意味を詳述し、納税者が「目に見える」形にした。
なんとアメリカはこの憲章パンフを多言語で作成し、日本語版もある。末尾に掲示したので、是非見ていただきたい。
表面は10項目の内容を解説している。裏面は納税者の様々な権利や各機関の利用の仕方を知らしめるものとなっており、納税者に対するサービスと敬意が見て取れる。裏面も是非熟読していただきたい。
アメリカでは、税法上で諸権利を規定しているが、散らばって条文化されていても納税者がそれを自分の権利だと認識するのはかなり困難だ。それはまずいということで、あえて10項目に集約した条文を創設し、さらにパンフで見える形にしているのであるから、納税者の視点に立った税務行政を目指すという志が見て取れる。
日本は江戸時代のままでいいのか
日本の現状は江戸時代と同じと述べたが、徳川幕府は「よらしむべし、知らしむべからず」を旨とした。その意味は、「人民というものは、政府の政策に盲目的に従わせておけばよいので、彼らには何も知らせてはならない」というものであり、現代のいまも実情は同じ水準にある。
IRSが作成している日本語版のパンフをじっくり見て読んでいただきたい。
アメリカのことだが、日本の納税者もこれを理解して身につけ、税務行政をチェックすることは今すぐできる。
そして、権利を法定化することを求めようではないか。
全国税制懇話会の春季研究集会は大変意義のあるものであった。中村名誉教授にはこの場からも改めてお礼申し上げたい。
アメリカ内国歳入庁が作成した納税者の権利に関するパンフ
(1枚両面の印刷物) 表面と裏面を掲示・クリックで拡大