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   重加算税に匹敵する行政罰

 令和4年度改正でまたまた加算税の加重措置が法定化された。
 令和6年1月1日以後に法定納期限が到来する国税が対象となる。
 法人税、所得税、消費税に関する修正申告書や期限後申告書を提出する場合や、調査による更正や決定がなされるとき、次に該当する場合は通常の加算税に10%あるいは5%の加算税が加重される。
 調査で調査官が帳簿等の提示・提出を求めたのに提出しなかった場合、この場合は即10%の加重となる。また、売上金額の半分以上を記載していない帳簿に基づいて申告していた場合は、これも10%が加重され、過少申告加算税は最低で20%になる。なお、金額によってはさらに5%が加重される(これは以前からある加重措置)ので、過少申告加算税でも25%をかけられることになる。
 無申告者に対する決定で同じ事態があれば、無申告加算税は最大30%となる。
 重加算税は通常35%であるから、これらに該当すれば重加算税に匹敵する重い行政罰になる。
 加重が5%とされるのは、売上金額の3分の1以上が記載されていない帳簿に基づく申告をした場合とされた。
  
   調査実務でどうなる?

 だが、どうも腑に落ちない。
 売上を半分以上、あるいは3分の1以上も記帳しないというのであれば、いわゆる「ことさら過少」の隠蔽仮装と判定し、重加算税を課すのではないか。この規定により、この規定に該当する納税者は、売上金額のつまみ申告でも重加算税は賦課されないのだろうか。
 はたまた、記帳不備に関しては売上金額の記帳漏れ額の多寡に限定するのだが、経費をとんでもなく過大に記帳した場合は、結果として所得金額は同じように過少申告となる。その場合は規定上過少申告加算税は加重されないことになるが、そうなのか。
 そのうち、執行通達等で取り扱いが具体化されると思われるが、行政罰が法律ではなく通達で適用されるのは問題だ。

   脅しによる けん制

 この一連の動きは、要は、調査官の言うことを聞かないものや、記帳不備者に対するけん制を強化するという税調の議論からきている。もちろん課税庁が仕組んだ議論である。
 「納税環境整備」と称してここ数年連続して、その実態は悪い納税者に掣肘を加えることと、課税庁の調査効率向上をねらう整備が次々と打たれている。何のことはない、「課税環境整備」であり、脅しの強化である。

   日本の課税当局の立脚点

 「北風と太陽」というイソップ寓話がある。これらの動きはまさに「北風政策」だといえる。
 その背景には、日本の課税当局が頑なに忌避している「納税者の権利」に対する哲学がありそうだ。納税は義務であって、納税者に権利なんてないという考えである。
 だから、いまだに日本には「納税者権利憲章」がない。
 そして、義務を果たさない奴は懲らしめるという考えが前面に出る。懲らしめれば、従うであろうという統治哲学。
 税務行政の難題のひとつとして、自営業者の記帳問題と課税正常化があるといわれている。それを「北風政策」で記帳推進と課税正常化に向かわせるということだが、悉皆調査ができるわけではないので、その政策で難題が前進することはないと断言できる。

   韓国の課税当局の立脚点

 韓国は同じ難題に対して「太陽政策」を取っている。
 税務署を機能別中心の組織に改編し、税務署に納税者サービスセンターを設置し、自営業者の支援を行政の課題とした。
 また韓国国税庁は2009年5月から「零細納税者支援団の設置及び運営」を明文化し、税法をよく知らず経営基盤も脆弱で税理士を頼めない零細な納税者の税金問題の解決を助けるために、全国の税務署に「零細納税者支援団」を設置して様々な支援を行っている。
 こうして自営業者の課税正常化を図かり成果も上がっているという。

   あえて言おう

 年に数件の狙い撃ち的調査による脅しとその波及効果(とのぐらい効果があるのか検証すらできない政策)で難題を解決しようという日本と、広範な零細業者を具体的に支援する韓国の難題解決策のどちらがまともな政策というるのか、指摘するまでもないだろう。
 国税庁よ、少しは韓国を見習ったらどうか。