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  「滞納相談センター」設立後の経緯

 滞納相談センター事務局長 福田 悦雄 氏より「税経新報」に投稿がありましたので、その抜粋をアップするとともに、「滞納対策の心得10箇条」の全文を掲載します。

 滞納相談センター(以下「センター」)は、一昨年9月の発足以来、暮らしや税金の滞納問題等で困っている方々の相談を受け付け、相談者(納税者)に寄り添い、滞納問題の解決だけでなく、事業の再生・生活の改善も視野に入れながら問題の解決に当ってきました。
 この間、20名の相談員(税理士)が、120人を超える滞納相談を行ってきました。 相談活動を実践しながら、センターの会議や研修会を開催、相談員の拡充、相談内容の改善・充実に力を入れてきました。
 相談内容の改善・充実として、滞納問題で困っている納税者が、一見して問題解決の道筋がわかり、幅広いテーマを網羅し、コンパクトに具体化したものが「滞納対策の心得10箇条」です。
 一般の滞納者(納税者)には「難し過ぎる」との声もありますが、滞納問題は人の“いのち”をも奪う緊急の課題となっている昨今、走りながら改善していくこととし、多くの税理士にも活用していただきたい。

 当事務所でも税理士2名が相談員として活動しています。

       「滞納対策の心得10箇条」
                          平成29年1月 滞納相談センター
                                    (03-6268-8091)
    * 国税徴収法 ⇒「徴収法」又は「徴」と略してあります。
    * 国税通則法 ⇒「通則法」又は「通」と略してあります。
    * 表紙例:国税徴収法第151条第2項 ⇒「徴収法151条2項」又は「徴151②」

1 たとえ税金を滞納していても、納税者には「健康で文化的」に生きる憲法上の権利が認められていることをしっかり自覚し、主張しましょう。
 
滞納税金の強制的な徴収と引き換えに、「生命が削られ、奪われる」ようなことは絶対にあってはなりません。そうしたことが起きないよう、我が国の租税徴収制度には、強制的な滞納処分の手続規定だけではなく、徴収又は納税を緩和するための諸制度(納税の猶予、換価の猶予、滞納処分の停止、生存権的財産に対する差押禁止など)が設けられているのです。
 したがって徴収行政に当っては、納税者の実情を十分調査し、「先ず強制処分ありき」ではなく、「実情に即した滞納整理を行うことが原則」(国税庁)とされています。これに対し、納税者も誠実に実情を伝えるとともに、実情に即した行政対応を求めましょう。

2 納税については、常日頃、誠実な意思を持って対応しましょう。
 「納税の誠意」は、徴税権力に媚(こ)びへつらうことでは決してなく、むしろ、乱暴な強権力の行使と断固としてたたかい、折衝する上で重要な武器になります。したがって、①役所から届いた封書やハガキなどを「ポイ捨て」にしないで必ず目を通す、②毎期到来する国税や地方税等の「納期限」を忘れない、③納期限に完納できない場合には、一部であっても納付可能な金額を納める、④即納困難な部分については、可能な範囲で納付計画を立てて納付相談に出向く、といった姿勢が大切です。納税者としての誠実な意思を持って対応しましょう。

3 滞納発生後、期間の浅い滞納で即納困難な場合には、「申請型換価の猶予」を大いに活用しましょう。
 
この申請型換価の猶予(徴収法151条の2)は、猶予制度の見直しによって新設(国税は平成27年4月、地方税は同28年4月)された制度です。猶予が申請できるのは、①その滞納税金を一時に納付することによって、事業の継続、生活の維持を困難にするおそれがある場合で、②国税の場合は「(原則として)納期限から6か月以内の滞納(地方税の場合、その期間は各地方自治体の「条例で定める」とされています。※注1)に限られます。原則1年間の猶予期間ですが、やむを得ない場合には延長制度があり、最長2年以内の分納が可能です。猶予期間中の延滞税(地方税は延滞金)は大幅に免除されます。国税ではこの制度を使って申請した場合、その多くが許可されるという実績があります。この制度の適用を受けるためには、申請書のほか所定の手続書類の作成・提出が義務付けられています。行政窓口へ相談に出向きましょう。
 ※注1:東京都の場合は条例で「(原則として)納期限から3か月以内の滞納」と定められており、ほかの地方自治体も多くは東京都と同様と思われます。

