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  「環境整備」

 閣議決定される毎年の「税制改正大綱」を読んでいただけれぱ分かると思うが、ほぼ毎年のように「納税環境整備」と題する1項が起こされ、そこにいくつかの改正が盛り込まれている。
 また、大綱の各税目別の項目の中に、「円滑・適正な納税のための環境整備」と題した項目が起こされ、そこにも改正が盛り込まれている。

 共通するのは、「環境整備」である。

 では、「環境整備」という言葉から、みなさんはいかなる事柄を思い描くであろうか。
 納税者が申告や納税で簡便になるといった、納税者にとって利益になるような改正をイメージするのではないだろうか。
 たとえば、押印の廃止。確かに手間は軽減されるが、納税者にとって税の申告と納税に関する本質的な問題ではない。
 ところが、これからいくつか取り上げるが、「環境整備」の名のもとに、納税者に「義務」を押し付ける改正が矢継ぎ早に実施されている。

   二つほど具体的にみてみよう

 令和3年度改正では「納税環境整備」として「電子取引の電磁的記録の保存義務化」が盛り込まれた。
 この改正については「税金ウォッチ145」でも取り上げたが、メールなどでやり取りする取引情報、たとえば請求書や領収書をメールでやり取りする場合、紙の原本をやり取りしなければ「電子取引」になり、メールで送られてきた請求書を自分のパソコンで電子データにより保存しなければならない、と一方的に義務化したのである。
 電子データでの保存がなければ、青色承認の要件である帳簿書類の保存と認められないから、原則的な扱いは青色承認取消しの対象になるというのだ。
 しかも、保存要件が調査する側に極めて都合の良い要件が付されていて、真実性要件と検索要件が具備されていなければならないというのである。
 この要件をクリアするには、システム的に保存する装置が必要となるが、世の中小零細業者にそのような「環境」は整ってはいない。

 とても対応でないとの声が上がるのは当然で、それを受け財務省は急遽2年間の猶予期間を置くことにしたが、2年後の令和6年1月1日からはきっちりやらせてもらうので準備しろと「義務化」強行の姿勢を崩していない。

 納税環境整備で納税者に「義務」を求めること自体いかがなものかと思うが、納税者に対しての事務負担を金銭的にも時間的にもかけなくてすむシステムの無料提供などを行ってから出直して来いといいたい。それでやっと「納税環境整備」というものであろう。

 つぎに取り上げるのは、令和4年度改正の「後出し経費は原則経費と認めない」という「環境整備」である。
 この問題も「税金ウォッチ147」で取り上げたが、調査で売上除外を指摘されたのでよくよく思い返してみると、原価や経費も計上が漏れていたという場合がある。
 今度の改正では、隠蔽仮装や無申告の場合、後出しの原価・経費は本来の帳簿に記帳されているか、それを証する原始記録がある場合は認めてやる。または、取引先がはっきりしていて、税務署が反面調査で原価・経費の付け落ちであることがはっきりする場合は認めてやる、というのである。
 無申告であったり、税金をごまかす納税者に対して、お前たちが悪いのだからこの改正は当然だと思う人もいるかもしれない。
 だが、課税庁に課せられている任務は「適正な課税の実現」である。この意味するところは、質問検査権を行使して、その時点で把握できる正しい課税要件を認定することが課税庁に課せられているということである。
 だからこれまでは、後出しであってもその原価・経費が正しい課税要件を構成するとなれば、課税庁は調査で認容したのである。

 今回の「環境整備」は、後出しが証拠によって証明される場合と、確かにその取引先に原価・経費を支払っていると課税庁が推測し、調査で確認できるときに限って認めるとするのは、事実上納税者側が主体となり、全部そろえてお上にお願いするときに限って認めるということになりかねない。

 これでは、課税庁の調査官の判断一つで取り扱いに差が出てくるであろう。

   納税者の権利に対する時代遅れの日本
 

 証拠のないものまで認めろという話ではない。
 「納税環境整備」の名の下で、納税者に義務を押し付けたり、本来果たすべき任務を持っている課税庁(政府機関)がやりやすいようにすることでいいのか、という問題である。
 最近の傾向は、納税者の権利がいよいよないがしろにされ、義務や課税庁のやりやすさだけがまかり通る「ワンサイドゲームの納税環境整備」になっている。
 政府税調にはそれなりの識者も名を連ねているが、納税者権利憲章や事前救済制度の確立など、本来「納税環境整備」として取り上げられなければならない問題がまったく取り上げられていない。
 日本の租税制度の近代化が「納税環境整備」の下でむしろ前近代性をあらわにし、逆方向に向いているのは余りにも情けない。