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 「浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」

 盗人石川五右衛門の辞世といわれているが、税の世界にも当てはまるからいい得て妙だ。
 源泉徴収されているサラリーマンは縁がないだろうが、とにかく税金の納税額を減らそうと、その種を探して実行している人々がいる。それが脱税によるものなら、犯則調査による脱税犯として刑事罰の対象になる。
 脱税ではなく、法の網をかいくぐる手法なら、合法であり調査で指摘されることもない。「節税スキーム」といわれている。その様なわけで、「節税スキーム」を探し求め、それを売り物にしている者もいる。
 一般的にいえば、合法ならいいのではないかと思うかもしれない。
 しかし、税制は財源を確保する役目とともにも、政策の道具としても用いられている。毎年改正されるのは、政治や経済に対する政策税制として活用するためだ。その場合、政策の趣旨に沿った条文が作られる。

   少額資産特例の趣旨
 

 今回取り上げる「少額資産の損金算入の特例」は、少額資産関係3制度(①10万円以下の少額資産、②一括償却資産、③30万円以下の少額資産)が対象になるが、その中のひとつ③は、平成15年度改正で措置されたもので、その趣旨は、中小企業を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、ベンチャー企業を含め活力ある中小企業の経営基盤を強化する必要があることから、その一環として中小企業の事務負担に配慮して創設されたものである。
 簡単にいえば、30万円以下の減価償却資産は取得価額をそっくり損金としていいよ、そうすると減価償却資産として毎年計算をして減価償却費として経費を計算する事務負担が減るので経営強化の一助になるでしょう、ということから作られたのだ。
 だから、措置法65条の5では、「事務負担に配慮する必要があるものとして政令に定めるものに限る」とまで書き込んでいるが、それは中小企業限定だという意味であり、特に業種や業態を絞るものではない。

   節税スキーム
 

 ところが、この規定を使った「節税スキーム」が考え出された。
 自分の事業とはまったく関係のない30万円以下の資産を取得し、それを貸し出して賃貸収入を得るスキームである。例えば……

 飲食業の中小企業が15万円の足場を20本取得する。合計300万円だから、この20本の足場代金300万円は全額が損金となる。自分のところで事業の用に供するわけではない。これを建設関係リース業者に一括年間100万円で貸し出す。賃料収入は100万円増えるが、300万円が見合いの損金となるので、差引200万円が飲食業の利益を圧縮できる損金として使えるというわけだ。
 翌年にこの足場をリース業者に200万円で譲渡すれば、前年の賃料100万円と併せて300万円が回収できる。自分のフトコロは痛まず、前年の所得減200万円に見合う税金が儲かったわけだ。リース会社も損はないので一枚かんで節税スキームができ、これを毎年繰り返せば、毎年200万円の損金に見合う税金が得するというわけだ。

 なるほど合法ではある。しかし、創設趣旨に沿っているとはいいがたい。
 そこで、平成4年度改正で少額資産3制度の対象資産について、「貸付の用に供した資産」を除外することとした。
 ただし、「節税目的の貸し付け」に絞ったので、「通常の事業活動の中で行う貸付」であれば、これまでどおり制度を適用することができる。間違わないようにしていただきたい。

   あなたはどう思う?
 

 これをひねり出した人たちはウームとうなっているかもしれないが、そんな舌の根も乾かぬうちに、現代の石川五右衛門たちは「通常事業活動」に沿う「節税スキーム」や別の「節税スキーム」のひねり出しに着手しているのかもしれない。
 浜の真砂は尽きるとも……か。こうした御仁を情けなく思うのは私だけか。