4 長期累積滞納があるため、申請型換価の猶予の対象外で、かつ、完納までにたとえ長期間を要するとしても、分納が可能な場合には「職権による換価の猶予」の申立てをしましょう。
 これは従来からあった職権による換価の猶予制度(徴収法151条)です。この制度は、①滞納者の財産を直ちに換価されると、事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある場合、②その財産の換価を猶予することが、直ちに換価することに比べて、徴収上有利であるとき、のいずれかに該当すれば適用されます。しかし、かつて、実際の運用は厳しく制限的に取扱われていました。ところが、猶予制度が見直される中で、所定の手続書類を提出することによって、職権型換価の猶予を受けられる可能性が広がりました(徴151②)。猶予期間、延滞税(延滞金)の免除制度は、申請型換価の猶予と同じです。したがって、「申請型換価の猶予の対象外」となった場合でも諦めないで、職権型換価の猶予を追求しましょう。職権型換価の猶予の適用を受けるため手続としては、「分割納付計画書」(地方税の場合は「納付誓約書」など)のほか、申請型換価の猶予同様の手続書類の作瀬・提出が必要となります。行政窓口へ相談に出向きましょう。

5 災害・盗難・貸倒れ・事業上の著しい損失・数年分の修正申告書の提出など特別の事情が発生して納付困難になった場合には、納税の猶予(地方税は徴収猶予)の申請をしましょう。
 
例えば、①震災、事故、盗難、病気、貸倒れなどの特別の事情が発生たことで納付困難になった場合(通46②一~二号)、②事業上の著しい損失等を受けたことで納付困難になった場合(通46②三~四号)、③税務調査の結果などに基づいて数年分の修正申告等の提出を余儀なくされ、かつ納付困難な場合(通46③)など、これらの事実が発生したときには、納税の猶予の申請ができます。猶予を受けようとするときは申請書のほか、所定の手続書類の作成・提出が必要となります。これらに該当する場合には、積極的に納税の猶予の申請をしましょう。
 猶予の申請は、事実の発生後速やかに行います。ただし、③の場合には納期限(修正申告の場合には申告書の提出日)内の申請が要件になります。延滞税(延滞金)は、①については事実発生日から猶予の終期(最長2年間)まで全額免除、②及び③については猶予期間について一部免除となります。猶予期間は換価の猶予と同じです。

6 分納制度の「ルール」を理解し、納税の猶予・換価の猶予など法的猶予の制度を積極的に活用しましょう。
 猶予制度は、納税者個々に事情に基づいて申請し、認められる納税者の権利です。しかし、好き勝手に分納が受けられるというものではなく、一定のルールがあります。
 そのルールとは、滞納税金について猶予を受けようとする場合、直ちに納付可能な余力があれば先ずその金額を納付し、残余の納付困難な部分が猶予(分納)の対象金額となるわけです。そして、毎月分納額は、「毎月納付が可能で、精一杯の金額」ということです。この、現時点で納付可能な資金及び毎月の分納可能な資金は、納税者本人が猶予申請の手続書類の作成の過程で自主的に算定することになっています。
 もう一つのルールは、分納継続期間中に原則として、新たな滞納発生をさせないことです。したがって、分割納付計画書を立てる場合、先ず、新たな税金の発生と納付を適切に見込んで、計画に反映させることが大事です。
 それでも、新たに滞納発生する場合があります。猶予期間中の「新たな滞納発生」は、猶予の取消し要件になります。しかし、「やむを得ない事情」があれば猶予を取り消さないで、「新たな滞納発生」分もあわせて猶予に含めることも認められています。新たな滞納発生を放置しないで、担当官等に相談することをおすすめします。
 これらのルールを踏まえ、納税の猶予、換価の猶予(申請型及び職権型)などの法的猶予(法律の規定に基づいた猶予)の申請・申し出を積極的にすすめましょう。

7 「担保がないから猶予を認めない」という「間違った担当官の解釈」を正し、法的猶予を実現させましょう。
 猶予制度見直しの中で、担保提供に関する規定も若干見直された結果、担保提供義務の例外として①猶予対象金額が100万円以下(改正前は50万円以下)、②猶予期間が3か月以内(改正前は「3か月以内」の規定はなかった)、③担保を徴することができない特別の事情がある場合が規定され、このいずれかに該当すれば、担保の提供は「この限りでない」とされています。③の「特別の事情」とは、「適当な担保がない場合、担保を徴することによって、事業や生活に著しい支障が生じる場合、分納に際して手形等が提供され、担保の必要がないとされる場合(通則法55条4項)」などです。
 したがって、「適当な担保がない場合」も「この限りでない」(=担保が不要)に該当します。よって、担当官が「担保がないから猶予を認めない」と言ったとすれば、それは間違いです。間違った担当官の解釈を正し、法的猶予を認めさせましょう。

