30年・事務年度 相変わらずの“増差”“件数”主義
税務署の人事異動は7月(通常7月10日)である。 7月から新たな「30年・事務年度」が始まる。
新しい事務年度とは、職員にとって自分の評価と希望が叶えられた人も、叶えられなかった人も、税務署の世界で生きていく限り、新たな事務年度の始まりである。 権力(政治・官邸)や上司に逆らうわけにはいかない。
税務行政の2本の柱、「税務調査」と「滞納整理」に邁進するしかない人生である。
各署・各税務職員は、独善的な施策を試み、それぞれの目標をたて、目標以上の成果を上げるため新天地で奮闘する事務年度の始まりである。
そこに、増差・件数主義、違法・強権的な税務行政の温床がある。
国税審議会においても毎年「税務行政の現状と課題」が協議され、資料も公表される。 比較してみると、税務調査に対する国税庁の取組の課題と「最近の傾向」が読みとれる。 調査官が職務命令の下、どんな姿勢で調査に臨んでくるかが見えてくる。
税務行政のトップ1・2、財務事務次官、国税庁長官が不在でも留まることがないのが「税務調査」と「滞納整理」である。
申告水準の向上 ・・・ 税務調査で果たされるのか ?
この時期、全国国税局長会議、全管署長会議、統括官・特別調査官会議等々が開催され、新事務年度の方針や施策が確認される。
この新事務年度の方針や施策にそって税務行政が執行される。 そこには税務職員個々の正義感など入り込む余地がない。 冷酷なまでの職務命令と行政執行である。
国税庁は極めて強力な法執行機関である。 税務職員には、質問検査権や滞納処分に関する強大な権限が付与されている。 その権限の行使に当っては、より慎重にならなければならない。 人権侵害などあってはならないのである、
しかし、各事務年度の「事務運営に当っての基本的な考え方及び留意事項」には必ず次の事項が表現されている。
① ・・・適正・公正な課税を図るため、納税者を的確に把握・・・
② ・・・適正な申告・納税義務の履行・・・
③ ・・・調査と指導による申告水準の向上・・・
④ ・・・申告水準の向上及び納税意識の高揚を図る。
である。
これは、税務職員への職務命令である。
何か違和感をかんじる ?
① ・・・年貢を納めずにいる、もぐりの農民を探し出せ・・・
② ・・・年貢を正しく納めていない農民は、厳しく納めさせろ・・・
③ ・・・検地を隅々まで徹底し、年貢の収納を高めろ・・・
④ ・・・年貢の収納を高め、率先して従う農民へ意識改革せよ・・・
“農民は年貢をごまかしている ! 徹底して調べ上げ、年貢を取り立てよ !”
“国民は税金をごまかしている ! 厳しく調査し、税金を取り立てよ !”
まさに、悪代官、強権税務職員 と 読みとるのは私だけだろうか ?
税務調査は、民主的に行われるのが基本である。 権力を行使する税務調査であれば「税務調査の透明性」「予見可能性」を担保し、人権と生活権を守ることが大切だ。(納税者の権利擁護)
国民あっての国家である。
国家権力に迎合し、公文書の隠ぺい・改ざん・虚偽答弁を平然と行う役人。 “役に立たないから役人と呼ぶ” と揶揄されるようでは、行政執行は出来ない。 信頼もされない。
現国税通則法はこのようなことの反省から、民主党政権下、改正・施行されたはず。 しかし、税務調査官にはまったく浸透されていない。 無視状態だ。 それでいて納税者にはコンプライアンス<税法を守れ/法令遵守>求めてくる。 本末転倒だ。
ここが税務職員を競争へと駆り立て、違法・無法な税務調査・滞納整理へと拍車をかけている。
大企業はアベノミクスのもと、史上最高の内部留保を溜め込んでいる。 一方、国民・中小零細企業は生活や事業経営に汲々としている。
こんな「税務調査」・「滞納整理」が本格的に始まる。
税務調査の基礎的知識
1 我が国の納税義務は、原則として納税者自ら申告により確定する申告納税方式です。
したがって、税務行政においては、この権利を崇高なものとして尊重しなければなりません。
2 しかし、 ①納税者が申告すべき税額を申告していない場合 ②税額等の計算が法律の規定に
従っていない場合 ③また、申告等の内容が適法でない場合 ④あるいは、納税者自らが確定
した税額を納付していない場合 には税務調査の目的や対象となります。
3 税務調査は狭義の「行政調査」に属します。
憲法は、 ・個人の尊重(13条) ・法定手続の保証(31条) ・令状主義(35条) ・自白強要の禁止(38条) ・・・ 等、 人権及び財産権に対する保護規定を設けています。 したがって、行政上の必要(税務調査上必要)との理由で実力行使をすることはできません。 あくまでも任意調査であり、納税者の同意の下に行わなければならない行政調査です。 税務署(調査官)の言うことをすべて受任しなければならないというものではありません。
4 税務調査官には「質問検査権」があります。
納税者に対して、課税要件事実について質問し、納税者の支配に属する資料を検査する権限です。
この質問検査権は、税務調査官の恣意・独断で行使されるものではありません。必要最小限の行使に止まらなければなりません。
「質問検査の必要があり、かつ、これと相手側の私的衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り・・・」 と、最高裁判所(昭和48.7.10)も判決で規定しています。
滞納対策の心得 10箇条
1 たとえ税金を滞納していても、納税者には「健康で文化的」に生きる憲法上の権利が認められていることをしっかり自覚し、主張しましょう。
2 納税については、常日頃、誠実な意思を持って対応しましょう。
3 滞納発生後、期間の浅い滞納で即納困難な場合には、「申請型換価の猶予」を大いに活用しましょう。
4 長期累積滞納があるため、申請型換価の猶予の対象外で、かつ、完納までにたとえ長期間要するとしても、分納が可能な場合には「職権による換価の猶予」の申立をしましょう。
5 災害・盗難・貸倒れ・事業上の著しい損失・数年分の修正申告書の提出など特別の事情が発生して納付困難になった場合には、納税の猶予(地方税は徴収猶予)の申請をしましょう。
6 分納制度のルールを理解し、納税の猶予・換価の猶予など法的猶予の制度を積極的に活用しましょう。
7 「担保がないから猶予は認めない」という間違った担当官の解釈を正し、法的猶予を実現させましょう。
8 突然、実情無視の差押えを受けて困ったときでも、あわてず、冷静に「差押えの解除」を模索しましょう。
[差押解除・取消ができるケース]
9 納税者が、 ①財産も納付資力もない ②滞納処分を執行されたら生活を著しく窮迫させる恐れがある状態に置かれたときは、行政に対して「滞納処分の執行停止」の適用を相談しましょう。
10 滞納問題で困ったときは、迷わず「滞納相談センター」(03-6268-8091)に電話しましょう。