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   血迷ったか?

 国税庁が令和5年6月23日に公表した「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-」を目にして、正直なところ驚いた。
 何を血迷ったのか、「政治の先頭に立つ」と宣言しているのだ。
 だが、血迷っているわけではない。実に大それた戦略が秘められている。

   矩(のり)は法律で規定されている

 予備知識としてまず知ってほしいのは、国税庁の任務と所掌事務である。
 これは、「財務省設置法」で規定されている法律事項である。
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財務省設置法

(任務)
第十九条 国税庁は、内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現、酒類業の健全な発達及び税理士業務の適正な運営の確保を図ることを任務とする。
(所掌事務)
第二十条 国税庁は、前条の任務を達成するため、第四条第一項第十七号、第十九号(酒税の保全に関する制度の企画及び立案を除く。)から第二十三号まで、第六十三号及び第六十五号に掲げる事務並びに次に掲げる事務をつかさどる。
一 税理士制度の運営に関すること。
二 酒類に係る資源の有効な利用の確保に関すること。
三 政令で定める文教研修施設において、国税庁の所掌事務に関する研修を行うこと。
第四条
十七 内国税の賦課及び徴収に関すること。
六十五 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき、財務省に属させられた事務
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   過去に国税庁が言ったこと

 消費税導入時、消費税はまさに政治問題であったがゆえに、その定着を図るのは政治課題であった。国税庁がその政治課題を受け、行政面で定着を図るために例えば積極的な広報や差別的な行政を行うなどは、その時の政権の政治に加担することにつながる。
 そうすると、消費税定着に一役買ったとしても、国税庁は時の政権の言いなりになり、消費税受け入れに積極的な納税者には甘く、そうでない納税者にはきつく当たる信用できない行政機関だと国民は受け止め、信用を無くしてその後の税務行政に支障が及ぶことになる。
 官庁としてこうした当然の判断をしたのであろう国税庁幹部は、当時、「国税庁は矩を守り、決められた税法を粛々と執行するだけだ」と表明したものだ。

   さて、今回は

 「将来像2023」の「はじめに」を見てほしい。
 赤枠で囲ったところに注目していただきたい。
  <クリックで拡大>

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 「事業者のデジタル化促進」「社会全体のDX推進」の先頭に立つというのだ。
 財務省設置法で確認したように、国税庁の任務は「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現」である。
 「事業者のデジタル化促進」や「社会全体のDX推進」は国税庁の任ではない。完全に矩を踰えている。
 しかし、岸田政権は「課題先進国となった日本はデジタルで後れを取ったのだから、デジタルで遅れを取り戻す」とし、DX推進を主要政策に位置付けた。
 そして、政権は令和5年6月9日に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定した。
 国税庁はこの閣議決定で「命」を受けたとして、「任務」に格上げされたというのであろう。最も動きは周到に準備されていた。

   デジタルインボイスと電帳法の義務化か

 そして何食わぬ顔して「将来像2023」に盛り込んでいるのが、デジタルインボイスと電帳法の全分野の義務化である。
 立ち遅れている中小零細企業を煽り立てる。
 将来的にデジタルインボイスは国税庁にリアルタイムで繋がるシステムとなる。取引はすべて国税庁が情報として把握するのである。
 義務化される経理帳簿・書類のデジタル化とのマッチングはいとも簡単に行うことができ、「リアルタイムの動的税務調査」が可能になることを目指している。
 なるほど、「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現」という国税庁の任務に繋がるというわけだ。
 マイナンバーをはじめとして、すさまじい管理社会に向けて、政府財界は動いている。

 納税者である国民は、「搾取と収奪」の対象として管理される。
 国民は、あるべき社会を自分たちで考え、それに向けて真剣に政治的な動きをしなければならない。