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 いま筆者が関与している審査請求事案について、皆さんの参考になると思うので、途中ではあるが取り上げてみたい。
 審判所の裁決が出たときには、その結果を報告するので、「乞うご期待」を含みで。

  自主修正に加算税賦課はできるか?
  
事件のあらまし

 争点は、納税者が行った修正申告書の提出が「更正を予知」してなされたものか否か、ということである。
 事件のあらましを簡記する。

 株式会社Aに東京局資料調査課の実査官が反面調査に来た。その日時がX年12月15日。
 実査官がAの取引先であるSを調査している中で、AにキックバックをしているとSが申述しているので、その確認のための反面調査にきたという。
 質問に対してAの代表者は、担当者に任せているのでキックバックを受けているのか不明だと回答して、その日の反面調査は終わった。
 Aの代表者がその後、会社の担当者に確認したところキックバックを受けているということが判明したので、税理士に相談した。
 税理士は直ちに修正申告書を作成し、X年12月19日午前9時にその申告書を郵送した。そしてその日の午後にAの代表者から実査官に電話を入れ、キックバックの受取があったので、修正申告書は税理士が提出済みであったが修正申告する旨を通知した。
 この電話を受けた実査官は、慌てた様子で株式会社Aの実地調査をするとその電話で代表者に告知した。
 その半年後、X1年6月28日付で重加算税の賦課決定通知書がAに送られてきた。

  決定通知書に記述された理由 

 通知書に記載された理由は次のとおり。原文のままを記述する。

 「なお、当該修正申告書の提出は、更正があることを予知してされたものでない修正申告には該当せず、また、当該修正申告書の提出に基づき納付すべき税額の基礎となった事実のうちにその修正申告前の税額の基礎とされなかったことについて正当な理由があるの認められるものはありません。

 相談を受けた筆者は、決定通知書の「理由」を見て驚いた。また以下の後段は決まり文句で、問題は前段の赤字表記した文言である。こんな理由附記で良く決裁が通ったものだと。東京国税局の資料調査課というのは、この程度の水準なのかと。

  行政手続法の出番

 株式会社Aに重加算税を賦課する不利益処分であるから、その理由は第三者がみても理解できる程度に根拠条文や認定した事実を記載し、処分の理由を明確にしなければならないことが要請されている。その根拠法は行政手続法である。

  行政手続法第14条
 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

 この事案では差し迫った必要はないので、理由が示されなければならない。法律はこの規定しかないが、ではとの程度の理由を示さなければならないのかといえば、最高裁の判例がある。
 平成23年6月7日、最高裁判所第三小法廷判決「平成21年(行ヒ)91号」である。
 「一級建築士免許取消処分等取消請求事件」といわれている。

  最高裁が明示したこと

 ここで最高裁は、「どの程度の理由を提示すべきかは、(条文の趣旨に照らし)、①当該処分の根拠法令の規定内容、②当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、③当該処分の性質及び内容、④当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。」とした(丸数字はわかり良くするため筆者が振った)。
 要は、理由附記の程度の基準を示したのである。
 そして最高裁は免許取り消し処分の理由附記が「要求する理由提示としては十分ではないといわなければならず…理由提示の要件を欠いた違法な処分というべきであって、取消しを免れないというべきものである。」として、国交省の処分を取り消した。

  税務の不利益処分も同じ
   さて、この事案は?

 税務の不利益処分も理由附記に関しては行手法14条が根拠法となる。
 そこで改めて当該事案に立ち返るとどうなるのか。

 納税者の自主的な修正申告に対して加算税を賦課できるのは、その修正申告が「その申告に係る国税について調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合」は賦課をしないと国税通則法第65条第6項が規定していることを受け、更正予知のうえでの修正申告ならば加算税を賦課するとしている。
 要は通則法第65条は、加算税を賦課できる唯一の条文といえるので、規定を厳格解釈し、規定を適用できる事実関係があって初めて賦課できるのであり、処分する場合はそれらが理由附記されなければならないことになる。

 さて、当該事案の理由附記を再度見ていただきたい。記述されているのは、「当該修正申告書の提出は、更正があることを予知してされたものでない修正申告には該当せず、」だけである。
 あえて言うまでもないが、根拠法令の規定内容からいえば、最低限、①Aにおけるどの国税について、②調査があったことから、③いかなる事実関係によって更正があるべきことを予知したのか、が理由として提示されなければならない。
 しかし、まったく記述がない。納税者も第三者も賦課される理由を読み取ることはできない。まったく話にならないのである。
 そうすると、これだけで最高裁が言うところの「要求する理由提示としては十分ではないといわなければならず…理由提示の要件を欠いた違法な処分というべきであって、取消しを免れないというべきものである。」がそのまま当てはまる。

 再調査の請求や審査請求の段階で、原処分庁はあれこれと理由を述べているが、それは理由の差替えであり、「理由の差替え」は許されないことも判例で確定している。
 後付けで理由をるる追加してもダメなのだから、この事案に対する審判所の裁決は「取消し」しかない。

 ということで「乞うご期待」なのだが、不利益処分にはその相当の理由が付記されなければ違法だということをぜひ知っておいてもらいたいのである。