jn162.jpg

   開示資料から読み取れる尻叩き

   資産課税の具体例

 事務所ニュース161の前号に続いて国税庁の変化を取り上げたい。
 前号は、課税庁から外(納税者・税理士等)に向けた施策であるが、では、課税庁が期待するところの人的資源(税務職員)に向けては何か変化があるのだろうか。
 答は「ある」。
 東京税財政研究センターが開示請求して開示を受けた当局資料の現物を見ていただきたい。
 全国の国税局とも同じであるが、国税局の主務課は、毎年夏に税務署の調査担当の管理者を集めてその年度の調査方針を指示している。
 その中のひとつである東京国税局課税第一部資産課税課が令和4年8月3日に開催した資産税の「全管特別国税調査官及び統括国税調査官会議」で配布した資料である。
 配布した文書のポイントのところ(資料中の3ページ部分を抜粋)の実物を見ていただきたい。

  <クリックで拡大>

評価指標.jpg

 公務員の人事評価が成績主義に改変されたのは17、18年ほど前になるが、その時、国税庁は定性的評価を行い、定量的評価はやらないとしていた。つまり、調査による追徴税額や不正発見による重加算税賦課といった数字=成績による評価はしないとしていたのだ。
 ところが、数年前から管理者向けの事務指示では、調査官の評価指標について、「第1指標:1件当たりの追徴税額、第2指標:重加賦課割合」かつ「中央値」によるとし、指示文書として臆面もなく書き連ね、スキル向上とチャレンジ精神をもって臨めとしている(上記、赤の下線)。
 「中央値」を評価指標とする意味は何か。
 下表のようにA調査官の年間調査事績とB調査官の年間調査事績を比べてみよう。
 国庫に寄与したのは年間増差所得額の合計額が多いA調査官である。B調査官に対して約2倍稼いでいるのであるから、相対評価では2対1でAに有利な評価ポイントが付くはずである。
 しかし、中央値(上からの順番と下からの順番の真ん中、この表の場合は4番目が中央値となる)評価となれば、AとBは1対13の大逆転となり、Aの評価は極端に低くなる。
 たまたま1件で多額の増差を出したとしても、評価は上がらない。コンスタントに増差を上げ重加を賦課しろというのだ。

中央値評価例.jpg

 

   法人課税の場合
 
 下のグラフ図は、上記と同様、センターが開示請求により得た資料である。令和4年7月28日に開催された法人課税課の会議資料で示されている。
 少々見づらいかもしれないが、当局の職員支配とその結果による動向が読み取れる貴重な資料といえる。
 法人税課は調査官の評価指標として「3税(法人税・消費税・源泉所得税)1件当りの増差税額と重加賦課割合」としている。
 下図を見ると、平成27年から「3税1件当たり追徴税額」と「中央値」が数値として集計され、グラフとして表示されはじめている。<クリックで拡大>
法調査推移表2.jpg
 
 グラフを見ると、中央値は5年間ほど横ばいであるが、令和2に3倍化し、令和3年も平成時代の倍となっている。
 また、3税1件当り追徴税額も平成時代から令和に入り急増している。
 その一方で、同じ期間対応で「法人税少額更正割合」(課税庁にすれば少ない方がよい)は平成時代の60%台から令和に入り約50%と、10ポイント以上も改善されている。
 
   中央値評価に包摂され始めている調査官たち
 
 取り上げた3つの数値の変遷は何を意味するのであろうか。
 第一に、税務署の調査官たちが中央値を評価指標とする意味を、評価の表れである人事配置や昇級等を通して体感をもって理解するのに数年を要したと思われること。
 第二に、その数年の動向を見て中央値評価の意味が分かり始めることによって、調査官の意識が変化し、結果にもつながり始めているということ。
 つまり、調査全件に対し、何が何でも少額でない3税の追徴税額と重加を取ろうと調査に立ち向かわざるを得ない状況に向かっていると捉えていいのではないだろうか。
 税務職場で、当局のこうした露骨な評価に異を唱えるべき労働組合が弱体化し、税務職員はほぼ無組織化の状態にある。個々の職員が当局の仕事のやらせ方に「包摂」されている状態がこのグラフ図から読み取れるのである。
 
 税務職員に追い打ちをかけるように国税庁は「組織理念」を発表した。
 そこでは「行動規範:使命感を胸に挑戦する 税のプロフェッショナル」として、
「参加意識とチャレンジ精神をもって、常に業務を見直し、事務を効率化・高度化します。」
「専門的な知識や技術の習得に努め、自らの能力を最大限に発揮します。」
としている。
 組織を挙げて、スキル向上とチャレンジ精神で増差と不正を発見しますと宣言するのであるから、各調査官の評価指標とも相まって、調査官が成績に追いまくられるのが目に見えるようだ。調査が荒っぽくなるのもむべなるかなである。