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  民主的な税制・税務行政の確立を求めて

  東京税財政研究センターの第20回通常総会が、2013年8月20日全労連会館で開催された。
東京税財政研究センターは、全国税労働組合のOB税理士を中心に1994年7月21日に ① 民主的な税制、財政の確立のために、国内外にわたる調査、研究を行う ② 民主的な税務行政、租税手続きにおける納税者の権利向上を目指し、国内外にわたる調査、研究を行う ③ 調査、研究の成果は公にする と設立された団体である。現在は、全国税労働組合OB税理士のみならず、大学教授や税理士・専門家など多くの人が結集し、名実ともに全国に発信するセンターに成長している。

   シンポジュウムで報告する各氏
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 本総会で採決された方針を掲載する。
 なお、事務所の小田川豊作(副所長・税理士)が副理事長に再選された。

1 はじめに
 昨年12月衆議院選挙の自由民主党大勝を機に、日本の政治の右傾化が急速に強まりました。自由民主党の「日本国憲法改正草案」はその典型で、天皇を元首に、現憲法9条2項以下を廃止して「国防軍」を置き、国民の基本的人権は「公益及び公の秩序」の名のもとにタガをはめ義務を押し付ける等、現憲法の下で築かれてきた68年間の「平和・民主・基本的人権の日本」を根底から覆そうとするものです。
 自公、安倍政権は外交では以前にもまして土下座的対米従属を強める反面「強い日本を取り戻す」のスローガンのもと、太平洋戦争の侵略定義や、慰安婦問題等で戦前回帰の姿勢を見せ、また、尖閣、竹島問題等で中国や韓国との関係を悪化させ、日本の国際的な孤立化が懸念されるまでになっています。橋下維新の会代表の「慰安婦問題、風俗活用」発言はまさにこれを象徴する問題として国際的な反感をかっています。
 国民の犠牲前提のアベノミクス
 この流れと軌を一にするアベノミクスは、「大企業が潤えば滴り落ちる」(竹中平蔵・元経済財政担当大臣)とする新自由経済による規制緩和、経済改革を標榜した小泉内閣時代の焼き直しであり、「三本の矢」など様々な体裁をとりながらも「大企業・高資産家」支援政策です。これらの層にはバブル再来を思わせる好結果をもたらしていますが、13年間の自公、民主党政権下で、生活保護世帯数は58万世帯から155万世帯に増加し、さらなる拡大が現実的問題となっています。
 貧困・経済格差増大、雇用形態の流動化・不安定化、労働賃金の低下、失業者の増加、物価上昇等々多くの国民の犠牲を前提として少数の大企業、資産家が潤う政策であることが鮮明となってきています。
 政治監視の目を強く、大きく
 約1兆2千億円の復興予算が目的以外に流用され、福島原発事故の解明もなされず、未だ30万人を超える避難者がいる状況化にもかかわらず、安倍政権は原発再稼働・原発輸出へと走り出しています。国民の声に耳を貸さず「大企業・高資産家優先、国民犠牲」の姿勢。こうした姿勢は、TPP参加、米軍基地の辺野古移転、オスプレイ配備、マイナンバー法、生活保護費の切り下げ、消費税増税、相続税増税などと共通しています。
 国民生活、平和、民主主義を護るために政治を監視する国民の目・声を一層強く大きなものにしていくことが求められています。

2 税制・税務行政を取り巻く状況
 安倍自民党内閣の税制の柱は「世界で一番、企業が活動しやすい国」にするための大幅な法人税減税です。2013年度の税制改正では、設備投資減税や研究開発税制の拡充などを実施。さらに「思い切った投資減税、法人税の引き下げ」を公言しています。一方では消費税率を2014年(4月)に5%から8%、2015年10月には8%から10%に引き上げるとしているばかりか、社会保障制度改革国民会議の会合では安倍内閣のブレーンである東京大学大学院教授・伊藤元重氏が、残った遺産に消費税をかける「死亡消費税」まで提案しています。自公両党で過半数を制するという今回の参議院選挙結果を受けて、政府自民党は大企業に大減税、庶民には大増税の税制改革をもくろみ、消費税率の引き上げ実施、マイナンバー法の実施等、国民との矛盾を激化させる方向に動くことが予測されます。
 国税通則法を納税者の権利・利益擁護に
 改正国税通則法の施行を受けて税務行政も大きく変わろうとしています。国税庁は、調査手続の法制化や定員削減等により調査件数の減少は避けられないとしながら、接触率(納税者との調査的接触)はこれまでの水準を維持するとし、そのために実地調査に代わる「新たな手法」を確立するとしています。不動産所得者に対する一斉取り組みは、行政指導に名を借りた実質的な調査とも思える「お尋ね」文書を発送し、脅かしまがいの文書を添える等看過できない問題を含んでいます。こうした方式は今後増加することも予想され厳しくチェックしていくことが必要です。
 また、法制化(国税通則法改正)された(調査)手順の遵守という意味では、この半年間各地の税務調査の報告でも「(調査)予約だけで事前通知がない(11項目通知義務)」「法制化(国税通則法改正)されたことすら知らない」「無予告調査(ガサ調査)が従来どおりつづいている」「事前通知は面倒だからという税理士がいる」など、課税庁側も納税者、代理人(税理士)側も、形骸化させ、なし崩し的に手抜き、簡略化を狙っていると思えなくもありません。
 センターでは「改正国税通則法」の狙いは、(税務調査における)納税者の権利・利益の擁護等で不十分な一面を持ちつつも、これまでの課税庁の恣意的税務調査を排し、法(法の支配)に基づく手続きによる税務調査という点で、課税庁、納税者、税務代理人(税理士)が改正前(従来)の発想の切り替えを求められていると位置づけています。
 その意味では、納税者の権利・利益を擁護する立場を明確にし、「改正国税通則法」をそのために活用していくという方向性を持つ必要があります。
 税理士会の自主・自立化を求めて
 「国税通則法改正」「消費税増税」問題など、納税者の権利・利益に直接関わる問題にもかかわらず、日税連(日本税理士連合会)は明確な姿勢を示さないばかりか、むしろ政権、課税庁側に寄り添う対応を示しています。「税理士法改正」問題でも、「書面添付制度の強化」「税務支援の従事義務」等掲げている反面、「税理士の使命」として「納税者の権利・利益の擁護を明確に」という声がある中、これについては何ら触れることなく、一層国税庁の下請機関とする傾向が強まっています。
 センターでは「納税者の権利・利益を護る」視点から税制、税務行政を研究する立場に立ち、税理士会の問題も同様の視点で研究、チェックを強め、税理士会の自主・自立化に向けて発信していきます。