8 「突然、実情無視の差押えを受けて困ったときでも、あわてず、冷静に「差押えの解除」を模索しましょう。」
 
差押えの解除は、徴収法79条「解除の要件」に該当する場合のほか、解除できる要件が限定されているので、一度差押えされると解除は難しいものがあります。したがって、「常日頃の納税の誠意」を武器にして、差押えをさせない心がけが肝要です。
 しかし、差押えされてしまったとき、換価の猶予(申請型あるいは職権型)の適用を強力に申入れ、猶予の適用を受けた後、税務署長に「差押解除の申立て」(徴収法152条2項)を行うのが一般的によくあるパターンです。
 このほか、差押解除の道をひらく、次のような対応策が考えられますで、実情に即した形で行政側と折衝しましょう。
〔差押解除・取消しができるケース〕 
①差押財産の帰属が本人でない場合 ⇒取消し、②徴収法75条に規定する絶対的差押禁止財産である場合 ⇒取消し、③口座に入金した給与・年金等の差押制限財産を全額差押え・取立てた場合 ⇒差押・配当の取消し、④口座に入金した特別法による差押禁止債権(児童手当等)を全額差押えし、取立てた場合 ⇒差押・配当の取消し、⑤超過差押え・無益な差押えに該当する場合 ⇒取消し、⑥納税の猶予が許可され、差押え解除申請をして認められた場合 ⇒解除、⑦換価の猶予が適用され、税務署長に差押え解除の申立てをして認められた場合 ⇒解除、など…(※注2)。
 ※注2:③、④については、口座に振り込まれた差押禁止(又は「差押制限」)債権が、その口座内において、明確に特定できる場合をいう。

9 納税者が、①財産も納付資力もない、②滞納処分を執行されたらその生活を著しく窮迫されるおそれがある状態に置かれたときには、行政に対し「滞納処分の執行停止」の適用を相談しましょう。
 例えば、①個人・法人の納税者が事業の倒産など、いろいろな経緯の中で資力を喪失し、事業としての実態が存在していないケース、②財産があったとしてもそれは生活維持に必要不可欠な最低限度の居住用財産であり、その財産を滞納処分によって失うと一家は路頭に迷い、生活維持が困難(=生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できない程度の状態になるおそれがある場合)に陥ってしまうケース、③過去の一定の事業展開の中で累積した滞納税金について、現時点において細々と事業は継続しているが完納までに10年以上を要するほか一定の要件にあてはまるケース・・・。
 こうしたケースに該当する場合には、徴収法153条によって、納税緩和制度の一つである滞納処分の執行停止の措置が用意されています。この制度の適用を受けると、3年後に納税義務が消滅します(内容によっては即時に消滅できる場合もある)。

10 滞納問題で困ったときには、迷わず「滞納相談センター」(03-6268-8091)に電話しましょう。
 
平成27年9月に立ち上げた滞納相談センター(東京都新宿区百人町、ホームページは「tainousoudan.com」でアクセスを)は、東京税財政研究センター、東京税経新人会、不公平な税制をただす会などの組織に結集する税理士のほか、弁護士・司法書士・社会保険労務士の有志の協力も得て、およそ40人体制で毎日(平日の月~金、9:00~17:00)滞納相談を受け付けています。設立から約1年間で120件程度(平成29年3月末現在)の相談実績があります。
 この「10箇条」では、「先ず、ご自身で行政側に相談しましょう」と相談者に訴えています。しかし、行政側が「まったく相談に乗ってくれない」場合など滞納問題で困ったときには、ご遠慮なく滞納相談センターへ電話してください。
 相談には、多少の実費(交通費、通信費など)がかかる場合がありますが、基本的にボランティアです。したがって、中小零細の事業者又は一般の個人の場合、報酬などは必要ありません。ただ、税理士法の制約上、個々の相談者と応対した税理士との間で、代理権限を証する委嘱契約等を結んでいただく場合もありますのでご了承ください。