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 令和4年4月1日から、連結納税制度が半ば自動的というか強制的に「グループ通算制度」に移行する。
 連結納税制度がグルーブ通算制度と名前が変わるのだが、別にグループ法人税制というのがあって似たような名前になるので注意してほしい。要は連結納税制度のことだと認識すればよい。単に通算制度という。
 大手会計事務所はこの移行に伴うメリットが大きいとして、通算制度を推奨するとともに、うちに任せれば通算制度のメリットを享受できますと売り込みをかけている。
 会計事務所も商売だから顧客獲得になりふり構わないことは致し方ないが、税制が持つ意味を単なるメリット・デメリットで判断する姿勢にいささか鼻が白む。

 1990年代以降、急速なグローバル化に対する日本資本の立ち遅れが問題となり、組織再編制度、連結会計制度、新会社法などの企業の組織形態に関する法制度が整備された。
 これを受けて、平成13年度以降に連結納税制度を創設し、組織再編税制も実施された。その後、平成22年度改正ではグループ法人税制が創設された。
 これによって、法人税はある意味で別体系の3本の法人税が出来上がった。
 3本とは、単体法人税、連結納税法人税、グループ法人税制の三つである。
 単体法人税は、それ以前の法人税を引き継ぐ所得課税であるので、他の二つの法人税制を簡潔に論じておきたい。

   旧連結納税法人税・新通算制度法人税とは何か

 わかりいいのでここでは連結法人税という。
 連結法人税は、連結各社を一つの会社として課税するのだが、本来単体で課税すべき各社の損益を連結内で損益通算し、各社の欠損金も利用できるのが最大の特徴である。
 この意味するところは、納付法人税を大きく減らすことができることだ。
 大きく利益を出す連結親会社の課税所得が100億円だとすれば、単体課税であれば法人税は30億円(実効税率30%として。以下同じ)の納付となる。しかし、連結子会社が課税所得50億円の赤字であれば法人税は0円となり、各単体課税であれば両社で30億円の法人税が納付となるところだ。
 ところが、連結納税制度では100億円-50億円=50億円が両社合わせての課税所得となり、法人税は両社合わせて15億円の納付で済むことになる。

 この制度の恩恵は財務省が公表している資本金別法人税負担率で明らかになっている。連結法人の法人税負担率は10%台と極端に低くなっている。
 損益通算と、欠損金の利用はこの制度の最大のメリットで、これは大資本がやろうと思えばいくらでも操作できるということも知っておく必要がある。連結の加入・離脱はまったくの任意で、どうにでもできるからだ。
 企業統治が叫ばれているが、この制度を利用して、法人税を免れ、低賃金構造を構築し、独占化を進め、内部留保金をため込んできたのである。

   グループ法人税制とは何か

 この制度はグループ法人に該当すれば、強制適用となる。
 この法人税制の特徴は、グループ内の一定の取引について課税を繰り延べるということである。
 例えば単体法人税では、取得費10億円の資産を20億円で譲渡すれば、10億円が利益となり、3億円の法人税が課税される。

 しかし、グループ法人税制では、グループ内の会社に売れば譲渡益10億円を「繰り延べ」という会計処理をし、課税しない。

 資本主義は正当な競争を本旨とする。だから独占禁止法が用意され、不当な競争は強制的に是正するのだ。
 この売却資産が利益を生む資産だとしよう。通常はそうだ。
 グループ法人税制の適用がない会社同士の売買であれば、売り手会社は法人税納付額3億円が資金の流出となる。
 一方、グループ法人税制の適用を受ける売り手会社は3億円の資金流出はない。この資金は商売で自由に使える。同じ資産の売り手である会社が、結果は資本主義競争において不当な資金格差が生じるのである。

 繰り延べなので、いつかは取り戻して課税されると思うかもしれないが、それは甘い。長期にわたり繰り延べられ、事実上非課税となるに等しく、また、見たようにその時点で法人税負担に大きな差が生じ、それにより事実上それ以降の会社運営に差を生じさせるのだ。
 この税制も大資本にとってはいかようにも利用でき、課税を繰り延べることが容易になる。
 このため、連結納税制度とグループ法人税制には、行為計算否認の規定を置かざるを得ないのだ。実際にこれを利用した利益調整が問題になっている。

   資本不可侵、資本増強
    愚作の転換を

 かいつまんで解説したが、連結納税制度は通算制度としてより利用しやすくなる。こぞって取り入れることになろう。資本とはそういう性向を帯びているからだ。
 要は、通算制度もグループ法人税制も資本不可侵という資本主義国家の哲学に基づく資本増強策で、その法人税制上の措置なのである。

 しかし、この弊害は大きい。
 法人税率を下げ、資本増強の税制を創設し、日本経済はよくなっているのか。答えはノーだ。
 この二つの税制はいわば大企業・大資本を擁護する大企業優遇税制である。その政策を強化してきたが、政策が過ちであることは実証されているではないか。
 法人税収は一層落ち込み、代替増収策として消費税を引き上げざるを得なくなる。こうして日本経済はさらなる消費不況と財政赤字のドツボにはまっていく。
 また、資本の正当な競争が歪められ、新規事業が巻き起こらず、グローバル競争に太刀打ちできない状況になっている。 

 岸田さんは「新しい資本主義」をいう。一つ提案しよう。日本を立て直したいのなら、通算制度とグループ法人税制を直ちに廃止し、法人税は単体課税の本来の法人税とし、法人税率を引き上げるとともに租税特別措置を全廃し、法人税収を思いっきり増強することだ。

 庇護を全廃すれば、日本資本は本気になって競争し、新規投資を行い、増収増益を追求し、そのためには消費を保障する賃上げや利益還元を行うことになる。新たな起業家が正当な資本主義競争の下で競い合い、昔の本田やソニーのような企業も生まれるであろう。こうして、日本資本主義経済は回ることになる。やってみなはれ岸田さん。