3 まとめ
 2013年度の東京税財政研究センターの活動は、こうした情勢を踏まえ、これまでの活動の成果に依拠して国民生活擁護、納税者の権利・利益の擁護の立場を堅持し、民主的な財政制度、民主的な税制・税務行政の確立のために、さらにはグローバル化する税制・税務行政の国際化に伴う国際的な税制、税務行政も含めた幅広い研究活動、これに基づく成果発表、提言等開かれた活動を展開していく決意です。
( )内.事務所補筆

  「8・20『差押え』出版記念シンポジウム」開催

 東京税財政研究センター総会終了後、同センター主催で「8・20『差押え』出版記念シンポジウム」が開催された。
 シンポジウムは、同センターの角谷啓一副理事長の基調報告につづき、 ・非常識な行政(滞納差押え)を得意顔で市のホームページに公表(写真付) ・滞納整理の流れと納税緩和の活用チャート ・滞納整理に関する主な条文 ・徴収法執行に当たって「慎重さ」を求めた我妻序文(故我妻栄氏は、現行徴収法制定に当たっての最高責任者) ・平成25年3月29日鳥取地裁判決の内容と解説(預金口座に振り込まれた児童手当の差押えを「違法な処分」と断罪)が報告された。
 引き続き、 ・納税者側(夫が違法な滞納処分の犠牲に) ・国税徴収職員 ・地方税徴収職員 ・代理人の立場(違法な滞納処分と闘っている税理士) ・運動の立場(全商連税対部)の方から、生々しい現場からの報告があった。

 シンポジウムには毎日新聞、時事通信社、NHKなどの報道機関も取材に訪れた。
 翌日毎日新聞に報道された同シンポジウムの記事を全文紹介します。

 納税に苦しむ人々に光を当てながら税金徴収のあり方を考えるシンポジウムが20日、文京区湯島の全労連会館で開かれた。全国税OBを中心に首都圏在住の税理士らでつくる「東京税財政研究センター」による「差押え~実践滞納処分の対処法」の出版を記念したもの。滞納処分の犠牲になって夫を亡くした女性や国税と地方税の徴収職員らが出席し、滞納問題にどう対処すべきかを話し合った。
 「差押え」は昨秋に出版され、販売部数は4000部を超えた。徴収する側とされる側双方の視点に立ち、納税者の権利にまで踏み込んだ「手引書」ともいえる内容。基調報告をした角谷啓一税理士(71)は「自殺や餓死まで起きていることに警鐘を鳴らしたかった」と話した。
 シンポジウムでは、千葉県内の女性(59)が滞納問題の末に命を絶った夫の遺書を読み上げ、納税に苦しむ実態を報告。病気や事業の失敗など滞納原因は千差万別な中、地方税の徴収職員は「強制徴収だけが滞納整理ではない」と話し、所得を底上げする経済復興の必要性を訴えた。(太田誠一)

 シンポジウムの会場では、中村芳昭(青山学院大学教授)氏から「徴収法は法の支配が弱く、徴収職員の裁量に委ねられている点が強い。徴収職員が執行段階で法の支配を理解せず、裁量(権力)のみを優先して執行する問題がある」と発言し、参加者からも「税金は翌年課税される。経済環境は年々変化する」「税金を払いたくないのではない。払えないのだ」 「滞納問題で苦しんでいても相談にできる相手(税理士)がいない」「報告された女性も事前に相談できる税理士がいたら、夫を亡くさなくてもすんだのでは」・・・ 等々発言があった。

 今こそ税理士の力量が試される時である。


「差押え~実践滞納処分の対処法」は、事務所でも販売しています。ご注文ください。